知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

成立性を特定された発明全体で判断すべきとした事例

2009-06-25 07:27:42 | 特許法29条柱書
事件番号 平成20(行ケ)10279
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年06月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


3 特許法29条1項柱書にいう「発明」性の有無について
・・・
(2) 特許法29条1項柱書は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明については特許を受けることができる」と定め,その前提となる「発明」について同法2条1項が,「この法律で『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と定めている。

 そうすると,本件訂正発明1~5が,①産業上利用できる発明ではない場合,②自然法則を利用した発明でない場合,③技術的思想の創作となる発明でない場合,④技術的思想の創作のうち高度なものでない場合,のいずれかに該当するときは,同法29条1項柱書にいう「発明」に該当しないことになる(なお原告は,前記のとおり,本件訂正発明1~5が上記①及び④には該当しないことを自認している)。

 ところで,本件訂正発明1~5は,前記のようにスロットマシン等の遊技機に関する発明であって,そこに含まれるゲームのルール自体は自然法則を利用したものといえないものの,同発明は,ゲームのルールを遊技機という機器に搭載し,そこにおいて生じる一定の技術的課題を解決しようとしたものであるから,それが全体として一定の技術的意義を有するのであれば,同発明は自然法則を利用した発明であり,かつ技術的思想の創作となる発明である,と解することができる。
 そこで,以上の見地に立って本件訂正発明の特許法29条1項柱書にいう発明該当性について検討する。

(3) 前記2のとおり,本件訂正発明1~5は「遊技機」という機器に関する
発明であり,上記ゲームのルールを機器に定着させたもの(・・・)であるから(・・・),全体として本件訂正発明1~5は,自然法則を利用した発明であり,かつ技術的思想の創作となる発明であるというべきである。

(4) 原告の主張に対する補足的判断
ア 原告は,特許法39条,29条の2,29条1項及び2項の特許要件を判断するに際し,2つの発明を対比する場合に,周知慣用技術等を除外して検討することを挙げ,それと同様に特許法29条1項柱書の要件についても,「技術的に意義のある部分」について,自然法則利用の有無や技術的思想の創作該当性を判断すべきであると主張する。

 しかし,前記のように,特許法2条1項が「『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定め,同法29条1項柱書において,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明について特許を受けることができる。」とした上で,「次に掲げる発明」として,1~3号に公知発明等を挙げている。

 このような特許法の規定の仕方からすると,特許法は,特許を受けようとする発明が自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものであり,かつ産業上利用することができるものであるかをまず検討した上で,これらの要件を満たす発明であっても公知発明等に当たる場合には特許を受けることができないものと定めていると解すべきである。

 そうすると,特許法29条1項柱書該当性の判断に当たっては,特許法39条,29条の2,29条1項及び2項のように,2つの発明を対比することにより特許要件の有無を判断する場合とは異なり,特許請求の範囲によって特定された発明全体が自然法則を利用した技術的思想の創作に当たるかどうかを全体的に検討すべきであって,公知発明等に当たらない新規な部分だけを取り出して判断すべきではないと解される。原告の主張は独自の論理に基づくものであって,採用することができない。