知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

異議申立てを経ないでされた却下処分の取消請求

2007-11-25 23:00:32 | Weblog
事件番号 平成19(行ウ)653
事件名 特許出願審査請求手続却下処分取消等請求事件
裁判年月日 平成19年11月21日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 清水節

『第2 原告の主張
1 本件各手続却下処分の違法性
・・・
 原告は,本件出願審査請求書の提出前,弁理士から,特許出願に係る出願審査の請求期間について,7年間である旨を聞かされていたものの,起算日については,特許出願提出日と手続補正書提出日のいずれであるかの説明は受けなかった。また,出願時の書式には,出願審査の請求期間が明記されていない。
 手続補正がされた場合,その時点で特許出願が修正されるのであるから,出願審査の請求期間は,最終の補正手続書提出日より起算するのが合理的であり,そうでないのであれば,そのことが明確になるように,国民に広く告知されるべきである
したがって,本件各処分には,取り消されるべき事由がある。

2 行政事件訴訟法8条2項に該当する事由
 本件について,行政事件訴訟法8条2項に該当する事由,すなわち,本件各処分に対し,異議申立てに対する決定を経ずに,訴えを提起することができる事由は,以下のとおりである。
 すなわち,・・・,母を自宅で療養させるか,看護付医療療養施設に入所させるかの選択を迫られていた。そして,自宅で療養させることを決定し,医師への相談,検査,介護会社の手配,金策,自宅の清掃,衣類の整理等の準備をせざるを得なかった。さらに,母は,当時,生存が危ぶまれる状態にあり,同年9月末ころより,ようやく安定し始め,危機を脱してきた状態である
 このようなことから,原告には,本件各処分の通知を受けた日の翌日から起算して60日以内に異議申立てを行う体力,気力はなかったものであり,異議申立てに対する決定を経ずに,本件各処分についての訴えを提起することができる事由がある。』

『第3 当裁判所の判断
1 本件各処分に対する不服申立てに関する法令の定め
 本件各処分は,行政庁である特許庁長官による処分であり,「処分庁が主任の大臣又は宮内庁長官若しくは外局若しくはこれに置かれる庁の長であるとき」(行政不服審査法6条2号)に該当するので,これについて,異議申立てをすることができる(同条柱書本文)。
 そして,本件各処分は,特許法18条の2に規定する処分(不適法な手続であって,その補正をすることができないものについての却下)に該当するから,異議申立てに対する決定を経た後でなければ,取消しの訴えを提起することはできない(特許法184条の2)

 ただし,その場合でも,①審査請求(異議申立てを含む。以下同じ。行政事件訴訟法3条3項)があった日から3箇月を経過しても裁決がないとき(同法8条2項1号),②処分,処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき(同項2号),③その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき(同項3号)には,異議申立てに対する決定を経ないで,処分の取消しの訴えを提起することができる(同項柱書)。

2 本件において,異議申立てに対する決定を経ないで本件各処分の取消しの訴えを提起することができる正当な理由の有無
 行政事件訴訟法8条2項は,処分の取消しの訴えの訴訟要件の1つとして,訴え提起前に,裁決を経ることを要求する審査請求前置についての例外を規定するものであり,同項1号及び2号が具体的な場合を規定し,同項3号が一般的な救済を図る条項となっている。

 審査請求前置は,処分を行った行政庁自身に処分是正の機会を与えたり,行政庁による簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を期待し得る等の趣旨から認められているものであり,他方,その例外は,過度に出訴が制限されることを防ぐために規定されているものであるから,このような,双方の利益を衡量して,例外に該当する場合を検討する必要がある

 そこで,本件について,同項3号の「正当な理由」があるかを検討すると,原告が主張する上記の事情には,同情すべき点があるものの,原告本人又はその代理人において,異議申立ての手続を行うことが全く困難であったと解されるようなやむを得ない事由は認め難く,上記事情をもって,正当な理由があると認めることはできないと言わざるを得ない。』