虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

広汎性発達障がいの子 と ごっこ遊び (いったん、拒否して、受け入れる) 3

2011-09-14 12:35:23 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

★くんは、いったんひとつの考えにこだわりだすと、なかなか頭を切り替えることができない

ところがあります。

先日も、こんなことがあったそうです。

 

★くんのお父さんが、★くんを幼稚園に送っていく途中、

ちょうど駅の階段を下りかけたところで、突然、「幼稚園、行かない」と言い始めたのだとか。

どんな理由があるのかはわからないけれど、

★くんが「行かない」と構えた物言いになるときは、

無理強いしたり、説得したり、なだめたりすると、火に油を注ぐようなもので、

かえって頑なに「行かない」と言い張るようになります。

 

そこでお父さんは、これまでもだいたい20分もあれば、興奮状態が鎮まってきて、

気持ちを切り替えることができていた……と考えて、

★くんのイライラした表情が少しなごむを待って、

「ふみきりを見に行こうか?」と誘いました。

 

★くんは、ふみきりが上がったり下がったりするところと、

電車の往来を眺めるのが大好きなのです。

その誘いに素直に従った★くんは、ふみきりを見ているうちに優しい表情になっていきました。

 

お父さんが、「ふみきりを見たら、幼稚園に行こう」と誘うと、

★くんは納得した様子で園に向かうことができたそうです。

 

大人の誘いというより、当然の日々の行為である幼稚園に向かうということに、

「いったん、拒否する」をしてみた★くんが、「幼稚園に行く」という行為を受け入れて、

再び幼稚園に向い出したという出来事。

このエピソードからは、終始、無声映画のような静けさが伝わってきます。

 

いったんは拒否してみたものの、

★くんの中には幼稚園に行きたい思いや、行ってあれもこれも楽しかったという記憶があって、

お父さんもそれがわかっていて、

★くんの気持ちが切り替わるのを信頼して待っています。

 

すると、★くんの心は静けさの中で、自分に求められていることを受容する方向に向かっていったのです。

前回の記事のお片付けでは、「★くん、自分で出したものを片付けてね」と言っても、

「ほら、このおもちゃをこの箱に入れて」と言っても、

「イージーチター(楽器)を戸棚にしまってきてね」と言っても、聞く耳持たなかった★くん。

 

けれども、知らんふりしてこちらに背を向けている態度で、「いったん、拒否して」いるのを、そっとしておいて、

それでいて無視したり、あきらめるのではなく、

★くんの周囲の物が、黙って静かに、少しずつ片付けられていき、(少し、オーバーに★くんに見せるように片付けています)

★くんの目にも自分に期待されていることが

身体でわかるような雰囲気を作りました。

 

ひとつひとつの物がかっちりと元の場所に収まっていく様子に惹きつけられていた★くんは、

私が、楽しそうだけど小さなつぶやくような口調で「こうして、こうして入れるのよ」と

おもちゃをひとつひとつ入れながら言うと、

決心したようにイージーチターを手にすると、戸棚に片付けに行きました。

  

★くんが比較的、短い時間で、「片付けはいやだ」という気持ちを克服して、

私の指示に従いだしたのは、

この日私が、「手動のえんぴつけずりを使ってみたい」「えんぴつけずりのけずりかすがどうやって落ちるのか興味がある」

「ベイブレードを自分で回したい」「レストランのメニューを読み取る機械が作りたい」という★くんの思いが

思った通りの形で実現するように、ゆっくり付き合っていたからでもあります。

 

そのように自分の気持ちを十二分に受け止めてもらっていると、

シングルフォーカスに陥って頑なになっていても、

自分の力でそれを乗り越えようとする意志がみえてきます。

 

期待されていることをわかりやすく目に見える形で提示してもらって、

後は静かに待っていてもらうか、少し落ち着いて、別の切り口から声をかけてもらうと、

自分から「する!」という決意を固めるようです。

 

帰り際、★くんは、ヘリコプターの羽根の部分を回しながら、

「奈緒美先生、ヘリコプターが行くよ。

奈緒美先生のところに来たよ」と言いながら、私の近くにあった箱の上に着陸させました。

この言葉は、★くんなりの私への親愛の情の表現のようです。

 

「はい、バナナと牛丼を届けてくれたんですか?ありがとう」と言うと、

「待っててください。また届けます」と言って、ヘリコプターを飛び立たせると、

今度は2台で戻ってきて、「はい、バナナ。はい、牛丼」とニコニコしながら何かを差し出す真似をします。

 

★くんは、こうしたおもちゃを介して会話を継続させていくのがうれしくてたまらないようでした。

 

★くんは、虹色教室で工作をするようになってから、

物のしくみについて説明したり、うまくいかない原因について、ていねいに観察しながら

解説したり、どんなことがしてみたいのか順序立てて表現することなどは

とても上手になっていました。

 

ひとりで一方的にしゃべるのなら、4歳の子とは思えないほど

しっかりした物言いをするようになっていたのです。

しかし、自然な会話のキャッチボールはかなり苦手で、

途中で会話が途切れてしまうことがほとんどでした。

 

が、今回は、ごっこ遊びを通して、会話のキャッチボールを自分から望んでくる

★くんの姿があって、とてもうれしく感じました。

 

 

 


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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
受け入れる (koro0113)
2011-09-15 13:00:25
★くんのお父さんの接し方は素敵ですね。
子どもに拒否されると、カッとなってひどいことを言うかムッとして相手にしなくなるか、どちらにしろ子どもを傷つけてしまいます。
毎回冷静になりたい、と思いながら、具体的にどうすれば拒否されても冷静でいられるかわからず悩んでいました。
今回の記事で、出口が見えたような気がします。
「いったん、拒否する」
子どもってそういうものなんだ~と大らかに受け止めて…
無声映画(いいたとえですね)を見るように子どもの気持ちを色々想像しながら接してあげたいと思います
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