【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

緊急

2021-04-23 07:24:49 | Weblog

 「緊急事態宣言を出すかどうか、今週中ゆっくり時間をかけて検討する」なんて首相が言っていましたが、これはつまり「これまで想定や準備を全然していなかった」とか「緊急とは数日以上のことを意味する」とか言っているわけです。こんな人たちに「緊急事態」の舵取りを任せていて、大丈夫? もしも医者が「ああ、この患者さんは死にそうだね。だったら緊張感を持って数日間注視して、それから治療をどうするか決定しましょう」なんて言ったら、袋だたきでは?

【ただいま読書中】『コンコルド・プロジェクト』ブライアン・トラブショー 著、 小路浩史 訳、 原書房、2001年、1900円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/456203419X/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=456203419X&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=603ae8beb2ea812b14621cc20d018212
 コンコルドに30年以上取り組んでいたチーフ・テストパイロットの、インサイドストーリーです。
 超音速機の開発は、はじめは軍用機で行われました。やがて民間航空会社も、時間の短縮が儲けにつながると考えるようになります。そこで問題になるのが、技術的な困難さと、コストです。アメリカ(と当然ながらソ連)は国際協力には消極的で、イギリスとフランスが国家として組んで計画を進めることにします。しかし、政治の世界は複雑で、アメリカのSSTはコンコルドより出遅れた上に、有力政治家の反対に直面することになってしまいます。
 英仏の関係も、最初からうまく行っていたわけではありません。お互いに対する不信感や自分の方が功績を誇りたいという欲望などが渦巻きます。笑ってしまったのは「Concorde」の命名が、最初は「Concord」だったのに英仏の責任者が集まった現場の会議では「Concorde」にすることに一致したのに、英国政府が「そんなの聞いてない」とむくれてしまい、プロジェクトチームの公式書類では「Concorde」なのが英国政府の書類では「Concord」となってしまったのだそうです(ちなみに命名者は英国人)。
 エンジンはイギリス、翼と操縦性はフランス、という大まかな分担はありましたが、航空機ではすべてが密接に関係していますから話はつねにややこしくなりがちです。設計図には英語とフランス語が並記され、寸法もセンチメートルとインチが併用されていた、というのですから、よくもまあこれで「一つの飛行機」が完成したものだと感心します。
 飛べるようになると、騒音、放射線(普通の航空機より高空を飛ぶので浴びる放射線の量が増えます)、ソニックブーム(超音速飛行での衝撃波)など、実用面での問題を解決する必要があります。
 英仏政府の姿勢は対照的です。イギリスはどちらかというと行き当たりばったりの雰囲気がありますが、フランス政府はなるべく一貫した姿勢を貫こうとしていました。そのためか、フランスでコンコルド開発のために整備された重要施設は、のちにエアバス開発でも役に立つことになりました。
 コンコルドが“失敗”した原因はいろいろあるでしょう。本書でもそれはいくつも指摘されています。私としては「高速のロマン」を重視したいとは思いますが、でもロマンだけでは飛行機は飛びません。厳密なコスト意識や「本当に“これ”が世界に必要とされているのか」の厳しい問いかけも必要でしょう。
 そういえばリニア新幹線もまた「高速のロマン」が計画の駆動力となっているようですが、コスト意識や「本当に“これ”が世界に必要とされているのか」の問いかけもやはり必要なのではないでしょうか。