虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

愛情をかけて可愛がって育てているのに困った言動が増えてくる時 (ユースホステルのレッスンから) 4

2016-11-17 07:42:56 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

身体が求める要求世界としての「自我」の世界と、知性として育てた「第二の自我」の世界の間に生じる矛盾と、葛藤を生きている時期の子らを育てている親御さんたちのなかには、子どもが自分の力で時間をかけてそれらを克服していくのを待たずに、大人の力でそのどちらかを勝たせてしまう方がたくさんいます。

子どもをお客様のように扱って、楽しい刺激や面白い刺激をたっぷり与えるだけで、年相応の責任を果たさせたり、チャレンジを応援したりしなければ、「自我」ばかりが勝つことになってしまいます。

 

子どもの要求や気持ちを受け止めるより先に、しつけたいことや教育したいことを押しつけていけば、その子の核である「自我」が育たないままに「第二の自我」だけが肥大していくこととなります。

 『失速するよい子たち』 という小児科医の三好邦雄先生の著書では、「両親、祖父母に囲まれて宝物のように育った子」や母親から「この子は幼稚園の時に天才でした」と語られるような子が、成長するにつれ自分を見失い、学校に通えなくなったり、心身症になるケースがたくさん扱われています。

この本はわが子が幼い頃、読んだことがありますが、加藤繁美先生の文章でも取りあげられていて、この問題が年々、さらに深刻なものとなっているのを感じました。

そうした大人の要求に過剰に適応する子たちの問題は、また別の機会にくわしく書かせていただきますね。

 

『モンテッソーリの知恵』(ブラザー・ジョルダン社)という本に「しつけ」に関する次のような一文があります。

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本当のしつけとは、決まった時間にベッドに行かせることや、おもちゃを片付けさせるといった、指示したことを子どもにさせることではありません。

しつけとは、他人に対する敬意と自分の人生をコントロールする力(内面化)を持って、子どもが自立して育つのを助けることです。

しつけはまた、子どもが自制心を発達させることができるよう、自分自身に十分に自尊を与え、自分自身を理解させる社会性のある生活を「しつけ」と考えてください。

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★くんとわたしがペアになって過ごしている間、★くんはたびたびちょっと危なっかしいことをして得意気な顔をしていました。

危ないことをするといっても運動神経が優れていますから、転んだり、身体をどこかに打ちつけるようなことはありません。

★くんの表情は、「大人は危ない危ないって言うけど、ぼくは大丈夫なんだよ。ぼくはちゃんとできるから」という自信がみなぎっていました。

出窓に上ったり、エレベーターにスレスレまで近づいたり、スリッパを履いて駆けまわるようなことは、どんなに運動神経がよくてもやめさせなくてはなりませんが、

★くんの「ぼくは大丈夫なんだよ。ぼくはちゃんとできるから」という気持ちはきちんと受け取って、その思いを現実の世界で発揮するチャンスをたくさん与えてあげる必要を感じました。

 

実際、★くんはジュースがたっぷり入った重いピッチャーを集中して扱ったり、氷水が入ったおわんを運んだりといった、同じ年頃の子が「できない、無理、怖い」と言って避けるような活動には真剣な表情で取り組めました。

そんな★くんを見て、★くんのお母さんは、「家でも料理の手伝いなんかをしたがることはよくあるのですが、面倒なのもあってやらせていませんでした。でももっといろんなことをさせないとダメですね」とおっしゃっていました。

★くんは意欲が薄い子なのではなく、これまで自分の中から意欲が湧いてきた瞬間に、その思いを受け止めてもらって、やってみて、達成して、認められた、という体験が少なかったので、外から与えられた課題になかなかスイッチが入らなかっただけのようです。

 

★くんの目や表情から「やってみたい」という気持ちが見えた時に、「~してみる?」とたずねると、たいていいい返事が返ってくるようになりました。

 

工作をする時、★くんは身体に装備するドリルのようなものを作りたがりました。

戦隊物が大好きなようです。

男らしさや強さへのあこがれが高まっている時期のようです。

そうした精神的な面であこがれているものについても身近な大人がきちんと受け取って、それを現実世界で洗練させていけるように方向づけてあげる必要を感じました。

 

わがまま放題にさせて、その全てを受容するだけでは、「男らしく凛々しくなりたい」という望みに対して、自分がみじめでつまらなく感じられるだけですよね。

「男らしく凛々しくあれる」場面を見つけては、本人のチャレンジをそっとサポートしたり、言葉で★くんの勇気ある一面を認めていくことが大切ではないでしょうか。 



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1 コメント

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自分発のことを大事にする (tamaki)
2016-11-17 12:08:44
こどもでもおとなでも、その人の核の部分がない、という人に出会うことが多いと感じています。

「子どもの要求や気持ちを受け止めるより先にしつけたいことや教育したいことを押しつけ」る教育スタイルは本当によく目にする光景ですが、その先にある「成長するにつれ自分を見失い、学校に通えなくなったり、心身症になる」ような結果というものに無自覚な人が多いのでしょう。そうした目に見えないダメージというのはわかりにくいのかもしれません。

それよりも有名大学に入ってどうのこうの、というメディアや教育産業のちらつかせるわかりやすいイメージになんとなく多数の人たちがつられてしまうのだとしたら残念です。

また、こどもが「自我」の世界と「第二の自我」の世界の間の矛盾と葛藤を生きる時間を見守れない親御さん、というのは、自分自身も矛盾や葛藤を抱える力が弱いのかもしれないとおもいます。そういう矛盾や葛藤に耐えられないという大人も多い気がします。矛盾や葛藤というものも、ただ面倒なものと捉えられがちでその重要さがなかなか子育て中の親に伝わりにくいのかもしれません。


自我はあるけれど、第二の自我が育っていなくて自制の難しいタイプは、いわゆるヤンキーみたいな感じで、まわりを困らせることもあるけれど、問題がまわりにもわかりやすいし、高い学歴がなくても仕事について周りにしっかり教育されれば、まっとうに仕事して家庭を持ってやっていける可能性があります。

しかし、自我が育っていない場合のダメージというものは見えにくいだけに、まわりも対処が難しいし、といって生きづらさとか、肝心な時に力が出せないとか、自分が子育てする側になった場合に難しさがでてくるとかいう問題につながり、そしてそれが自分で解消できずに悪化すればひきこもりとか精神を病むとか犯罪とかにもつながる可能性だってあるのかなとおもうのです。

虹色教室で発信しているような、本当にこども自身の内側から出てくる生きていくための力を引き出すような子育て、というのがもっともっと広がるといいな、とおもいます。
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