オレンジな日々

広島在住のシンガーソングライター&ピアニスト
三輪真理(マリ)のブログです。
音楽大好きな日常を綴っています。

森沢明夫著『きらきら眼鏡』(ちょっとネタバレあり)

2017-11-18 | おすすめ本

森沢明夫の『きらきら眼鏡』という小説を読みました。
ぱっきぱきの恋愛小説。
そして久々に恋愛小説を読んで泣いてしまいました(笑)。


ここからは多少ネタバレありです。
これから読もうという人はご注意くださいね。


主人公の立花明海は25歳。あまり仕事のできない入社3年目のタイプのサラリーマン。
子どもの頃にいじめられた経験があるトラウマを抱えたちょっとナイーブな青年。
同期(のお姉さん)から譲り受けたペロという猫が死んで、ペットロスになってぼーっとしている時にたまたま出会った一冊の自己啓発系の本。その本に挟まれていた栞代わりの名刺の大滝あかねという名前の女性と運命の出会いをするというストーリー。


「こんな恋愛、ないっしょ!?」ってツッコミたくなるんですけど、これが「船橋」というリアルな場所とその街の様子や登場人物のその時々の気持ちまで丁寧に描いた文章のせいで、もしかしたら本当にこんな場所があってこの主人公の明海もあかねもこの街に実在するんじゃないかって気にさせるから不思議。


森沢さんの小説を読んだのは初めてだけど、これまで何作品か映画になっているそうで、この丁寧な描写を読めば、確かに「これを映画にしたい」って思う人の気持ちもわかる。
とにかく描写が細かくて丁寧。


「きらきら眼鏡」は大滝あかねがちょうど1年前から、かけることにしたという架空の眼鏡。
「視界に入ったものすべてを、きらきら輝いたものにしてくれる眼鏡」だそう。


「それはなんだか子どもじみた遊びのようでもあるけれど、でも、よくよく考えてみれば、人生の価値を決めるのは、その人に起こった事象ではなくて、そのひとが抱いた感情なのだ。あかねさんのように、この世のきらきらした部分にフォーカスして、きらきらした感情を丁寧に味わえたなら、人生の幸福度は限りなく百点満点に近づいていくだろう」という明海の心象を描いた文章も、確かに25歳くらいの男子が思うかもしれない描写。


そしてその後ストーリーは、どうしてあかねが「きらきら眼鏡」をかけることにしたのかを明海が知ることになるという流れになるのだけど、ここから先は触れずにおきます。


読みながら、私自身も色々感じることがありました。
私はこの丁寧に書かれた森沢さんの文章にとても惹かれたこと、そしてこの小説に出てくるような何気ない、だけど素敵な会話を誰かとしたいなあと思ったこと。


「安物のサンダルをつっかけて、深夜の庭に出た。庭といっても、それはワンルームマンションの一階の住民に割り当てられた、猫の額ほどの地面だ。時折、南から夜風が吹いて、東京湾の潮の匂いを運んでくる。僕は、まだ土の付いていない、下ろしたてのスコップを手にした。金属のグリップは、妙にひんやりとしていて、なんとなくスコップに拒絶されているような気がした。しかも、わざわざ軽量タイプを選んで買ったのに、今のぼくには少しも軽くは感じられない。」という書き出し。


ちょっと描写は細かすぎて、ウザい?かな・・って最初は思ったけど、これくらい描写しないと誰かとイメージを共有することのできにくい時代になってしまったのかもね・・・。


私たちはいろんな体験や経験を言葉にして脳にインプットしていくものだけれど、現代のように、リアルに誰かと声を出して会話をするよりもスマホの画面で会話をする人たちは、生身の肉体の経験が明らかに不足して、何か実体のないふわふわした感覚で生きてる人も多いんじゃないかなあって感じます。


そんなふわふわな人たちにとっては現実の人生って泥臭くてそれこそ「ウザイ」かもしれないけど、人間ってそういう「ウザイ」ことをたくさん経験するためにこの世に生まれてきたんだと思うから、正面からがっつり向き合って泣いたり笑ったりしながら生きていかないと勿体ないって思います。
リアルな人生は小説のようにドラマチックでもないし都合がいいことばかりとも限らないけどね(笑)。


「自分の人生を愛せないと嘆くなら、愛せるように自分が生きるしかない。他に何ができる?」


この本の中に出てきたこのフレーズが全てを物語ってますね。
『きらきら眼鏡』はもうすぐ映画化されるそうです。
関連HPはこちら。楽しみです。


きらきら眼鏡
森沢 明夫
双葉社