【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

尖った芯/『レーシングドライバーになるには』

2009-05-21 20:46:02 | Weblog
 ボールペンはミクロレベルでのハイテクの塊だそうですが、シャープペンシルもまた最近は進化しているようです。この前見かけたのは、書くにつれて芯が自動的に回転して常に尖った状態を保つシャープペンシル。
 そもそもシャーペンは鉛筆を削る手間を省くためのもので、だから最初から鉛筆のより細い芯がセットされている、と私は理解しています。それをさらに削ろうというのですが……少しでも芯の先が丸くなったら許せない、というのは人生に対してあまりに厳しすぎません?

【ただいま読書中】
レーシングドライバーになるには』(なるにはBOOKS131)中島悟 監修、真崎悠 著、 ぺりかん社、2009年、1200円(税別)

 第1章には4人のレーシングドライバーが登場します。中島悟(日本初のフル参戦F1ドライバー)、武藤英紀(インディレーシングリーグドライバー)、伊藤大輔(SUPER GTドライバー)、高橋裕紀(WGPレーシングライダー)。
 かつてレースは、貴族の遊びでした。自動車という新しい玩具を手に入れた貴族たちが「俺の方が速いぞ」と競い合ったのです。今でもヨーロッパの自動車レース(特にF1)ではドライバーよりもコンストラクター(車の製作者)の方が重要視されるところに、かつての「貴族の遊び」の香りが残っています(車の所有者の方が、雇われドライバーよりもエライ)。
 そして「俺の方が速いぞ」が残っている限り、レースが無くなることはないでしょう。今のような化石燃料をぼんぼん燃やすタイプではなくなるかもしれませんが、形を変えて必ず残るはずです。

 今ではレーシングドライバーになる道もシステムとして整備されてきています。かつて中島悟さんは公道を走って腕を磨きましたが、今はそんな人は少ないはず。多くは子どもの時からカートやポケバイをやってそこからステップアップ、という道を歩んでいるはずです。ただ、やはり中には変わり種がいます。佐藤琢磨さんは学校では自転車部でした。スーパー耐久の田中哲也選手は野球部出身です。
 いくら優れた資質を持っていても、孤立していたら才能は開花しません。理解のある家族・経済支援をしてくれる人・技術を指導してくれる人、などに恵まれた人が速く走れるようになり、そこでさらにステップアップできるかどうかは……これはもう運命でしょうね。ただレースの世界は小さくて、他のスポーツに比較したらチャンスはむしろ多いのではないか、とも考えられるそうです。
 プロになれても、一人で走るわけではありません。監督・エンジニア・メカニックといったチームの人間だけではなくて、開発・スポンサー・広報など多くの人の協力が必要です。そういった人々とのコミュニケーションができなければ、結局優れたドライバーにはなれません(たとえば「こうしたらこの車はもっと速くなる」「あのコーナーではこのように遅くなる」などをチームにうまく伝えられなかったら、結局その車は速くならないのです)。さらに現在レースは「ビジネス」の場でもあります。スポンサーはたんなる金主ではなくてビジネス・パートナーとなっていて、そちらの方でもレーシングドライバーは“活躍”する必要があるのです。
 本書では、レースの“裏方”にもスポットライトがあてられています。コースオフィシャルや中継の人の声も登場するのです。レースはとんでもなくでかい“興行”です。
 しかし、中島悟さんの「東大を目指す人が、東京は遠いと思うだろうか。鈴鹿が遠いと思う人に、世界(で活躍する道)はない」という断言には、強い思いがこもっています。彼の魂はまだ“現役”でサーキットを走っているのかもしれません。



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