【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

都会の孤独

2013-06-09 08:30:06 | Weblog

 昭和39年にザ・ピーナッツが歌った「ウナ・セラ・ディ東京」(作詞:岩谷時子)には「街はいつでも後ろ姿の幸せばかり」という印象的なフレーズがあります。(好きな歌の一つなので、私のiTunesにも入れてあります)
 最近街に出ると、たしかに「後ろ姿の幸せ」もたくさんありますが、「後ろ姿の孤独」もたくさんあるように私には見えます。今「ウナ・セラ・ディ東京」をリメイクするとしたら、歌詞はどうしたらいいのでしょうか。

【ただいま読書中】『キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか』北尾トロ 著、 幻冬舎文庫、2006年、600円(税別)

 日常生活で「やってみたい……でも……」と断念している様々なことを、小さな勇気を出してやってみたら、という本です。ずいぶん前に読んだ『ついていったら、こうなった ──キャッチセールス潜入ルポ』(多田文明)を私は思い出しました。
 通勤電車の中で知らないおじさんに声をかけて一緒に飲みに行く、というミッションでは、ホモのナンパや宗教の勧誘やキャッチセールスと思われたのか、次々“撃沈”。やっと良いムードになったと思ったら、そこに知らないおばさんが著者に声をかけてきて“妨害工作”をされてしまい…… いやいや、こちらは無責任に大笑いなのですが。
 わざわざお台場に一人で来ている男に話しかける、というミッションにも著者は挑戦します。ただそこでも「拒絶」の嵐。都会に『孤独」は満ちあふれているのに、いちどそこに“転落”してしまった人は、独力で新しい人間関係を築いていくことはとても困難な状況になっているようです。
 電車の中での迷惑行為に注意する、公園で遊んでいる子どもに声をかけて仲間に入れてもらう、あまり親しくない人に鼻毛が出ていることを注意する……著者だけではなくて、私にとってもどれも“ハードル”が高い行為です。ただ、「人と向き合うことのハードルが高い」ことには、「自分で上げてしまっている部分」も確実にあります。そこにチャレンジするか、それとも最初からあきらめるか、と著者は自身の行動を面白おかしく描写しながら、同時に読者に問いかけています。
 別に「昭和30年代の人情」がベストであるとは私は思いません。あれはあれで制約や苛立たしい部分もありましたから。でも、今の「都会の孤独」が好ましいものとも私には思えません。せめて、駅や電車で小さな子供を連れて困り顔の人がいたら「手伝いましょうか?」くらいの声はかけられる人間でありたい、と思っておきましょうか。問題は、私がふだんは電車を使わないことですが。
 本書の後半はちょっと“色合い”が変わります。就職活動をして「フリーライター」の社会的地位を確認させられてしまったり、高校時代に告白できなかった子に40を越えてから告白をしに行ったり、両親の恋愛時代の話を聞いたり……あらあらあら、こちらはこちらでなかなか“魅力的”な行動ばかり。
 最初はただの「おばかな本」という印象でしたが、読んでいる内にどんどん印象は変わり、私は自分とその周囲のことを見つめ直したくなってしまいます。なかなか良い本ですよ。意外な収穫でした。




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