学生時代、勉強をするときの眠気覚ましに、コーヒーと紅茶のどちらが有効か、の議論を友人がやってました。で、結論は「コーヒーの方が効くが、それはカフェインが紅茶より多いからだろう」でした。不思議な議論ですよねえ。だって「その一杯」を淹れるやり方で、カフェイン濃度は濃くも薄くもできるのですから。私の結論は「そんな議論をしている暇に、勉強をしたら?」でした。
【ただいま読書中】『カフェインの真実』マリー・カーペンター 著、 黒沢令子 訳、 白楊社、2016年、2500円(税別)
2010年イギリス、パーティーでカフェインの粉末小さじ二杯分くらいをエナジードリンク(カフェインが多量に含まれている)で飲み下した男性が死亡しました。推定5gのカフェインが「心毒性」による死をもたらしたのです。カフェインは食品(嗜好品)ですが、実は薬品(毒物)でもあるのです。
メキシコのイサパ遺跡からは、3500年前のチョコレートの痕跡が出土しています。アステカ族は兵士にカカオの実を給料として支給していました。そして、カカオの実にはカフェインが含まれているのです。古代人はチョコでカフェインを摂取していたようです。ただし現代のチョコレートではカフェインは“薄められて"いるので、そこまでカフェインの効果を期待できません。
1819年ドイツ人化学者フリードリープ・ルンゲは友人のゲーテに頼まれてコーヒー豆からカフェインの精製に成功しました。ドイツ語でコーヒーは「Kaffee」で、カフェインの名前はそこに由来します。コーヒーとカフェインの結び付きは強く、現代のアメリカ人はカフェインの2/3をコーヒーから摂取しています。アメリカでコーヒーが一番消費されたのは第二次世界大戦ころ、年間一人あたり174リットル(コーヒー豆で9キログラム)を消費していました。飲まない人もいるのですから、飲む人はがぶ飲み状態です。
サンプル調査では、コーヒー店によって「コーヒー一杯」に含まれるカフェイン量にはひどくバラツキがありました。不思議なのはスターバックスでの調査で、6日間連続して同じ商品(ブレックファーストブレンド480ml)を購入しての調査で、カフェインが少ないときで260mg、最大で564mgだったのです。ただ消費者は「自分がどのくらいのカフェインを摂取しているか」には無関心です。そして、カフェインには依存性があることに対しても無関心は一貫しています。本書には「清涼飲料水の多くにカフェインが添加されているのは、カフェインの依存性を利用して消費者に常用癖をつけてどんどん消費してもらうためだ」と“過激な主張"をする研究者がいることも紹介されます。その主張を読むと、なんだか説得されてしまいそうです(清涼飲料水メーカーはカフェインを製薬会社から購入しているので、その特性を知らないわけがありません)。逆に「カフェインは無害」と主張する研究者もいますが、こちらの主張はなんだか説得力がありません。そういえばタバコに関しても「有害だ」という主張もあれば「無害だ」という主張もありましたね。もっともタバコの場合「ニコチンの依存症」よりも「タバコの健康障害」の方が問題にされているのですが。
カフェインフリーのコーヒーの製造法も紹介されます。生豆を湿らしてから、高圧高温(超臨界状態)の二酸化炭素の中をくぐらせると、二酸化炭素がカフェインだけを運び去ってくれるのだそうです。そしてそのガス(というか、超臨界状態だからガスのような液体のような存在)を水にくぐらせて減圧するとカフェインは水の方に移行し、二酸化炭素は再利用されます。この過程で「製造」されるカフェインは「天然カフェイン」です。しかしそれだけではとても需要を満たせません。そこで「合成カフェイン」の出番です。その原料は、クロロ酢酸と尿素。どちらもあまり口に入れたくないなあ。だけど清涼飲料水メーカーは「カフェインの出処」を(天然物の場合以外には)明らかにしない傾向があります。それに無関心でも良いのかな?
アスリートや兵士の“ドーピング"にもカフェインは有効です。カフェインには睡眠障害の“副作用"がありますが、無呼吸や頭痛などの治療に用いられる場合もあります。FDAも困っています。食品(添加物)であると同時に医薬品でもあるカフェインの規制は難しいのです。「カフェインを規制する」といったら「コーヒーや紅茶も規制するのか?」になりますから。それでも丸っきり放任にするわけにはいきません。
実は私も「カフェイン中毒者」です。朝コーヒーか紅茶を一杯飲まないと午前中仕事の調子が出ませんから。これはつくづく困ったものです。
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