知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標の「使用」とは

2010-11-28 22:02:35 | 商標法
事件番号 平成20(ワ)34852
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年11月25日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

1 争点1(本件商標権の侵害行為の有無)について
 商標の本質は,当該商標を使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの(商標法3条2項)として機能すること,すなわち,商品又は役務の出所を表示し,識別する標識として機能することにあると解されるから,商標がこのような出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているといえない場合には,形式的には同法2条3項各号に掲げる行為に該当するとしても,当該行為は,商標の「使用」に当たらないと解するのが相当である。

 ・・・

(イ) 前記(ア)の認定事実と前記(1)及び(2)イの認定事実を総合すれば,被告チラシ5に接した学習塾の需要者である生徒及びその保護者においては,被告標章5の「塾なのに家庭教師」の語は,別紙5のウェブページにおける「TKGの特色」の標章及びその下の「塾なのに家庭教師,それがTKG」の標章,集団塾の長所及び短所と家庭教師の長所及び短所を対比した説明文(前記(ア)b)などの他の記載部分と相俟って,学習塾であるにもかかわらず,自分で選んだ講師から家庭教師のような個別指導が受けられるなど,集団塾の長所と家庭教師の長所を組み合わせた学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であると認識し,他方で,その役務の出所については,画面左上部に表示された「TKG」の標章(前記(ア)a)から想起し,「塾なのに家庭教師」の語から想起するものではないものと認められる。
 ・・・

 そうすると,被告標章5が被告ウェブサイトにおいて役務の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから,被告ウェブサイトにおける被告標章5の使用は,本来の商標としての使用(商標的使用)に当たらないというべきである。

認定した複数の相違点に重複する構成要素が含まれている場合

2010-11-28 21:26:40 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10072
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

・・・また,本件審決は,相違点2として評価した事項と実質的に同一の事項を相違点3としても評価していることになり,これは,実質的に同一の事項を本件発明1の進歩性を肯定する要素として二重に評価するものであって,不当な判断であると主張する。

(イ) しかしなから,発明の進歩性の判断において,判断対象となる発明と引用発明との間に複数の相違点が認定された場合において,仮にこれらの相違点に重複する構成要素が含まれていたとしても,各相違点ごとにその容易想到性の有無が適切に判断される限り,各相違点に重複する構成要素が含まれていることによって進歩性の判断に誤りが生ずるものではないから,複数の相違点において重複する構成要素が含まれていることのみをもって,当該進歩性の判断が違法となるものではない

引用例2の周知技術への置き換えを特許法157条の趣旨にも反するとした事例

2010-11-28 21:17:50 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10191
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

・・・引用発明1における短波長レーザであるエキシマレーザは,アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,波長0.8μm付近の発光スペクトルを持たない上に,半導体レーザとは異なる種類のレーザである(乙2,3)。このようなエキシマレーザを,「・・・0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザ」という,種類の異なる短波長レーザに置き換える点の容易想到性を判断するに際し,引用例2に代えて周知技術で置き換えるという理由の差替えを,審判段階ではなく,訴訟段階に至ってから特許庁の側が行うことは,審決に理由を付することを義務づけた特許法157条の趣旨にも反するものであり,許されないといわざるを得ない。

 なお,審決取消訴訟において,審判の手続で審理判断された刊行物記載の発明との対比における進歩性の有無を認定して審決の適法,違法を判断するにあたり,審判の手続には現れていなかった資料に基づき当業者の特許出願当時における技術常識を認定し,これによって同発明の持つ意義を明らかにすることは許されるとしても(最高裁昭和54年(行ツ)第2号同55年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号80頁参照),刊行物記載の発明と公知技術との組合せにより容易に発明できたという理由を,技術常識の名の下に刊行物記載の発明から容易に発明できたという理由に差し替えることが許されるとまで解することはできない

類似品や模倣品の存在によっても立体的形状自体の自他商品識別力は失われないとした事例

2010-11-28 20:45:55 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10169
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(ウ) 被告は,上記イ(キ) に関し,取引の実情において,他社の類似する形状の包装用容器が多数存在すること,それにもかかわらず,原告が他社の類似容器の存在に対し適切な処置を講じてこなかったことを問題視する。

 しかし,市場に類似の立体的形状の商品が出回る理由として,通常は,先行する商品の立体的形状が優れている結果,先行商品の販売の直後からその模倣品が数多く市場に出回ることが多いと認められるところ,取引者及び需要者がそれらの商品を先行商品の類似品若しくは模倣品と認識し,市場において先行商品と類似品若しくは模倣品との区別が認識されている限り,先行商品の立体的形状自体の自他商品識別力は類似品や模倣品の存在によって失われることはないというべきである。

 そして,本件においては,前記認定のとおり,原告商品「ヤクルト」は,乳酸菌飲料の市場における先駆的商品であり,著名なデザイナーにデザインを依頼し,最初に本件容器の立体的形状を乳酸菌飲料に使用したものであり,現在市場に出回っている容器の立体的形状が類似する商品はその後に登場したものであると認められること,数多くの類似品の存在にもかかわらず,本件容器の立体的形状に接した需要者のほとんどはその形状から「ヤクルト」を想起する,という調査結果が存するのであるから本件においては,市場における形状の独占性を過剰に考慮する必要はないというべきである。

類似品や模倣品の存在によっても立体的形状自体の自他商品識別力は失われないとした事例

2010-11-28 20:45:55 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10169
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(ウ) 被告は,上記イ(キ) に関し,取引の実情において,他社の類似する形状の包装用容器が多数存在すること,それにもかかわらず,原告が他社の類似容器の存在に対し適切な処置を講じてこなかったことを問題視する。

 しかし,市場に類似の立体的形状の商品が出回る理由として,通常は,先行する商品の立体的形状が優れている結果,先行商品の販売の直後からその模倣品が数多く市場に出回ることが多いと認められるところ,取引者及び需要者がそれらの商品を先行商品の類似品若しくは模倣品と認識し,市場において先行商品と類似品若しくは模倣品との区別が認識されている限り,先行商品の立体的形状自体の自他商品識別力は類似品や模倣品の存在によって失われることはないというべきである。

 そして,本件においては,前記認定のとおり,原告商品「ヤクルト」は,乳酸菌飲料の市場における先駆的商品であり,著名なデザイナーにデザインを依頼し,最初に本件容器の立体的形状を乳酸菌飲料に使用したものであり,現在市場に出回っている容器の立体的形状が類似する商品はその後に登場したものであると認められること,数多くの類似品の存在にもかかわらず,本件容器の立体的形状に接した需要者のほとんどはその形状から「ヤクルト」を想起する,という調査結果が存するのであるから,本件においては,市場における形状の独占性を過剰に考慮する必要はないというべきである。

立体商標に商標法3条2項の適用を肯定した事例

2010-11-28 20:22:30 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10169
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(2)ア ところで,商標法3条2項は,「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨規定している。したがって,本願商標のように,「その形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」であって同法3条1項3号に該当する場合であっても,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」に至ったときは,商標登録が許されることになる。

 そして,本願商標のような立体的形状を有する商標(立体商標)につき商標法3条2項の適用が肯定されるためには,使用された立体的形状がその形状自体及び使用された商品の分野において出願商標の立体的形状及び指定商品とでいずれも共通であるほか,出願人による相当長期間にわたる使用の結果,使用された立体的形状が同種の商品の形状から区別し得る程度に周知となり,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っていることが必要と解される。
 この場合,立体的形状を有する使用商品にその出所である企業等の名称や文字商標等が付されていたとしても,そのことのみで上記立体的形状について同法3条2項の適用を否定すべきではなく,上記文字商標等を捨象して残された立体的形状に注目して,独自の自他商品識別力を獲得するに至っているかどうかを判断すべきである。

・・・

ウ 以上によれば,本件容器を使用した原告商品は,本願商標と同一の乳酸菌飲料であり,また同商品は,・・・,特に,本件容器の立体的形状を需要者に強く印象付ける広告方法が採られ,発売開始以来40年以上も容器の形状を変更することなく販売が継続され,その間,本件容器と類似の形状を有する数多くの乳酸菌飲料が市場に出回っているにもかかわらず,最近のアンケート調査においても,98%以上の需要者が本件容器を見て「ヤクルト」を想起すると回答している点等を総合勘案すれば,平成20年9月3日に出願された本願商標については,審決がなされた平成22年4月12日の時点では,本件容器の立体的形状は,需要者によって原告商品を他社商品との間で識別する指標として認識されていたというべきである。

 そして,原告商品に使用されている本件容器には,・・・原告の著名な商標である「ヤクルト」の文字商標が大きく記載されているが,上記のとおり,平成20年及び同21年の各アンケート調査によれば,本件容器の立体的形状のみを提示された回答者のほとんどが原告商品「ヤクルト」を想起すると回答していること,容器に記載された商品名が明らかに異なるにもかかわらず,本件容器の立体的形状と酷似する商品を「ヤクルトのそっくりさん」と認識している需要者が存在していること等からすれば,本件容器の立体的形状は,本件容器に付された平面商標や図柄と同等あるいはそれ以上に需要者の目に付きやすく,需要者に強い印象を与えるものと認められるから,本件容器の立体的形状はそれ自体独立して自他商品識別力を獲得していると認めるのが相当である。

商標法7条の2第1項柱書きの趣旨

2010-11-28 10:04:28 | Weblog
事件番号 平成21(行ケ)10433
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(7条の2第1項の解釈の誤り)について
(1) 原告は,・・・,地域団体商標(7条の2)の制度は地域振興等を目的として創設されたもので,3条2項の登録要件を緩和したものであるから,7条の2第1項にいう「使用をされた結果自己又はその構成員に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識された」は,需要者において,当該商標が使用された商品ないし役務が,誰の業務に係るものか全く判然としないものではないという意味で,一定の団体又はその構成員の業務に係るものであることが広く認識されていれば足り,当該商標から生産・提供される地域(産地)の識別ができる程度であれば十分であって,特定の者である出願人又はその構成員の業務に係る商品ないし役務に係るものであることまで広く認識されている必要はない,というものである。

(2) 7条の2が定める地域団体商標の制度が設けられたのは,・・・,これらの不都合を解消して上記のとおりの地域の名称と商品ないし役務の名称等からなる文字商標の登録を許容して,地域の産品等についての事業者の信用の維持等を実現する趣旨のものである。

 そして,1項柱書で,当該「商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」ことが要求されているのは,上記のとおり地域の名称と商品ないし役務の名称等からなる文字商標である地域団体商標の登録をすると,構成員でない第三者による自由な商標(表示,名称)の使用が制限されることになるので,かかる制限をしてまでも保護に値する程にまで,出願人たる団体の信用が蓄積されている商標であるか否かを峻別するためであり,あるいは構成員でない第三者による便乗使用のおそれが生じ得る程度に,出願人たる団体の信用が蓄積されている商標であるか否かを峻別するためであると解することができる。

 この点,1項柱書にいう,「商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」こととの要件につき,原告は,前記(1)のとおり主張する。

 なるほど,3条2項で同条1項各号で登録できないとされている商標が,使用により登録が認められるとしても,「何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」との要件,すなわち識別力を発揮できるまでの程度の要件を充たさなければならないのに対し,7条の2第1項柱書では,使用により「自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」との要件を充たすことを要件としており,前記の地域団体商標の立法経緯を踏まえてみると,後者の要件は前者の要件を緩やかにしたものと解するのが相当ということになる。

 しかし,この要件緩和は,識別力の程度(需要者の広がりないし範囲と,質的なものすなわち認知度)についてのものであり,当然のことながら,構成員の業務との結び付きでも足りるとした点において3条2項よりも登録が認められる範囲が広くなったのは別としても,後者の登録要件について,需要者(及び取引者)からの当該商標と特定の団体又はその構成員の業務に係る商品ないし役務との結び付きの認識の要件まで緩和したものではない

 この登録要件は法律の解釈上導かれるものであり,立法経過や立法趣旨にも反するものではない。