【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

修学旅行/『絶対帰還。』

2009-05-19 19:02:41 | Weblog
 新大阪駅に出発に集まったところで「中止」を言い渡された中学の一行は本当にお気の毒様。ただ、教育委員会としては「旅行中に発熱したら対処が大変」「行った先の周囲で病気が発生したら『お前らが持ち込んだ』と東京から非難されるリスク」「帰ってきてから発熱したら『わざわざ危険な病気を持って帰らせた』と非難されるリスク」を考えたら「中止が一番安全」と判断するのも当然とは言えます。「1週間の休校には修学旅行も含まれる」という解釈かなあ。
 そうそう、私の通勤路の中学校も今日から修学旅行らしく、大型バスが何台も並んでいて中学生が群がっていました。さて、どこに行くのでしょう?

【ただいま読書中】
絶対帰還。 ──宇宙ステーションに取り残された3人、奇跡の救出作戦』原題“Too Far From Home” クリス・ジョーンズ 著、 河野純治 訳、 光文社、2008年、2300円(税別)

 打ち上げ前のクルーの交代は、不吉の前兆とされています。(その代表がアポロ13)。ケープ・カナベラルからスペースシャトル〈エンデヴァー〉で国際宇宙ステーションを目指すエクスペディション6でも医学的な理由でクルーが一人交代となりました。さらに、酸素漏れ、天候不良、と打ち上げは延期を繰り返します。不吉です。クルーたちは「STS-113のミッション番号が悪いんじゃないか」などと囁きますが、2002年11月、やっとシャトルは打ち上げられました。
 はるばる運んできたステーションの「背骨」P1トラス(全長45フィート、3億9000万ドル)を取り付けるのに数日かけ、エクスペディション5の3人(ロシア人二人アメリカ人一人)は170日ぶりに地上に戻りました。長い長いミッションでした。そしてエクスペディション6の3人(アメリカ人二人ロシア人一人)にはこれから14週のミッションが始まります。
 地表からたった402kmのところを回る宇宙ステーションは、冒険や学術の場でもありますが、生活の場でもあります。無重力(厳密には微少重力)環境で、どうやって洗濯をして干し眠り飯を食い排便をするか。いや、一々面白い。たとえば歯磨き行為は地上と同じですが歯磨きペーストをはき出さず飲み込まなければならないのです。地球上の「常識」が通用しないところで生きることがどんなに難しいことかよくわかります。本書には「三人の陽気な男たちは、壮大な非日常と安定した日常を、うまく両立させていた。」と記述しています。
 淡々と「非日常」が過ぎていきますが、〈コロンビア〉の事故(打ち上げ時に外部燃料タンクの断熱フォームがはがれて翼にぶつかって小さな穴を開け、帰還のために大気圏に突入したところでその穴からプラズマが内部に侵入して空中分解を起こした)。3人は親しい仲間を失うと同時に、帰還の手段も失います。スペースシャトルの事故原因究明と安全点検が必要なだけではなくて、アメリカでは「反宇宙開発計画運動」が燃え、とてもシャトルを打ち上げられる状況ではないのです。

 幸いなことに宇宙ステーションにはロシアのソユーズが一機、“救命艇”として付属していました。ただしテストフライトをしたことがないものですが。さらに、国際宇宙ステーションを無人のままにしたら、機能は落ちます。エクスペディション6の3人を救い出し、エクスペディション7のチームを送り込まなければなりません。さらにさらに補給の問題があります。ロシアのプログレスでも補給物資は送っていましたが、シャトルに比べたら数分の1しかペイロードがないのです。さて、どうやって“彼ら”とともに宇宙ステーションも救うことができるのか。

 宇宙は冷たい世界です。しかし著者はそこに叙情を持ち込みます。淡々と書かれた文章のあちこちにさらりと散りばめられた「ケーキは地球の味がした」「(子どもたちが)大きな夢を育むには、わざわざ天を仰がなくても夜明けの曙光や夜空の星が一つ残らず見える、美しい場所が必要なのだ」といった表現に触れて、読者はほっと息をつけます。
 人間関係についても著者はじっくり書き込みます。特に宇宙飛行士同士やその家族について。原題の「ホーム」って何だろう、と私は思います。ただ単に宇宙飛行士の家族がいる場所、ではなさそうです。宇宙飛行士が切ないあこがれを持って「帰りたい」と強く望む場所は……
 著者自身は「もっとも重要な旅と夢は、果てしなく続く。」と述べています。そして、本書は地球から宇宙に続く「旅と夢」の「途中の物語」です。



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