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酒井董美氏の書評:ヴィーヘルト作『くろんぼの ペーター』:著者は伝承民話の法則を熟知している!

2016年03月12日 | 民話
今日のブログは酒井董美先生の書評を紹介します。

ある会合で酒井先生に私の愛読書ヴィーヘルトのメルヘンを紹介したところ、
早速、新聞書評風に感想を書いて送ってくださったのです。
それが、とても的確な内容だったので、
日頃の私のつたないブログに花を添えていただこうと
あえて公表させていただきました。(ご本人の許可を得て)

-------ここより書評--------------------------------




【書評】
 ヴィーヘルト作。国松孝二訳『くろんぼのペーター』(岩波少年文庫)
新書判276ページ 岩波書店刊 定価300円(初版当時)

酒井董美(さかい ただよし)

3月5日、立命館大学を会場としてアジア民間説話学会があり、
その後の懇親会でたまたま隣席になった奈良教育大学名誉教授の竹原威滋氏から、
「若い時代に読んで感動した本です」と推薦されたのが本書、昭和30年が初版である。

 著者エルンスト・ヴィーヘルト(1887-1950)は東ドイツの人。
第2次世界大戦でナチスの暴虐の元に強制収容所に入れられ、
放免されてからも秘密警察に監視されつつ、次代を担う子どもたちに希望を托し、
童話を書くことで対抗した人という。
これらの作品は大戦の末期である昭和19年から20年の冬にかけて書かれた40編の中から
7編(母の心、チビのドライベスト、もうない島、沼の主モールマン、金の鳥、
くろんぼのペーター、この世でいちばん大切なもの)が本書に翻訳され収められている。
どの物語も筋書きが巧みであり、なおかつ重厚で面白い。

 訳者の国松孝二氏は作者について「一生のあいだ、まっすぐな清い心にあこがれ、
正しい素朴なたましいを求めた作家です。…」と述べている。
本書の作品はどれ一つをとってもそのような精神に貫かれている。

 また著者エルンスト・ヴィーヘルトは民話の法則をじゅうぶんに熟知して活用している。
すなわち、伝承民話ではよく出てくる3人の兄弟や成功するのはその中の末っ子になるとか、
試練も3回繰り返されるとか、動植物がものを言ったり、魔法使いが登場し、
魔法の杖でさわると、たちまち土がパンに、あるいは水がワインに変わったりと
民話独得の伝統的手法を駆使しながら、子どもの読者に何の違和感も感じさせない。
そしてごく自然に正義を愛し、農民などの庶民の人々の幸福を願うように描いているので、
人々に何の抵抗もなく歓迎されたものであろう。

 理不尽なナチスのユダヤ人狩りなどを続ける当時の支配階級に対して、
正直で清い心を讃えた童話という武器で戦い続けた作者には、
さすがの政権側も正面切って、これ以上、逮捕、監禁することはできなかったものと思われる。

---------------------以上---------

短い字数でこれほど的確にヴィーヘルト童話の特徴をとらえた書評を読んで、感動しました。

私が若き日にドイツ語の単語を引きながら原書を読みながら、
「これは20世紀のグリム童話ではないか」と直感的に思った理由が
この書評にきちんと明確に書かれています。

ヴィーヘルト童話は、もちろん創作ですが、民話の文法をきちんと踏まえているので
子どもたちも引き込まれて読むのです。

ところで、ヴィーヘルト童話を知っている人は、日本にはほとんどいません。

国家の枠組みを超えて、戦乱の激しさを増す今こそ、
ヴィーヘルト童話を皆に読んでいただきたい。

酒井先生のお蔭で、今日は久しぶりに内容のあるブログになりました。

では、皆さま、来週末、またブログでお会いしましょう!


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