特殊詐欺の電話の拠点をタイに置いていたグループがタイ警察に摘発されていましたが、その容疑が「不法就労」だそうです。私はこのことばを「労働ビザを持たずに不法に滞在して労働していること」と理解していたのですが、するとタイ警察は「特殊詐欺」も「労働」と見なしている、ということに?
【ただいま読書中】『スーパー・サッド・トゥルー・ラブ・ストーリー』ゲイリー・シュタインガート 著、 近藤隆文 訳、 NHK出版、2013年、2300円(税別)
トランプ大統領が圧倒的な人気となって長期政権を築いた後(の残骸)のような「アメリカ」。「超党派党」が絶対となり、アメリカ陸軍と名乗る武装した兵士が国内を傍若無人に闊歩し、人々はアパラットという個人的な情報アイテム(iPhoneみたいなものかな?)に依存した生活をし、数値化された信用度や性的魅力を誇示することで生き抜こうとしています。通貨はなんと「元」です。しかし、人が集まると「生物学的指標(年齢、健康度、性的魅力など)」や「社会的指標(経済力など)」が公開され瞬時にその場でランキングが形成される、という社会は、私にはとっても生きにくいものに見えます。
「本」という時代遅れのアイテムを愛し性的魅力は最低ランクのレニー(39歳、ロシア系ユダヤ人)は、イタリアで出会った若くて魅力的な韓国人のユーニス・パークへの思いを噛みしめながらアメリカに帰国します。彼の夢は「無制限生命延長(つまりは不死)」を達成するためのスポンサーを得ることでしたが、それに見事に失敗しています。
『1984年』では、「ビッグ・ブラザー」という名前を与えられて、ある意味「支配者」がわかりやすくなっていました(それが本当の支配者かどうかは、また別の問題です)。しかし本書では、人々は何に怯えたらよいのかよくわからずに怯えています。「身に覚えはないけれど、非国民と糾弾されたらどうしよう」と怯え続けている、と言ったら、戦前の日本人には直感的に理解してもらえるかもしれません。
アメリカは落ちぶれています(だから「復興局」が絶大な力を持っているのでしょう)。他の国(たとえば中国)からの援助が必要ですが、アメリカ人にはそれはプライドが許さない問題です。政治と経済と両面のディストピアの中、人々はお互いの公開情報を見つめながら、少しでも自分が得をするように生きています。しかし、レニーとユーニスは、お互いのことを、愛しているようなそれとはまたちょっと違う感情を持っているような……
ユーニスの「ティーン(メール、ライン、チャット、のようなもの)」が絶妙です。本音バリバリ、下ネタ満載、お母さんはなぜか直訳調の英語を使います。ユーニスは「自分の家庭には大きな問題がある」と考えていますが、さて、それは何だろう?
陰鬱なグローバル社会での「ロミオとジュリエット」のような純愛物語の雰囲気ですが、純愛と言ってもそれは精神的な態度のことで、肉体的には二人は出会ってすぐにクンニリングス、その後すぐに同棲、彼女は彼の上司に会うとすぐに惚れてしまう、なんて些細な事実は積み重ねられているのです。
アメリカはベネズエラに出兵して泥沼の戦いをしていましたが、中国が米国の債権から手を引くことで恐慌と内戦が始まり、そこにベネズエラ海軍が攻撃を仕掛けてきて……アメリカは強制的に解体処分を受けているかのような有り様になってしまいます。そして、レニーとユーニスには、別れの瞬間が。
「過剰に饒舌なレニーの一人語り」と「強烈な口調のユーニスのティーン」のくり返しに翻弄されていましたが、最後の章は「真っ当な英語(の翻訳)」となっていて、これはこれで私にはショッキングでした。いやもう、この本の迫力は、実際に読まなきゃわかりません。読んで下さい。
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