知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

文言や連携する構成の技術的意義を表面的に評価した審決が取り消された事例

2008-03-02 22:50:46 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10255
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『1 取消事由1(本件発明1と甲1発明の相違点の認定の誤り)について
(1) 原告は,甲第1号証には,嵌挿部材15と同じ形状もしくは同様の形状をもつ杭の頭が,嵌挿部材15と同様にチャック9の穴に嵌合されることが記載されており,甲第1号証に記載されるチャック9は「杭上部に被せるための嵌合部」を具備するものであるから審決がこの点を本件発明1と甲1発明の一致点として認定せず,「相違点2」として「・・・。」を認定したことは誤りである旨主張するので,以下,検討する。

(2) 上記第2の2のとおり,本件発明1は「杭上部に被せるための嵌合部」と規定するものではあるが,「嵌合部」の形状や嵌合の状況について特段限定していない。平成3年11月15日株式会社岩波書店発行の「広辞苑第4版」によると,「嵌合」とは,「はめあい」を意味するものであるとされ(574頁),「はめあい」とは「〔機〕軸が穴にかたくはまり合ったり,滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語。かんごう。」であるとされ(2098頁),「穴(・孔)」とは「①くぼんだ所。または,向うまで突き抜けた所。・・・」とされている(60頁)。

 そうすると,特段の事情のない限り,本件発明における「嵌合」の意義についても,上記の一般的な語義に従い,「軸がくぼんだ所にかたくはまり合ったり,滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係」を意味し,本件発明1の「嵌合部」とは,そのようにして軸がはまる「穴」,すなわち,「くぼんだ所」のことを意味するものと理解することができ,これを別異に解すべき特段の事情を認めることはできない

(3) 甲第1号証の2には,次の各記載がある。
・・・

(4) 上記(5)の各記載によると,甲1発明のチャック9は嵌挿部材15を嵌挿するものであり,・・・,杭はその上部がチャック9に嵌挿されるものであることが認められる。
 そうすると,チャック9が杭上部に被せるための「くぼんだ所」を有すること及び杭上部とチャック9の「くぼんだ所」が「はまり合う」関係にあることは明らかであり,チャック9は「杭上部を被せるための嵌合部」を有するものと認められる。

・・・

 したがって,審決が,この点を本件発明1と甲1発明の相違点として認定し,「埋込用アタッチメント[杭打込み装置5]が有する杭保持部の構成及び当該杭保持部に(穿孔装置[アースオーガ13]を)着脱可能に取り付ける構成に関して,本件発明1が,杭保持部を『杭上部に被せるための嵌合部(15)』として構成し・・・ているのに対し,甲1発明は,杭保持部を(油圧シリンダ11により強固に固定する)『杭保持用のチャツク9』として構成し・・・ている点。」を「相違点2」とした点は誤りであるというべきである。』

『2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 審決は「甲1発明における『杭保持用のチャツク9』に代えて,甲第3号証に記載の埋込用アタッチメント〔ハンマー部材(4)〕の嵌合部である『筒状部(11)』,すなわち,杭上部に被せるための『嵌合部』を用いるものと単に変更することは,当業者が容易に想到し得たことということができる。」としながら,「このような変更をすると甲1発明では・・・『杭保持用のチャツク9』に・・・嵌挿部材15を嵌挿するとともに,当該穿孔装置〔アースオーガ13〕の上部両端部に設けた係合装置18を用いて着脱可能に構成していたのであるから,このような穿孔装置〔アースオーガ13〕の着脱可能な取り付けが他方でできないことになり,結果として,相違点2に係る本件発明1の構成は得られないこととなる。」と判断しているが,原告は,係合装置18は,チャック9に嵌合された杭上部をさらに把持する機能として付加されたものであり,これに代えて別の手段を採用することに問題はない旨主張する。

(2) ・・・。

 甲1発明の係合装置18について,甲第1号証の2には,上記1(3)ウで認定したとおり,「オーガ13と,チヤツク9の嵌挿であるが,・・・,チヤツク9内の油圧シリンダ11でもつて強固に固定するようにし,さらにオーガ13の上部両端部に油圧等で作動する係合装置18を設け,より確実に一体化が図れるようにし,オーガ13は前記チヤツク9の油圧シリンダ11と係合装置18をはずすことによつて離脱するようになつており,これにより杭打込み装置5と,アースオーガ13は着脱可能である。」との記載がある。

 そうすると,係合装置18は,オーガ13とチャック9の嵌挿について,これを「より確実に一体化が図れるようにし」たものであることが明らかであり,甲第1号証の2には,係合装置18に関する上記記載以外の何らの記載もないことからすると,係合装置18がオーガ13とチャック9の嵌挿に必須の構成ということはできないから,オーガ13とチャック9の嵌挿に際し,係合装置18がない場合をも十分想定することができるのであり,この場合においては,甲1発明に甲第3号証の「筒状部(11)」を適用することにより「杭上部に被せるための嵌合部」を備える構成とすることができるというべきであるから,この点について,「相違点2に係る本件発明1の構成は得られないこととなる」とした審決の判断は誤りである。』

役所のLANにおける公衆送信権の侵害

2008-03-02 21:36:41 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)15231
事件名 著作権侵害行為差止等請求事件
裁判年月日 平成20年02月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟

『1 争点(2)(被告は,原告の公衆送信権を侵害したか)について
 原告は,選択的請求原因として,公衆送信権侵害を主張するので,まず,争点(2)について,判断する。
(1) 本件LANシステムは,社会保険庁内部部局,施設等機関,地方社会保険事務局及び社会保険事務所をネットワークで接続するネットワークシステムであり(前提となる事実),その一つの部分の設置の場所が,他の部分の設置の場所と同一の構内に限定されていない電気通信設備に該当する。
 したがって,社会保険庁職員が,平成19年3月19日から同年4月16日の間に,社会保険庁職員が利用する電気通信回線に接続している本件LANシステムの本件掲示板用の記録媒体に,本件著作物1ないし4を順次記録した行為(本件記録行為)は,本件著作物を,公衆からの求めに応じ自動的に送信を行うことを可能化したもので,原告が専有する本件著作物の公衆送信(自動公衆送信の場合における送信可能化を含む。)を行う権利を侵害するものである。

(2) 被告は,本件著作物については,まず,社会保険庁職員が複製しているところ,この複製行為は42条1項本文により複製権侵害とはならず,その後の複製物の利用行為である公衆送信行為は,その内容を職員に周知するという行政の目的を達するためのものなので,49条1項1号の適用はなく,原告の複製権を侵害しない,また,複製物を公衆送信して利用する場合に,その利用方法にすぎない公衆送信行為については,42条の目的以外の目的でなされたものでない以上,著作権者の公衆送信権侵害とはならない旨主張する。

 しかし,社会保険庁職員による本件著作物の複製は,本件著作物を,本件掲示板用の記録媒体に記録する行為であり,本件著作物の自動公衆送信を可能化する行為にほかならない。そして,42条1項は,「著作物は・・・行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合には,その必要と認められる限度において,複製することができる。」と規定しているとおり,特定の場合に,著作物の複製行為が複製権侵害とならないことを認めた規定であり,この規定が公衆送信(自動公衆送信の場合の送信可能化を含む。)を行う権利の侵害行為について適用されないことは明らかである。
 また,42条1項は行政目的の内部資料として必要な限度において,複製行為を制限的に許容したのであるから,本件LANシステムに本件著作物を記録し,社会保険庁の内部部局におかれる課,社会保険庁大学校及び社会保険庁業務センター並びに地方社会保険事務局及び社会保険事務所内の多数の者の求めに応じ自動的に公衆送信を行うことを可能にした本件記録行為については,実質的にみても,42条1項を拡張的に適用する余地がないことは明らかである。
 なお,被告が主張する49条1項1号は,42条の規定の適用を受けて作成された複製物の目的外使用についての規定であるから,そもそも42条の適用を受けない本件について,49条1項1号を議論する必要はない。』

外国の特許を受ける権利の譲渡の準拠法と対価請求

2008-03-02 21:08:36 | 最高裁判決
事件番号 平成16(受)781
事件名 補償金請求事件
裁判年月日 平成18年10月17日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集巻・号・頁 第60巻8号2853頁
(裁判長裁判官 那須弘平 ;裁判官 上田豊三,藤田宙靖,堀籠幸男)


『第2 上告代理人末吉亙ほかの上告受理申立て理由第3について
1 外国の特許を受ける権利の譲渡に伴って譲渡人が譲受人に対しその対価を請求できるかどうか,その対価の額はいくらであるかなどの特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題は,譲渡の当事者がどのような債権債務を有するのかという問題にほかならず,譲渡当事者間における譲渡の原因関係である契約その他の債権的法律行為の効力の問題であると解されるから,その準拠法は,法例7条1項の規定により,第1次的には当事者の意思に従って定められると解するのが相当である。

 なお,譲渡の対象となる特許を受ける権利が諸外国においてどのように取り扱われ,どのような効力を有するのかという問題については,譲渡当事者間における譲渡の原因関係の問題と区別して考えるべきであり,その準拠法は,特許権についての属地主義の原則に照らし,当該特許を受ける権利に基づいて特許権が登録される国の法律であると解するのが相当である。

2 本件において,上告人と被上告人との間には,本件譲渡契約の成立及び効力につきその準拠法を我が国の法律とする旨の黙示の合意が存在するというのであるから,被上告人が上告人に対して外国の特許を受ける権利を含めてその譲渡の対価を請求できるかどうかなど,本件譲渡契約に基づく特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題については,我が国の法律が準拠法となるというべきである。
 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。』

『第3 上告代理人末吉亙ほかの上告受理申立て理由第4について
我が国の特許法が外国の特許又は特許を受ける権利について直接規律するものではないことは明らかであり(1900年12月14日にブラッセルで,・・・で及び1967年7月14日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する1883年3月20日のパリ条約4条の2参照),特許法35条1項及び2項にいう「特許を受ける権利」が我が国の特許を受ける権利を指すものと解さざるを得ないことなどに照らし,同条3項にいう「特許を受ける権利」についてのみ外国の特許を受ける権利が含まれると解することは,文理上困難であって,外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価の請求について同項及び同条4項の規定を直接適用することはできないといわざるを得ない。

 しかしながら,同条3項及び4項の規定は,職務発明の独占的な実施に係る権利が処分される場合において,職務発明が雇用関係や使用関係に基づいてされたものであるために,当該発明をした従業者等と使用者等とが対等の立場で取引をすることが困難であることにかんがみ,その処分時において,当該権利を取得した使用者等が当該発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益のうち,同条4項所定の基準に従って定められる一定範囲の金額について,これを当該発明をした従業者等において確保できるようにして当該発明をした従業者等を保護し,もって発明を奨励し,産業の発展に寄与するという特許法の目的を実現することを趣旨とするものであると解するのが相当であるところ,当該発明をした従業者等から使用者等への特許を受ける権利の承継について両当事者が対等の立場で取引をすることが困難であるという点は,その対象が我が国の特許を受ける権利である場合と外国の特許を受ける権利である場合とで何ら異なるものではない

 そして,特許を受ける権利は,各国ごとに別個の権利として観念し得るものであるが,その基となる発明は,共通する一つの技術的創作活動の成果であり,さらに,職務発明とされる発明については,その基となる雇用関係等も同一であって,これに係る各国の特許を受ける権利は,社会的事実としては,実質的に1個と評価される同一の発明から生じるものであるということができる。
 また,当該発明をした従業者等から使用者等への特許を受ける権利の承継については,実際上,その承継の時点において,どの国に特許出願をするのか,あるいは,そもそも特許出願をすることなく,いわゆるノウハウとして秘匿するのか,特許出願をした場合に特許が付与されるかどうかなどの点がいまだ確定していないことが多く,我が国の特許を受ける権利と共に外国の特許を受ける権利が包括的に承継されるということも少なくない

 ここでいう外国の特許を受ける権利には,我が国の特許を受ける権利と必ずしも同一の概念とはいえないものもあり得るが,このようなものも含めて,当該発明については,使用者等にその権利があることを認めることによって当該発明をした従業者等と使用者等との間の当該発明に関する法律関係を一元的に処理しようというのが,当事者の通常の意思であると解される。そうすると,同条3項及び4項の規定については,その趣旨を外国の特許を受ける権利にも及ぼすべき状況が存在するというべきである。

 したがって,従業者等が特許法35条1項所定の職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合において,当該外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については,同条3項及び4項の規定が類推適用されると解するのが相当である。』

未完成発明と29条1項柱書

2008-03-02 12:05:03 | 最高裁判決
事件番号 昭和49(行ツ)107
事件名 審決取消
裁判年月日 昭和52年10月13日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻し
判例集巻・号・頁 第31巻6号805頁
裁判長裁判官 団藤重光
裁判官 岸上康夫、藤崎萬里、本山亭

『特許法(以下「法」という。)二条一項は、「この法律で『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定め、 「発明」は技術的思想、すなわち技術に関する思想でなければならないとしているが、特許制度の趣旨に照らして考えれば、その技術内容は、当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていなければならないものと解するのが相当であり、技術内容が右の程度にまで構成されていないものは、発明として未完成のものであつて、法二条一項にいう「発明」とはいえないものといわなければならない(当裁判所昭和三九年(行ツ)第九二号同四四年一月二八日第三小法廷判決・民集二三巻一号五四頁参照)。

 ところで、法四九条一号は、特許出願にかかる発明(以下「出願の発明」という。)が法二九条の規定により特許をすることができないものであることを特許出願の拒絶理由とし、法二九条は、その一項柱書において、出願の発明が「産業上利用することができる発明」であることを特許要件の一つとしているが、そこにいう「発明」は法二条一項にいう「発明」の意義に理解すべきものであるから、出願の発明が発明として未完成のものである場合、法二九条一項柱書にいう「発明」にあたらないことを理由として特許出願について拒絶をすることは、もとより、法の当然に予定し、また、要請するところというべきである。原判決が、発明の未完成を理由として特許出願について拒絶をすることは許されないとして、本件審決を取り消したのは、前記各法条の解釈適用を誤つたものであるといわなければならない。』

「使用者等が受け取るべき利益の額」について

2008-03-02 11:49:52 | Weblog
事件番号 平成19(ネ)10061
事件名 特許権譲渡対価請求控訴事件
裁判年月日 平成20年02月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 その他
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


『(7) 原判決69頁11行から70頁19行までを次のとおり改める。
「ア 改正前特許法35条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が当該職務発明に係る特許権について無償の通常実施権を取得する(同条1項)ことから,使用者等が,従業者等から特許を受ける権利を承継して特許を受けた場合には,特許発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益をいう

 そして,使用者等は,特許を受ける権利を承継しない場合であっても無償の通常実施権を取得することの対比からすれば,使用者等が特許を受ける権利を承継して特許発明を自ら実施している場合は,これにより実際に上げた利益のうち,当該特許の排他的効力により第三者の実施を排除して独占的に実施することにより得られた利益,すなわち,使用者等が実際に受ける利益の額から通常実施権を実施することにより得られる利益の額を控除した額をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益」というべきである(外国の特許を受ける権利の承継による相当の対価の請求についても,改正前特許法35条4項が類推適用される以上,同様に解すべきものといえる。)。

イ 上記第2,1⑺のとおり,本件において,1審被告は,本件発明について,専ら自ら実施し,第三者に実施許諾をしたことはない。
 このように,発明が自社でのみ実施されている場合における独占の利益を算定する方法としては,①本件発明を第三者に実施許諾した場合に得られるであろう実施料収入を想定して算定するという方法や②使用者等が超過売上高から得るであろう利益を算定する方法などが考えられるところである。

 この点,1審原告は,上記①の算定方法に基づいて,第三者に実施させた場合の当該第三者の売上げを1審被告の売上げの2分の1として,その10パーセントとすべきである旨主張する(判決注:当審においては,20パーセントと主張する。)。
 しかし,本件において,1審原告は,本件発明を第三者に実施させて実施料を取得した場合を想定した場合に,当該第三者が取得し得る売上げの多寡に影響を与える諸事情,すなわち,例えば市場全体の規模,動向,実施品であるX線イメージ管の性質,内容,市場における優位性等の諸事情について,具体的な主張,立証をしていない。実施許諾を受けた第三者が,1審被告の売上げの2分の1の売上げを得ることを推認させるような事情も認められない。したがって,1審原告の主張に係る上記①の算定方法を採用することはできない。

 ところで,1審被告は,1審被告の市場シェアを算定し,それに基づいて1審被告の超過シェアを算定する方法を前提として,1審被告の主張に係る市場シェアについては,1審被告におけるX線イメージ管の製造本数及び競業他社の推定製造本数から,1審被告の国内シェアを推測する算定方法によるべきであると主張し,1審被告社内の調査に基づいて1審被告の国外シェアを推測した1審被告従業員の報告書(乙81)を提出している。1審原告の主張に係る算定方法に合理性がない本件においては,1審被告の主張に係る上記②の算定方法によるのが相当であるというべきである。』

『(9) 原判決77頁2行目末尾に,行を改めて次のとおり加える。
「(1) 改正前特許法35条4項には,「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮すべきである旨規定されているが,前記のとおり,特許を受ける権利の承継後に使用者が実施した超過売上高をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」として「相当の対価」を算定する場合において考慮されるべき「使用者等が貢献した程度」には,使用者等が「その発明がされるについて」貢献した程度のほか,使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した程度も含まれるものと解するのが相当である。

 すなわち,「使用者等が貢献した程度」には,その発明がされるについての貢献度のみならず,その発明を出願し権利化し,特許を維持するについての貢献度,実施製品の開発及びその売上げの原因となった販売契約を締結するについての貢献度,発明者の処遇その他諸般の事情等が含まれるものと解するのが相当である。
 発明者の使用者等に対する「相当の対価」の請求権はその特許を受ける権利の譲渡時に発生するものであるが,「相当の対価」の算定の基礎となる「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は特許を受ける権利の承継後に使用者が実施した超過売上高によるものとする以上,その超過売上高が発生するに至った一切の事情を考慮しないとするのは衡平の理念に反するというべきである。」』