★くん、広汎性発達障がいの多くの子どもたちと同じように
他人の指示に従うのが苦手です。
でも、私の誘う遊びに、これまで面白かった体験からか信頼は寄せてくれているようで、
「★くん、見て!こんなのどう?」というと、気乗りしない様子で、
「それはいいんだよ」と、即座に却下することはよくあるものの、
少しすると★くんが、私の提案に似た遊び方をしてみせて、「見て、見て。面白いよ。奈緒美先生も遊ぼうよ」と
自分発信の案に変えて、こちらを遊びに誘うということがよくありました。
私は、こうした広汎性発達障がいの子の対応を、
「いったん、拒否して、受け入れる」態度として大切に扱っていて、
その微妙な差異を調節して、バリエーションを豊かにすることで、
困った行動が減って、お友だちと遊ぶのもずいぶん上手になってくるな、と感じています。
広汎性発達障がいのの子というのは、たいてい新しい展開を嫌がります。
でも、
そこに、いったん拒否することをOKとする受容的なまなざしがあって、
それを周囲にサラッと流してもらっていて、
(広汎性発達障がいのの子は他人の感情の変化に敏感なので、
子どもの拒否におろおろする大人の態度や、「やりなさい」と強制したり、「やったら?」としつこく誘う態度で接すると、
頑なに拒否にしがみつくようになる子が多いです)
自分の気もちを新しい展開にならしていく静かな時間があると、
少し前の提案を受け入れたんだな……とわかる自分発信の提案が返ってくるのです。
そうやって、「いったん、拒否して、受け入れる」ことを何度も体験するうちに、
だんだん切り替えがうまくなって、拒否の言葉を口にせずに、
少しの間、首をかしげて考えている態度を取る程度で、
「じゃぁ、する」と取り組めるようにもなってきます。
広汎性発達障がいの子と心と心が通じ合う
人間関係を作っていくことで、「人への信頼感」が、「新しい挑戦への不安」を超えて、
素直に場に自分をゆだねることができるようになってくるのを実感しています。
広汎性発達障がいの子がそのように一度パターンとして形を学ぶと、
きちんと指示や提案に従えるようになってくる能力を利用して、
大人が次々と自分のさせたいカリキュラムや指導に子どもを乗せる目的で
大人の望む形に態度を変化させることを続けるとしたら、
一時期はうまくいっていたとしても、最終的には、破綻するように感じています。
それは、広汎性発達障がいの子が「いや」を乗り越えて指示に従えているのではなく、
「いや」を感じられないよう、「いや」が言えないように
しつけているだけの場合があるからです。
広汎性発達障がいの子が自分の好きなことを自由に繰り返し行うことを認めて、
その子の世界に大人の側が降りていって
いっしょにその子のファンタジーの庭で戯れる時間がたっぷりあってはじめて、
苦手なこちら側の指示に従ったり、提案に乗ったりすることも、
本人の達成感や満足感を満たす行動になっていくのだと思っています。
上の写真は、ユースホステルで「エレベーター作りが楽しかった」という★くんと、
教室内でエレベーターということにしたかごを
天井に付けているフックに引っかけて、吊りあげる遊びをしているところです。
私はエレベーターの一方の端を椅子に引っ掛けて、その先を車のおもちゃに結びました。
こうすると、車を移動させる力で、エレベーターを上に上げることができるのです。
これを見た★くんは、「ダメだよ。そんなの取って!」と繰り返し、しまいにひもを
工作で使っていたはさみで切ってしまいました。
そうして、しばらく手動で引っぱりあげたり、降ろしたりして遊んでいた★くん。
先ほどまで遊んでいたドールハウス(こうしたシンプルなドールハウスは、取ってもらいたがっただけで遊んでいません)
にひもを引っ掛けて、後ろずさりしながら、
「見て、見て。奈緒美先生。
こうすると、エレベーターがあがるんだよ」と得意満面で言いました。
★くんは、自分で運動の方向が変えられたことがうれしくてたまらない様子で、
引っぱったり、手を緩めたりして、満面の笑顔でした。
また、こんなこともありました。
★くんは、お片付けがきらいです。
さあ、「自分で出したものを片付けてね」と言っても、聞こえないふりをして
遊んでいます。
その態度そのものが、「いったん、拒否して」という態度なのですが、
そこで、少しすれば「受け入れるだろう」と捉えつつ、
指示は出しつつも、こちらの要求する態度を★くんの呼吸に合わせていって、
ちょっと気持ちが切り替わるような声かけをして、
外側から、そっと包み込んでこちらが望んでいる活動の流れに乗せるようにしていくと
ちゃんと最初の指示に従って片付けをしはじめるようになってきました。
「えっ? 外側から、そっと包み込んでこちらが望んでいる活動の流れに
乗せるようにしていくってどういうこと?」と感じた方もいらっしゃいますよね。
それは次の記事で説明させていただきますね。