政府は「汚染水」を海洋放出する気満々です。その根拠になっているのが「世界中の原発でもトリチウムを含んだ水を薄めて大気や海洋に放出している」という「事実」。ただここで政府は「定められた濃度以下に薄めること」については言及していますが、「放出する総量」については無視をしています。どんなに薄くしたって、その量が多ければ、結局「大量に放出して地球環境に影響を与える」ことになりません? 地球の大気や海水が無限に存在するのなら「濃度」にだけ注目すれば良いでしょうが、私は大気も海水も「無限」ではなくて「有限」だと思っています。するとやはり「総量」が気になります。
ということで、「世界中で放出されている」が「事実」だとして、「それで放出されているトリチウムの総量」と「今回の東京電力の原発事故で発生した(し続ける)汚染水に含まれるトリチウムの総量」との比較をまず知りたいですね。
そうそう、政府が考えている「場所」についても知りたいな。おそらく現在の貯蔵場所からなるべく近くを考えているはずですが、そういった人たちに「東京湾も『海洋』だから、東京湾にも放出したら?」と提案したら、間違いなく瞬間的に血相変えて反対するはず。福島県沖だったら賛成して、自分たちに近いところだと血相変えて反対する理由、それも知りたいものです。
【ただいま読書中】『偽造鑑定人(秘)調査ファイル』松村喜秀 著、 中尾拓賜 マンガ、2000年、講談社、1700円(税別)
ひょんなことで偽ドル札鑑定器を開発することになった著者は、「偽ドル札」の不思議な世界の深みにはまっていきます。ちなみに北朝鮮が関与していると疑われる実に精巧な偽100ドル札「スーパーK」の“名付け親”も著者だそうです。これは、紙・インク・印刷技術が本物と全く同じものを用いて製作された偽札で、見破ることが非常に難しいものだそうです。
偽札鑑定人として有名になってしまった著者の所には、様々なものが「鑑定」のために持ち込まれるようになりました。デパートの商品券、ナイキのシューズ、クレジットカード、絵画、筆跡、指紋……それらを著者は、知識とテクニックで次々鑑定していきます。しかし、成分分析や電子顕微鏡を持ち出すかと思ったら、別の局面では触った感じや紙を食べてみての官能試験もやったりして、科学的だったり人間的だったり、いろんなやり方をする人です。
もどかしいのは「一番キモの部分」を明かしてくれないこと。「何を決定的な手がかりとして偽物であると判断しているか」を公開してしまうと、偽造者はそれを参考に次の“作品”を作るから、だそうです。それでも解明の手口はいろいろ面白いし、さらに著者の所に鑑定依頼にやって来る人たちの“姿”がなんとも興味深いものばかり。皆さん、癖のあるわけあり人間ばかりです。
そして本書の最後に登場するのは「人間」です。フレデリック・フォーサイスの『ジャッカルの日』には、暗殺者が他人の出生届などを使ってまんまと別人になりすます(偽装された「正式な身分証明書」を手に入れる)手口が詳述されていましたが、それが日本でも行われているらしいのです。こんなものの「鑑定」を頼まれたら、著者でなくても頭を抱えそうです。