峰の嵐か、松風か。訪ぬる人の、琴の音か。駒引き止めて、立ち寄れば、爪音高き、想夫恋。
福岡県民謡、黒田節の二番の句だ、これは。
想夫恋というのは、琴の曲名だろうか?
お爺さんはこの民謡が好きだ。情けが深い。情けをおし忍んで、よく歌っている。誰もいないところで。すると峰の松風が聞こえて来る。
峰の嵐か、松風か。訪ぬる人の、琴の音か。駒引き止めて、立ち寄れば、爪音高き、想夫恋。
福岡県民謡、黒田節の二番の句だ、これは。
想夫恋というのは、琴の曲名だろうか?
お爺さんはこの民謡が好きだ。情けが深い。情けをおし忍んで、よく歌っている。誰もいないところで。すると峰の松風が聞こえて来る。
此処は下関です。わたしは今夜は下関に泊まっています。満珠荘という宿です。
二階がエントランス。レストラン。その下の階が大浴場。その下に泊まる部屋がならんでいます。
どの階からも海峡が見えます。お風呂に浸かりながらでも。レストランで夕食しながらても。部屋からはやや見えにくいけど。夜の海を行き交う貨物船の響きが伝わって来ます。
午前3時。目が覚めてしまいました。船の響きを聞いています。
このお爺さんは、よく歌を歌う。民謡を歌う。この頃はまってるのが、佐渡おけさ。
ハアー、雪の、新潟、吹雪いて暮れるよ。は、ありゃありゃありゃさ。佐渡は寝たカヨ、灯が見えぬ。
佐渡島は新潟からは見えない。遠く遠く離れている。だから、吹雪いていようと晴れていようと。夜であろうと昼間てあろうと。見えない佐渡を思う。人は、それでも思う。思いたがる。
恋しい人を思いたがる。生きていればみなそうするはずだ。
お爺さんは、車を運転しながら、民謡を歌う。声を張り上げて。