事件番号 平成19(行ケ)10255
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義
『1 取消事由1(本件発明1と甲1発明の相違点の認定の誤り)について
(1) 原告は,甲第1号証には,嵌挿部材15と同じ形状もしくは同様の形状をもつ杭の頭が,嵌挿部材15と同様にチャック9の穴に嵌合されることが記載されており,甲第1号証に記載されるチャック9は「杭上部に被せるための嵌合部」を具備するものであるから,審決がこの点を本件発明1と甲1発明の一致点として認定せず,「相違点2」として「・・・。」を認定したことは誤りである旨主張するので,以下,検討する。
(2) 上記第2の2のとおり,本件発明1は「杭上部に被せるための嵌合部」と規定するものではあるが,「嵌合部」の形状や嵌合の状況について特段限定していない。平成3年11月15日株式会社岩波書店発行の「広辞苑第4版」によると,「嵌合」とは,「はめあい」を意味するものであるとされ(574頁),「はめあい」とは「〔機〕軸が穴にかたくはまり合ったり,滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語。かんごう。」であるとされ(2098頁),「穴(・孔)」とは「①くぼんだ所。または,向うまで突き抜けた所。・・・」とされている(60頁)。
そうすると,特段の事情のない限り,本件発明における「嵌合」の意義についても,上記の一般的な語義に従い,「軸がくぼんだ所にかたくはまり合ったり,滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係」を意味し,本件発明1の「嵌合部」とは,そのようにして軸がはまる「穴」,すなわち,「くぼんだ所」のことを意味するものと理解することができ,これを別異に解すべき特段の事情を認めることはできない。
(3) 甲第1号証の2には,次の各記載がある。
・・・
(4) 上記(5)の各記載によると,甲1発明のチャック9は嵌挿部材15を嵌挿するものであり,・・・,杭はその上部がチャック9に嵌挿されるものであることが認められる。
そうすると,チャック9が杭上部に被せるための「くぼんだ所」を有すること及び杭上部とチャック9の「くぼんだ所」が「はまり合う」関係にあることは明らかであり,チャック9は「杭上部を被せるための嵌合部」を有するものと認められる。
・・・
したがって,審決が,この点を本件発明1と甲1発明の相違点として認定し,「埋込用アタッチメント[杭打込み装置5]が有する杭保持部の構成及び当該杭保持部に(穿孔装置[アースオーガ13]を)着脱可能に取り付ける構成に関して,本件発明1が,杭保持部を『杭上部に被せるための嵌合部(15)』として構成し・・・ているのに対し,甲1発明は,杭保持部を(油圧シリンダ11により強固に固定する)『杭保持用のチャツク9』として構成し・・・ている点。」を「相違点2」とした点は誤りであるというべきである。』
『2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 審決は「甲1発明における『杭保持用のチャツク9』に代えて,甲第3号証に記載の埋込用アタッチメント〔ハンマー部材(4)〕の嵌合部である『筒状部(11)』,すなわち,杭上部に被せるための『嵌合部』を用いるものと単に変更することは,当業者が容易に想到し得たことということができる。」としながら,「このような変更をすると,甲1発明では・・・『杭保持用のチャツク9』に・・・嵌挿部材15を嵌挿するとともに,当該穿孔装置〔アースオーガ13〕の上部両端部に設けた係合装置18を用いて着脱可能に構成していたのであるから,このような穿孔装置〔アースオーガ13〕の着脱可能な取り付けが他方でできないことになり,結果として,相違点2に係る本件発明1の構成は得られないこととなる。」と判断しているが,原告は,係合装置18は,チャック9に嵌合された杭上部をさらに把持する機能として付加されたものであり,これに代えて別の手段を採用することに問題はない旨主張する。
(2) ・・・。
甲1発明の係合装置18について,甲第1号証の2には,上記1(3)ウで認定したとおり,「オーガ13と,チヤツク9の嵌挿であるが,・・・,チヤツク9内の油圧シリンダ11でもつて強固に固定するようにし,さらにオーガ13の上部両端部に油圧等で作動する係合装置18を設け,より確実に一体化が図れるようにし,オーガ13は前記チヤツク9の油圧シリンダ11と係合装置18をはずすことによつて離脱するようになつており,これにより杭打込み装置5と,アースオーガ13は着脱可能である。」との記載がある。
そうすると,係合装置18は,オーガ13とチャック9の嵌挿について,これを「より確実に一体化が図れるようにし」たものであることが明らかであり,甲第1号証の2には,係合装置18に関する上記記載以外の何らの記載もないことからすると,係合装置18がオーガ13とチャック9の嵌挿に必須の構成ということはできないから,オーガ13とチャック9の嵌挿に際し,係合装置18がない場合をも十分想定することができるのであり,この場合においては,甲1発明に甲第3号証の「筒状部(11)」を適用することにより「杭上部に被せるための嵌合部」を備える構成とすることができるというべきであるから,この点について,「相違点2に係る本件発明1の構成は得られないこととなる」とした審決の判断は誤りである。』
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義
『1 取消事由1(本件発明1と甲1発明の相違点の認定の誤り)について
(1) 原告は,甲第1号証には,嵌挿部材15と同じ形状もしくは同様の形状をもつ杭の頭が,嵌挿部材15と同様にチャック9の穴に嵌合されることが記載されており,甲第1号証に記載されるチャック9は「杭上部に被せるための嵌合部」を具備するものであるから,審決がこの点を本件発明1と甲1発明の一致点として認定せず,「相違点2」として「・・・。」を認定したことは誤りである旨主張するので,以下,検討する。
(2) 上記第2の2のとおり,本件発明1は「杭上部に被せるための嵌合部」と規定するものではあるが,「嵌合部」の形状や嵌合の状況について特段限定していない。平成3年11月15日株式会社岩波書店発行の「広辞苑第4版」によると,「嵌合」とは,「はめあい」を意味するものであるとされ(574頁),「はめあい」とは「〔機〕軸が穴にかたくはまり合ったり,滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語。かんごう。」であるとされ(2098頁),「穴(・孔)」とは「①くぼんだ所。または,向うまで突き抜けた所。・・・」とされている(60頁)。
そうすると,特段の事情のない限り,本件発明における「嵌合」の意義についても,上記の一般的な語義に従い,「軸がくぼんだ所にかたくはまり合ったり,滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係」を意味し,本件発明1の「嵌合部」とは,そのようにして軸がはまる「穴」,すなわち,「くぼんだ所」のことを意味するものと理解することができ,これを別異に解すべき特段の事情を認めることはできない。
(3) 甲第1号証の2には,次の各記載がある。
・・・
(4) 上記(5)の各記載によると,甲1発明のチャック9は嵌挿部材15を嵌挿するものであり,・・・,杭はその上部がチャック9に嵌挿されるものであることが認められる。
そうすると,チャック9が杭上部に被せるための「くぼんだ所」を有すること及び杭上部とチャック9の「くぼんだ所」が「はまり合う」関係にあることは明らかであり,チャック9は「杭上部を被せるための嵌合部」を有するものと認められる。
・・・
したがって,審決が,この点を本件発明1と甲1発明の相違点として認定し,「埋込用アタッチメント[杭打込み装置5]が有する杭保持部の構成及び当該杭保持部に(穿孔装置[アースオーガ13]を)着脱可能に取り付ける構成に関して,本件発明1が,杭保持部を『杭上部に被せるための嵌合部(15)』として構成し・・・ているのに対し,甲1発明は,杭保持部を(油圧シリンダ11により強固に固定する)『杭保持用のチャツク9』として構成し・・・ている点。」を「相違点2」とした点は誤りであるというべきである。』
『2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 審決は「甲1発明における『杭保持用のチャツク9』に代えて,甲第3号証に記載の埋込用アタッチメント〔ハンマー部材(4)〕の嵌合部である『筒状部(11)』,すなわち,杭上部に被せるための『嵌合部』を用いるものと単に変更することは,当業者が容易に想到し得たことということができる。」としながら,「このような変更をすると,甲1発明では・・・『杭保持用のチャツク9』に・・・嵌挿部材15を嵌挿するとともに,当該穿孔装置〔アースオーガ13〕の上部両端部に設けた係合装置18を用いて着脱可能に構成していたのであるから,このような穿孔装置〔アースオーガ13〕の着脱可能な取り付けが他方でできないことになり,結果として,相違点2に係る本件発明1の構成は得られないこととなる。」と判断しているが,原告は,係合装置18は,チャック9に嵌合された杭上部をさらに把持する機能として付加されたものであり,これに代えて別の手段を採用することに問題はない旨主張する。
(2) ・・・。
甲1発明の係合装置18について,甲第1号証の2には,上記1(3)ウで認定したとおり,「オーガ13と,チヤツク9の嵌挿であるが,・・・,チヤツク9内の油圧シリンダ11でもつて強固に固定するようにし,さらにオーガ13の上部両端部に油圧等で作動する係合装置18を設け,より確実に一体化が図れるようにし,オーガ13は前記チヤツク9の油圧シリンダ11と係合装置18をはずすことによつて離脱するようになつており,これにより杭打込み装置5と,アースオーガ13は着脱可能である。」との記載がある。
そうすると,係合装置18は,オーガ13とチャック9の嵌挿について,これを「より確実に一体化が図れるようにし」たものであることが明らかであり,甲第1号証の2には,係合装置18に関する上記記載以外の何らの記載もないことからすると,係合装置18がオーガ13とチャック9の嵌挿に必須の構成ということはできないから,オーガ13とチャック9の嵌挿に際し,係合装置18がない場合をも十分想定することができるのであり,この場合においては,甲1発明に甲第3号証の「筒状部(11)」を適用することにより「杭上部に被せるための嵌合部」を備える構成とすることができるというべきであるから,この点について,「相違点2に係る本件発明1の構成は得られないこととなる」とした審決の判断は誤りである。』