先月のエントリー“現代人は、たった15万年前にアフリカにいたわずか数千の母集団から始まった”の議論の根拠となっている、遺跡から発掘される人骨から抽出したDNAを解析して系統樹を作成する手法について、「いったいどんな手法?」「どんな考え方?」「系統樹をつくれる根拠は?」「それってホントにあてになるの?(科学的なの?)」という質問を受けたので、あらためて調べてみた。
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もともとDNA分子を解析して共通の祖先を探る考え方の起源は、分子時計の概念の発見にさかのぼる。
分子時計の概念は、1960年、E・ズッカーカンドルとL・ポーリングという学者が、比較した生物間のある機能的タンパク質(ポリペプチド)で観察されるアミノ酸の置換数と、化石から推測されていた生物の分岐年代との間に相関性があることを見出した。「分子時計」とはそれを応用して出てきた仮説を用いている。
彼らの研究の「アミノ酸の置換」を、「DNAの塩基の置換」というさらにミクロのレベルで行える様になり('80年代)、現存する生物のDNAを調べることで、分岐年代を推測する手法として用いられたため、分子時計は一躍脚光を浴びたわけだ。
DNA解析による進化系統樹の作成に用いられる最もポピュラーな被検体は、ミトコンドリアDNAのDループである。
なんで普通の染色体じゃなくミトコンドリアDNAなのか?
さらに、なんでそのうちの“Dループ”なのか?
国立遺伝学研究所のこのページ
→DNA人類進化学 ~ 1.遺伝情報から進化を探る「ミトコンドリアDNA」
http://www.nig.ac.jp/museum/evolution/02_a2.html に解説されている。
まとめると、以下の3点になる
①ミトコンドリアDNAでは核DNAの五倍から一〇倍の速さで塩基置換(=点突然変異)が起こっている。ゆえに比較的短い進化的時間の中で生じたDNAの変異も効率よく検出することができる。
②ミトコンドリアDNAは、母親由来のものだけが子供に伝わる。ゆえに、父系および母系の入りまじった核DNAとちがい、系統関係を復元するのに適している。
※参照:http://plaza.harmonix.ne.jp/~taka-m/mtcDNA.htm
オレゴン保健科学大学のG. Schatten博士らは、一旦は精子によって受精卵に持ち込まれる父親由来のミトコンドリアが実は100個程度あること、そして、その精子由来のミトコンドリアには「ユビキチン(ubiquitin)」と呼ばれるたんぱく質の目印がついていることを明らかにしました。この、「ユビキチン(ubiquitin)」で標識された精子由来のミトコンドリアは、その中のDNA情報を受精卵に残すことなく、発生の過程で、受精卵の細胞質の中にある「破壊装置」(リソソーム)で選択的に破壊されてしまう
③「機能的に重要でない分子(または分子内の重要でない部分)ほど、そうでないものより進化の過程でアミノ酸やDNA塩基の置換が急速に起こり、置換率(進化速度)の最高は突然変異率で決まる」(国立遺伝学研究所:「分子進化の中立説」)ミトコンドリアは酸素呼吸に関わる重要な細胞小器官なので、たんぱく質をコードする遺伝子上に変異が起こった場合、不適応→淘汰となる可能性が高い。ゆえに機能的に重要な遺伝子ではない、ミトコンドリアDNAの中のジャンクDNAである“Dループ”が選ばれた。
解析とその結果が全体が分かりやすく解説されているページはこれ↓
ミトコンドリアが明かす-ヒトの起源とアイスマンの子孫-
DNA解析による進化系統樹の作成は、塩基配列のホモロジー(共通性)を指標になされている。
具体例を挙げれば、概ねこういうことである。
1)~ ATTATAC ~ GGAGTACC ~ TTATCGG ~
2)~ ATTATAT ~ GGAGTACC ~ TTATCGG ~
3)~ ATTATAT ~ GGAGTACA ~ TTATCGG ~
4)~ ATTATAT ~ GGAGTACC ~ TTATCGA ~
5)~ ATTATAT ~ GGAGTACA ~ ATATCGG ~
A=アデニン、T=チミン、G=グアニン、C=シトシン
“~”の部分は1)~5)全てに共通する配列とする。
この場合、2)は第1群の最後がC→Tへ、
3)は2)がもとでさらに2群の最後がC→Aへ、
4)は2)がもとでさらに3群の最後がG→Aへ、
5)は3)がもとでさらに3群の最初がT→Aへ変異した
と“類推される”ので、系統樹は下のように書かれる(時系列に並んでいるというルールを前提にパズルを解いていくような感じ。かなり単純化して説明しているので注意)。
1)
↓
2)
↓ ↓
3) 4)
↓
5)
<つづく>