雨がザーザー降っていたので、ロッジ玄関に集まってもらい、少しだけ話をしました。今日は短かいバージョンで行うこと、ロッジ玄関のドアに「乙女高原の情報」ホワイトボードがあるので、それを見てもらいたいことなどです。そして、歩き始めました。
とにかく見てもらいたかったのは一面のアヤメ。緑の草原に青紫の映えること。アヤメがたくさん見えるコースを選んで(じつはそれが一番の近道でもあるのですが)歩きました。
もう一つ、見てもらいたかったのはスミレ。7月だというのに、今頃咲くスミレもあります。エゾノタチツボスミレ。スミレというと背が低いというイメージがありますが、このスミレは背高ノッポ。計ってみたら20センチもありました。この時期だと周りの草花も大きくなっています。だから、この時期に咲くエゾノタチツボスミレは自分の背も高くして、適応しているのだと思います。
シカ柵から出るときには、そのドアの「ちょうつがい」にも注目してもらいました。どうしてかって? それは後ほどのお楽しみです。
前半、観察する湿地に到着しました。駐車場のすぐ下の湿地です。
湿地の上から観察しました。まず地形の確認です。湿地の向こう側が高く、こちら側も高くなっていて、真ん中が低く、谷になっています。草原に降った雨がここに集まり、細長い谷に流れ出ているわけです。
そこに、ボーボー頭のような草株が並んでいます。それを見てもらいました。
「秋になったら、どうなると思いますか?」 秋の写真を見てもらいました。今と同じパンクロック系の頭髪です。
「冬になったら・・・?」 初冬の谷地坊主の写真は、ちょっと髪の毛が落ち着いてきた感じです。枯れたからでしょうか。
「ここはとても寒くなるところです。だから、地面の中が凍って・・・」巨大しもばしらの写真を見てもらいました。一番大きなもので高さ60センチというのを見たことがあります。できた霜柱が昼間も溶けないので、段重ねの霜柱になるんですよね。「霜柱は地面を持ち上げる力があるので・・・」と、シカ柵のドアが持ち上げられ、「ちょうつがい」が外れてしまった写真を見せました。さきほど、ドアのちょうつがいをじっくり見てもらったのは、これを実感してもらいたかったからです。柵についている鉄製の棒に、ドアについているパイプを上から入れて、それでドアが動くようになっている「ちょうつがい」なのですが、そのパイプが完全に鉄の棒から浮いてしまっていたのです。地面が10センチも高くなり、あの重たいドアを持ち上げたことになります。じつは、この力が谷地坊主の形成に深く関わっています。
さらに「雪が降るとどうなるかというと・・・」雪が積もると、積もった雪で髪の毛が押さえられるので、髪の毛が落ち着きます。すると、まさにゲゲゲの鬼太郎のような感じになります。その写真を見せました。そんなわけで、冬を経験した春先の谷地坊主が一番、ゲゲゲの鬼太郎に似ています。確かに春の写真はゲゲゲのオンパレードです。
そして、鬼太郎の頭のてっぺんから芽が出て、草が伸びていきます。
それがさらに伸びていって・・・いくつかてっぺんから草が生えている写真を見せましたが、とてもかわいいです。それがさらにさらに伸びて、今のこの姿があるわけです。
このように、絶えず今の姿を確認しながら、四季の写真を使って、谷地坊主の1年間を紹介しました。
いよいよ谷に降りて、谷地坊主を間近に観察しましょう。
湿地の中にはイネやススキのように細長い葉が株になって生えている草が何種類かあります。スゲの仲間です。ちょうど穂が出るシーズンなので、穂を手がかりに見分けてみましょう(穂が出てなくて、葉っぱだけだったら、とても私たちには見分けられないと思います)。幸い、1月の乙女高原フォーラムで、勝山さんから乙女高原のスゲについてのお話を伺っていたので、それをもとに4枚のスゲ紙芝居を作っておきました。
まずは穂がだらーんと垂れている感じのスゲです。湿地の中を見ると、結構たくさんありますが、よく見ると湿地の真ん中よりは縁に多いような気がします。4枚の紙芝居を順番に見てもらいました。「これは違う・・・これも・・・違う・・・あ、これとおんなじだ」皆さんに選んでもらったのはオタルスゲでした。
オタルスゲの体をよく見てもらいました。確かに株になっていて、谷地坊主のように見えますが、葉や茎が生えているのは地面からです。
次に観察したのは茎の先にトゲトゲした穂がついている、ねこじゃらし(エノコログサ)のようなスゲです。他のスゲに比べ、葉が幅広です。数はあまり多くありません。湿地の中にも端にもあります。スゲ紙芝居で同じように調べると、オオカワズスゲでした。オオカワズスゲの身体検査をしてみると、やはり葉や茎は地面から出ていました。
最後に、この湿地に一番多くありそうなスゲです。今までの2種類よりも葉が細く、穂もスリムです。湿地の真ん中に株になって、いっぱいあります。紙芝居で調べてみると、タニガワスゲでした。
身体検査をすると、今までの2つのスゲと違って、葉や茎が生えているところが地面から盛り上がっていて、まさに「頭皮から髪の毛が生えている」って感じでした。そうなのです、これこそが谷地坊主。乙女高原ではタニガワスゲが谷地坊主を作っているのです。
ちなみに、用意したスゲ紙芝居の最後の一枚は、湿地の道端などで見つかるカワラスゲでした。また、参加者のお一人が「これもスゲですか?」と、太くて立派な穂を垂らしている草を見つけてくれました。これ、先週の下見の時に見つけたかったんですよね、ゴウソというスゲです。
3種類のスゲを見比べながら、湿地沿いの道を歩き、丸木橋のところまで来ました。ここは広場になっているので、ここで谷地坊主のでき方について、ホワイトボードを使って説明しました。もっとも、雨でボードが濡れてしまい、うまく書けませんでした。あせりました。
「夏の間、タニガワスゲは大きくなます。根っこも成長してもりもり。地面をがっちりつかんでいます。冬になると、霜柱の原理で地面が持ち上がります。でも、タニガワスゲは根っこがしっかりしているので、切れずに株ごと持ち上がります。冬が終わり、春が来ると、持ち上がった地面のまわりを雪解け水が流れ、土を運んで行ってしまいます。ですが、タニガワスゲの根っこのあるところは、根っこがふんばっているので流されずに残ります。地面が元通りの高さになっても、根っこのあるところだけが高く、まわりは流されて低いのは同じです。こうして、タニガワスゲの株のところだけ少し高くなります。この繰り返しで、毎年毎年少しずつ、谷地坊主は大きくなっていきます」
実際に近くにある谷地坊主を計ってみると、地面から「頭皮」の部分まで47センチの高さでした。最年少の参加者の男の子と比べてみると、腰のあたりまでの高さになります。立派な谷地坊主ですね。
ここで、後半の観察をする谷地坊主フィールドに移動です。後半は山梨高校寮跡地裏の湿地です。
前半の湿地より、より高いところから観察できます。つまり、全体像が観察しやすいのです。
「ここが後半の観察場所です。こちらの木と向こうの木に黄色いテープが付けてあるのがわかりますか? テープからテープの間に、身体測定する谷地坊主を5つ決め、昨年の6月と8月に身体検査をしました。高さや幅を計ったのです。今日の観察会で今年の分の身体測定をし、昨年の記録と比べてみようと思っていたのですが、今日はやめます。ここから谷まで降りるのがたいへんだし、雨でぬかるんでいて、正確なデータが取れないからです」と、昨年の調査票をお見せしました。
「身体検査はできませんが、今日はここで谷地坊主ができる条件について考えてみたいと思います。この下に、谷地坊主がたくさん見えますね? 谷地坊主の谷に沿って歩いていき、『谷地坊主がここからいなくなる』というところで、止まってみてください」
皆さんが歩みを止めたところは、シダが群生しているところでした。確かに、そこから上流には谷地坊主がいっぱい見えますが、そこから下には見えません。
「ここから上と下、何が違うんでしょうか?」
「下には岩がたくさん見えます。上にはありません」「・・・ということは?」
「岩がたくさん見えるということは、岩が残ったということです。残らなかったもの、つまり流れてしまったものは土などです。シダから下は急傾斜になっていて、それで谷川に岩がたくさん見えるのです。急傾斜なところでは谷地坊主まで流されてしまいます。だから、そもそも谷地坊主はありません。一方、シダから上は緩い傾斜ですから、谷地坊主のまわりの土は流されても、谷地坊主は流されません。ここでは、谷地坊主ができます。では、もっとなだからで、水がたまっているようなところだったら・・・? 谷地坊主のまわりの土が流されないので、谷地坊主自体もできないのです!!」
ただ湿地があればいいというわけではなく、絶妙な流れのところにしか谷地坊主は生まれないということをお伝えしたかったのです。伝わったでしょうか?
雨が降り続き、参加した子どもたちももう限界と判断し、ここで観察会を終了しました。
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