【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

コロナ疲れ

2021-04-08 07:25:21 | Weblog

 街で遊んだり飲んだりしている人が口々に言う言葉ですが、具体的に何に疲れているのでしょう? これが最前線で激務に励んでいる医療者や保健所の職員が「コロナで疲れた」と言うのだったら納得なのですが、こういった人は「遊びに行きたい」ではなくて「ゆっくり休みたい」と言うのではないかな?

【ただいま読書中】『ダリエン地峡決死行』北澤豊雄 著、 産業編集センター、2019年、1100円(税別)

 「ダリエン地峡」とは、コロンビアとパナマの国境のジャングル地帯で、南北アメリカを北はアラスカから南はマゼラン海峡まで貫いているパン・アメリカン・ハイウェイが唯一途切れている地域です。そこを「冒険」として徒歩で踏破しよう、と著者は考えます。待ち受けるのは、熱帯ジャングルの荒々しい自然、コロンビアの反政府武装ゲリラ(と政府軍)、麻薬密輸ルートを行き交う人びと。著者の“武器”は、無鉄砲さとスペイン語。
 首尾良く「コヨーテ(違法に国境を越える人たちのためのガイド)」を見つけ、著者は意気揚々と出発します。しかしすぐに国境を警備する軍の部隊に遭遇。「冒険」は頓挫です。
 コロンビアといえば「コーヒー」や「麻薬戦争」を思いますが、その歴史はけっこう複雑です(そもそも「単純な歴史」なんてものは存在しない、とも言えますが)。反政府ゲリラが政府軍なみに武装を強化、資金獲得のために誘拐や麻薬ビジネスを展開。対して「自警団(反・反政府ゲリラ)」も武装を強化し、政府軍と協力して容赦ない暴力を行使。とうとう、ゲリラ以上の人権侵害をする「勢力」になってしまいました。ゲリラ/自警団/政府軍の三つ巴の抗争で、1990年代後半に国内で生じた難民は300万人と推定されています。2002年に大統領に就任したアルバロ・ウリベがその状況を変えました。富裕層から徴集した治安強化税(資産の1.2%)を元手に政府軍と警察を大幅に増強してゲリラを抑圧、自警団とは交渉で解散に持っていきました。国の一部(特に国境周辺)にはまだゲリラの勢力が残存していますが、国の大部分は安全で安心になったのです。
 ダリエン地峡の“入り口”で引っ返すことになった著者は、日本に帰国しますがダリエンが忘れがたく、資金を貯めてまたコロンビアを再訪します。じっくり情報を集め、こんどはクナ族の村を出発点とします。プロのコヨーテはゲリラと通じていたり強盗に変じたりするので、むしろ“素人”を頼ろうというのです。村では、国境を越えたパナマ側の同族の村と時に行き来をしていました。その旅人に同行させてもらえば、安全に地峡を通過できそうです。しかしその行き来がいつ起きるかはわかりません。著者は電気もない村で待機を続けることになります。期待だけ持たされて、結局チャンスは消え帰国。しかし著者は、またもやコロンビアに出かけます。
 ジャングルの中で暮らす先住民の生活は、私たちから見たら“原始的”なものですが、そこにも発電機や携帯電話が入っていました。そして、密林で出会う人は、わけありの人ばかり。身分証のチェックを受けずに国境を越えたい人が多いのですが、なぜかキューバ人の一行に出会って著者は首をひねります。暗黒の密林は濃密な闇の中を野獣や虫が徘徊し、そこで著者は道に迷ってしまいます。
 やっとたどり着いたパナマで、著者は(またもや)想定外の事態に巻き込まれてしまいます。
 本書を読んでいて「地球上で一番怖い動物のは、野獣ではなくて、やはり人間だな」という陳腐な感想を持ってしまいました。