けふの朝、父は 「文子、カツプ焼き蕎麦を作れ」といつた。
カツプ焼き蕎麦などといふものは、向島にはあらう筈も無い。
しかし「無い」といへば 父がだうするか わかつているし、
義母に 言へば忽ち 機嫌を悪くするだらう。
私は 伝手を頼りに 「カツプ焼き蕎麦」なるものを
やうやく手にいれ、
説明書きを 見つつ こわごわと 支度にかかつた。
薬缶に 湯をわかさうとしたが、
説明書きでは 何合何勺の湯がいるかわからぬ。
湯が足りずとも 余るとも
父が 怒り出すのはわかつていた。
「お前は 自分が使う湯の量もわからぬのか」と怒号が飛ぶ。
手はかりで 見当をつけ、湯を注ぎ、
時間をはかつたが、湯切りは わかつたものの、湯をどこに捨てたらよいのか
とんとわからぬ。流しに湯を流すのは 水屋を汚すことになる。
まよつたすゑに、葉物を洗うたらいに 湯をあけ、
あとから 庭の隅に 流すことにした。
父は 「おお、これが カツプ焼き蕎麦か。」と
マイヨネットソウスを かけて ご満悦の様子で
私は 安堵したのであった。
カツプ焼き蕎麦などといふものは、向島にはあらう筈も無い。
しかし「無い」といへば 父がだうするか わかつているし、
義母に 言へば忽ち 機嫌を悪くするだらう。
私は 伝手を頼りに 「カツプ焼き蕎麦」なるものを
やうやく手にいれ、
説明書きを 見つつ こわごわと 支度にかかつた。
薬缶に 湯をわかさうとしたが、
説明書きでは 何合何勺の湯がいるかわからぬ。
湯が足りずとも 余るとも
父が 怒り出すのはわかつていた。
「お前は 自分が使う湯の量もわからぬのか」と怒号が飛ぶ。
手はかりで 見当をつけ、湯を注ぎ、
時間をはかつたが、湯切りは わかつたものの、湯をどこに捨てたらよいのか
とんとわからぬ。流しに湯を流すのは 水屋を汚すことになる。
まよつたすゑに、葉物を洗うたらいに 湯をあけ、
あとから 庭の隅に 流すことにした。
父は 「おお、これが カツプ焼き蕎麦か。」と
マイヨネットソウスを かけて ご満悦の様子で
私は 安堵したのであった。
もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら | |
クリエーター情報なし | |
宝島社 |
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます