虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

素敵な歌と舟はゆく (1999/仏・伊・スイス)

2004年06月15日 | 映画感想さ行
Adieu,Plancher des Vaches
監督:オタール・イオセリアーニ
出演:ニコ・タリエラシュヴァリ、リリー・ラヴィーナ

 パリ郊外の城のような屋敷にすむ青年ニコラの一家。へりで飛び回るやり手の実業家の母、気ままに暮らす父、まだ小さな妹たち。彼自身はパリへ出かけて、物乞い皿洗いといったアルバイトをしている…

 この監督の映画はこれしか見たことがありません。はじめて見た時は、ジャック・タチを連想しました。セリフなんてメじゃないところや、映像が語るおかしみなんてよく似てると思うけど、テイストはずっと苦い。残酷、冷酷ですらある。それでも、みんな自分なりに自分の人生を生きていく自由な風に溢れている。
 見終わって、じわっとしてしまう。
 何気なく流れていくエピソードの一つ一つが、思いっきり人生そのものを差し出されたように思えてくる。例えば、ドジばかり踏んでいる巨体の黒人秘書が皿の汚れに文句を言った為に、ニコラは首になる。それを見送り、沈んでしまう黒人の表情。金持ちのニコラの仕事に対する姿勢や、失敗続きの黒人の胸のうちがくっきり浮かび上がる。
 コウノトリもなんか象徴的だし、父と自由人浮浪者の歌が特に記憶に残る。あれは監督の出身地の歌なのだろうか?
 公開時のコピーは「アデュー! 私の家族」だった。でもやはり夢かな。あの海と白い帆と、歌と友と…というのは。