虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

教育現場に必要な 『ブラックボックス』 という言葉 1

2010-06-03 06:39:32 | 教育論 読者の方からのQ&A
調べ学習についてのご質問は、次回、答えさせていただきますね。
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☆教育現場に欲しい新しい言葉と新しい概念 1
☆教育現場に欲しい新しい言葉と新しい概念 2
☆教育現場に欲しい新しい言葉と新しい概念 3

の記事の中で、息子と新しい言葉や概念の必要性について話をするうちに、
家庭であれ、学校であれ、教育の場にこそ、「その新しい言葉と概念が必要だ!」
と感じた後で、
「なら、具体的にどんな言葉が必要なんだろう?」と考えていて、
最も重要な概念を含んだものとして思い当たったのが、『ブラックボックス』という言葉です。

ブラックボックス?
あまり聞いたことがない言葉ですよね。

『ブラックボックス』というのは、東京大学名誉教授の村上陽一郎氏が、
「えるふ」という財団法人ちゅうでん教育復興財団発行の小冊子の中で、
河合隼雄氏との対談で使っておられた言葉です。

この文章を目にしたとき、
現代の子どもたちをめぐる本質的な問題をこれほど言い当てた言葉はないし、
今の教育がこの『ブラックボックス』の問題から目を背けた状態で、どれほど進化しても、
より子どもをダメにしていく方向にしか進んでいかないんじゃないかな?
と感じました。

村上陽一郎氏は、河合隼雄氏との会話の中で、
ブラックボックスという言葉で、次のような状態を表現しておられます。
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たとえば、落ち葉が庭に積もれば、昔なら、焚き火をして、焼き芋を作りました。
でも、今はご近所からも市役所からも苦情がありますから、散った落ち葉は袋に詰めて、指定の曜日に持っていってもらう形になっています。

つまり、人間の持つ基本的な機能が、外部システムに委託されているのです。

ライフラインなら、昔は井戸があれば生きていけたけど、今は水道がなければ生きていけないのです。
ひとつのサイクルの完結を人に任せることで、
話が済んでしまうのです。
お金で解決することもそうです。
教育もそうで、家庭での教育を先生の役割として任せてしまって、うまくいかないと、良い施設はないかと探すことになっているのです。

昔であれば、驚きがともなった電化製品についても、当たり前の事実として、
不思議さも感じずテレビを見て、中身の仕組みについて少しも知らないのに、自分で制御できていると思っているのです。
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このブラックボックスという言葉に触れたとき、
これまで、わが子に対しても教室でずっと見ている子たちにしても、
自分が何をしようとしてきたか……というと、
「このブラックボックスだらけの世界を、
どうやって少しでも自分とのつながりのある
わかりやすいものにしようとしてきたか」
ってことじゃないか
と感じました。
それが、工作技術は必要とか、学習には体感が必要とかいった
本来の目的とはちょっとずれた部分だけ伝わっている感じはするのですが……。
(私が良い言葉を使えていなかったということですね……)
だから実際に、子どもたちがきちんと物を観察し、しっかりした考え方をし、自分の言葉で熟考したことを表現する姿を見ていただくと、喜んでいただけるものの、
「そのようになるために何が必要だったのか」ということは、
誤解されている気もしているのです。

この『ブラックボックス』だらけの現代、生まれたときからそうした環境に囲まれて成長している子たちは、
あれれ?と思うような
行動や物の考え方や、物の見え方があるのです。
たとえば、手回しオルゴールを見て、まわすという動作が思い浮かばず、
オンオフのスイッチを探す子。

難しい計算はできるのに、2本の棒の長さを比べるとき、
一方をそろえるということが思い浮かばない子。

幼児教室で注目するように誘導されているポイントにしか気づけなくなって、
同じ注目点がない場では、
不思議さも興味も抱けない子。

はさみで切る、テープで貼るといった簡単なことも、
「私は、英語と体操教室とピアノしか習っていないからできない」と断言する子。

ブラックボックスに囲まれた世界で、教育と呼べるものが、
インプットもアウトプットも「大人が評価しているもの」という細い危うい一本の線に頼っている状態で、
それ以外がスカスカでも、だれも気づけていないのです。
○○式で「中学までの計算ができるよ」という子が、
立体がいくつか重なった図を見ると、見えている部分だけ数えるので、
驚いて実物の積み木を積ませて、見えていないところにも積み木があることをわからせないといけない状態があって……
でも、それがテストに必要だって言うなら、「プリントで練習すればできるようになるからいいんじゃない?」
と親も先生も納得してしまう怖さがあるのです。

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2 コメント

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ブラックボックスだらけの世界 (ここ)
2010-06-04 06:57:16
日々感じている思いを新しい言葉や概念で…と考えていたのですが、こちらの記事を読んで、まさにこれだ!これだったんだ!!と感じました。
私が感じている子どもたちの苦しさや不安…このブラックボックスだらけの世界で生きていく事の苦しさや不安なんですね。
生きていくことがすべて外部システムに委託されている…ブラックボックス…何故?か、わからない。本当は何なのか?さえもわからない物ばかりの世界。そんな世界で大人のインプットやアウトプットの細い危うい一本線に頼らなければ、生きて行けない不安。大人から線が出るまで待たないといけない怒り。自分の存在を感じたい!と願っても、叶えられない虚しさ。
そして、子どもたちが一番苦しんでいるのは、子どもたちの発しているインプットとアウトプットのラインが、大人と同じラインでないと、評価されず、否定され、そして無視されていくという事。
子どもが自分のラインをひとつひとつ消していく時、その子の輝きがひとつひとつ消えていくような気がします。
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『ブラックボックス』世代 (ひろ)
2010-06-04 18:57:39
私も『ブラックボックス』に染まりきっている人間だな~と感じています。

あって当たり前。
動いて当たり前。
便利で当たり前。
自分のペースでON/OFFができて当たり前。

何の疑問も持たず、「それでいい。」と思っていました。
でも、子育てを通じて、その思考の”シワ寄せ”のようなものも感じていました。

かといって、どうしたらいいかも分からない。
他人に「こうしなさい。」と押し付けられたり教えられたりするのも苦手です。

そんな時に、奈緒美先生のブログと出会いました。
私にとって、先生のブログを拝見したり、『虹色オンライン』を受講することは、自分には今までに無かった視点や思考を、5感を通して楽しみながら体の中に取り入れること。であるように思います。
『虹色オンライン』を受講しなかったといって、死活問題にはならないけれど・・・私の人生を豊かにしてくれるものだと直感してます☆(赤ちゃんが産まれたばかりなので、落ち着いてからゆっくり始めるつもりです。)
子供に学ばせることより、『虹色オンライン』を通じて何が垣間見れるのか・・・自分自身がワクワクしていまーす^^
そこから得たものは、きっと子育てにも有効であると思っております♪
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