知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

当事者系審判の形式的当事者訴訟の性格

2008-07-07 07:27:05 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10338
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年06月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹

(3) ところで,特許無効審判等,いわゆる当事者系審判に係る審決の取消訴訟は,特許庁長官ではなく,当該審判における相手方を被告らとして提起すべきものとされている点で,形式的当事者訴訟の性格を有することは明らかであり,また,形式的当事者訴訟は,本来抗告訴訟の性格を有する訴訟について,政策的配慮に基づき,処分庁(あるいは,処分庁の属する行政主体)に代えて,処分手続における対立当事者に被告適格を認めたものであることを考慮すると,本件のような特許無効審判に係る審決の取消訴訟において,被告らが審決の判断の誤りを主張することは背理であり,許されないとする考え方にも一理あるところといえる。

 他方,このような主張が許されないとする実定法上の根拠は見当たらず,また,当該主張が,審決の結論を結果的に維持することを目的とするものであることを考慮すれば,許されないとするには及ばないとの考え方もあり得るところである。

 しかるところ,仮に,被告らはこのような主張をすることができると解するとしても,本件においては,上記(1),(2)のとおり,被告らの主張には理由がないのであるから,結局,いずれの考え方を採用したとしても,本判決の結論に差異が生ずるものではない。すなわち,本件における被告らの主張は,上記の問題に関する考え方のいかんに関わらず,いずれにせよ失当といわざるを得ない。

一部の請求項に係る発明の拒絶理由で拒絶されること

2008-07-07 07:26:33 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10020
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年06月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官中野哲弘


8 取消事由5(請求項2以外の請求項に係る発明についての審理不尽)について
(1) 本願に適用される平成14年法律第24号による改正前の特許法49条は,次のとおり規定している。
・・・
また,特許法51条は,次のとおり規定している。
・・・

(2) 以上の規定によれば,特許法は,特許出願ごとに,その出願に係る発明について特許法29条等により特許をすることができないものが存するときは,拒絶の査定をし,そのような拒絶の理由を発見しないときは,特許をすべき旨の査定をしなければならないと規定していると解することができる。
 したがって,その出願に係る発明中に特許法29条等により特許をすることができないものが存するときは,その特許出願は全体として拒絶されることになるのであって,その理は,審査官による審査においても拒絶査定不服審判においても異なるところはないものと解される。

(3) そして,上記(2)のように解したからといって,特許法1条が規定する発明保護の目的や衡平の原則に反することはないし,民法1条2項及び民訴法2条に定められている信義誠実の原則に反することもない。
 拒絶査定を受けた出願人は,基本手数料に加え,請求項数に一定額を乗じた金額を納付しなければ拒絶査定審判を受けることができないこと(特許法195条2項別表「11」)は,特許がされる場合にすべての請求項について審理判断がされることに対応するものであって,上記(2)の解釈が信義誠実の原則に反することを基礎付けるものではない

 また,上記(2)のように解したからといって,特許法49条が定める拒絶理由がなければ,その出願に係る発明すべてについて特許を受けることができるのであるから,「密接に関連する一群の発明をもれなく一つの出願に含めて記載することができるように」し,「単一性の要件を満たす限り,同一発明か別発明かの区別をなくすることによって出願手続の簡明化等を図ることができるようにする」との多項性の趣旨が没却されるとも解されない。

 特許庁の審査基準(甲22)では,「拒絶査定に際しては,解消されていないすべての拒絶理由を示すとともに,その拒絶理由がどの請求項に対して解消されていないのかがわかるように,簡潔かつ平明な文章で記載する。」とされており,また審査ハンドブック63.06には「拒絶の理由を発見しない請求項を含む出願について拒絶理由を通知する場合には,…拒絶の理由を発見しない請求項を明示する」と記載されているとしても,これらの扱いは,拒絶理由通知及び拒絶査定において出願人の便宜を図る観点から規定されたものと解され,上記(2)のように解することを左右するものではない

 さらに,原告らは,上記(2)のように解すると,無用な分割手続が増えて審判経済,訴訟経済に反するとか,審決時に各請求項ごとの判断が明記されていれば,分割出願について審査請求をしないという選択肢も考えられるとも主張するが,既に述べた特許法の解釈からすると,一部の請求項に拒絶理由があるために特許出願全体が拒絶されることを避けるために分割出願の手続を採ることは,出願人にとって有用な方法であって,それをもって審判経済,訴訟経済に反するということはできないし,また,審決時に各請求項ごとの判断が明記されていれば,分割出願について審査請求をしないということがあり得るかもしれないが,特許法は,そのような目的のために審決において請求項すべてについて判断をするとの制度を採用しているものではないことは明らかである。