知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

CAD図面の著作物性の判断事例

2009-07-20 18:01:57 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)13494
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成21年07月09日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次

1 争点1(本件CAD図面の著作物性)について
(1) はじめに
 著作権法は,「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定めており(2条1項1号),思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体でないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作権法によって保護することはできず,これを著作物ということはできない。
 原告は,創作1ないし11eを具備することを根拠として本件CAD図面が著作権法上保護される著作物であると主張しているので,まず,上記観点に照らして創作1ないし11eが本件CAD図面の著作物性を根拠づけるものといえるかについて総括的に検討し,続いて,個別の本件CAD図面について,その著作物性を判断するために必要な検討を加えることとする。

・・・

(3) 本件CAD図面の著作物性の検討方法
ア 以上に検討したとおり,原告が主張する創作作1,5ないし10,11b,11c,11d,11eは,いずれもアイデアそのものであって表現に当たらないものであるか,表現であっても極めてありふれたものにすぎず,それ自体として創作性のある表現であることを基礎づけるものとはなり得ないものである。
 しかし,創作2ないし4及び11aに関しては,その表現内容いかんによっては,創作性を認める余地がある。そこで,以下,個別の本件CAD図面を確認して表現上の創作性の有無を判断することとする。

イ ところで,前記前提事実のとおり,P 1は,被告から交付された本件カタログ及び一部被告製品の現物に依拠して本件CAD図面を作成したものである。そうすると,本件カタログに描かれている被告製品の図面が図形の著作物に当たるか否かはともかく,本件CAD図面のうち上記図面を通常の作図方法に従って再現した部分には創作性を認める余地がなく,これに新たに付与された創作的部分のみについて著作権が生ずるものと解される。

 したがって,本件CAD図面が本件カタログに描かれている被告製品の図面の内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したものにすぎないものであるか,又は何ら創作的な部分を付与したものでなければ,本件CAD図面が著作権による保護の対象とはならない。また,P 1は,一部被告製品にも依拠して本件CAD図面を作成したものである。したがって,本件CAD図面のうち被告製品の現物を通常の作図法に従って再現した部分にも創作性が認められず,これに新たに付与された創作的部分のみについて著作権が生じることは,上記同様である

 この点,原告は,本件CAD図面は,プリント出力される以前にコンピューター内で完成しているコンピューター創作物であり,本件カタログとは表現形式が全く異なるから,本件カタログは本件CAD図面の著作物性の有無を判断する対象とはならないと主張する。
 しかし,本件において創作性を認める余地のある創作2ないし4及び11aは,いずれもCAD図面に係るデータ構成上の創意工夫ではなく作図上の創意工夫であることが明らかであり,P 1は本件カタログの被告製品の図面に依拠して本件CAD図面を作成したのであるから,本件CAD図面と本件カタログの図面を対比するのは当然というべきである。

ウ また,本件CAD図面は,主として,CADによって設計業務を行う際にCAD化された被告製品の設計図への取込みを可能にすることを目的として作成されたものであるから,被告製品の形状,寸法等を把握できるよう,通常の作図法に従い正確に描かれている必要があるから,具体的な表現に当たってP 1が個性を発揮することができる範囲は広くないといえる。
 そうすると,本件CAD図面と本件カタログの図面に相違部分があったり,本件CAD図面に本件カタログにはない図が追加されていたとしても,当該相違部分や追加された図が通常の作図法とは異なる方法で表現されているなど,P 1の個性の現れを基礎付ける具体的な事実が立証されない限り,その部分に表現上の創作性を認めることはできないというべき
である。
エ 以下,個別の本件CAD図面について,上記イ,ウの観点に照らして創作2ないし4及び11aに関する原告の主張を検討し,著作物性を判断することとする。