聖子、孫の羽郎がお気に入り
幸夫と綾子の子供は、幸夫や綾子が、海外にウロウロと出歩くにも拘わらず、羽朗の他にも、二人も子供が出来ていた。男の子の辺朗と女の子の幸子だった。辺朗は、大人しい一族の子供の中でも、菊太郎と一緒で気性が荒く、やんちゃな男の子に育っていった。羽朗は聖子のお気に入りだったが、辺朗は、二郎や洋太郎が可愛がった。
香奈「聖子ちゃんも、孫が可愛いみたいだね。俊子さんが言っていたよ。清太郎君の時よりも可愛がるみたいだよ。」
恵「羽朗君が、お気に入りみたいだよ。賢そうだしね。テキパキしている子供だし、波長が合うんだろうね。」
香奈「辺朗君は、やんちゃだけど、洋太郎さんの側にいるよ。洋太郎さんは、愛は人も会社を救うといつも同じ話をするから、みんな逃げるけど、辺朗君は、じっと聞いているらしいよ。」
恵「紡績社内でも、同じ事ばっかり言うらしいね。間違ってはいないけど、もう宗教みたいだね。紡績教かね。」
香奈「恵教も同じじゃないの。」
恵「恵教はもっと臨機応変に、状況に応じて変化しているよ。」
香奈「清太郎君は黙っているけど、臨機応変らしいよ。有希さんとも話をしているらしい。時代にも対応していく事も大切と思っているらしいね。俊子さんは、清太郎君が社長になると少しは紡績も変わるかもしれないと言っていたよ。」
恵「二郎君では変わらないの?」
香奈「二郎君は、紡績の社風にどっぷりつかっているから、無理らしいよ。人を大切にしない会社に未来はないと言っているよ。利益で動くなら、会社じゃないと言うらしいよ。会社の目的は、働いている人に安定して雇用と労働環境を約束し、働いている人たちと共に成長し、社会に役立つ事で、利益は会社を維持するだけのものに過ぎない。利益を目的にするなんて、会社としては本末転倒だと洋太郎さんが言うので、何も言えないらしい。利益目標がない会社なんだよ、紡績は。」
恵「それでやっていけるの。」
香奈「純子さん以来の社風だからね。洋之助おじさんのお父さんが、愛の会社と云われる会社にしてしまったらしい。洋之助おじさんは、しっかり儲けていたからね。営業利益がなくてもやっていけるようにしているんだよ。それに有希さんが、営業赤字には、ならないように睨みを効かせてきたからね。洋太郎さんも二郎君も、有希さんには頭があがらないんだよ。現金だけでなく、株や不動産が一杯あるんだよ。適正利潤があればいいと云う会社なんだよ。言われなくても、製造原価が下がれば、売値を下げる会社なんだよ。」
恵「大したものだね。」
香奈「儲けすぎは、大損の始まりと言っているのよ。」
恵「運用会社とは違うね。」
香奈「そんな事はないわよ。私も儲ける事は好きだけど、そんなに、いつもいつも大儲け出来ないと思って考えていたのよ。今は、あくまでも結果よ。」
恵「そうかね。でも長い間続いているよ。財団も助かってきたよ。」
香奈「儲かる時には、しっかり儲けて、損を少なくしようとしてきただけなんだよ。」