【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

レッテル貼り

2011-08-06 17:11:26 | Weblog

 ヒロシマやナガサキの被爆者を中心とした反核運動に対して、「アカ」のレッテルを貼ることで、そういった運動を無視するあるいは妨害することを正当化する人が過去にいました(実際に「アカ」の運動家もいたけれど、そうではない人も多かったのに)。
 そういった人は福島の(あるいは東日本の)ヒバクシャにはどんなレッテルを貼るのでしょう? そして、近い将来、もしも自分がヒバクシャだとわかったら、どんなレッテルを貼るのかな?

【ただいま読書中】『動物の生活リズム』森主一 著、 岩波書店、1972年、800円

 昭和9年初夏、大学生の著者は琵琶湖の水辺でヤマトカワニナ(琵琶湖特産の小さな巻き貝)の観察をしていました。教授から与えられたのは「夏にはたくさん活動しているヤマトカワニナが冬には姿を消す理由」というテーマでしたが、夏なのに明け方にはほとんどその姿が見えなかったのです。詳しい観察によって、日中には盛んに活動しているヤマトカワニナは日没と同時に湖底の石の裏側に移動していくことがわかりました。では、その理由は? そしてその行動をもたらす因子は?
 著者は観察と実験を繰り返し、環境の中で何がヤマトカワニナに日周期活動をもたらしているのかを科学的に明らかにしようとします。ところが、たとえば「水温」にしても、絶対的な温度だけではなくて「温度変化」についても考える必要があります。なかなかややこしい話です。さらに、それぞれの因子の組み合わせも考える必要があります。
 著者は2年間の研究で、「一日」「季節」「ヤマトカワニナの成長段階」それぞれでの「生活リズム」をつかみます。実はこれらすべてを総合して判断するのが「生態学」なのです。
 次の章は「鳥のさえずり」ですが、録音テープがない時代にどうやってさえずりの記録を残し、それを学生たちに教えたか、という話が私にとっては興味深いものでした。もちろん鳥も適当に鳴いているわけではなくて、ちゃんと鳴くべき時に鳴いているのです。
 生物はどうやって「一定の時間」を知っているのか、は古くからの議論です。「外因説(光や温度の影響、地球の磁場や月の動きを感知している)」と「内因説(生物時計を持っている)」に大別されますが、それを調べる研究がまた面白い。南極にまで動物を連れて行って、ゆっくり回る回転板の上に乗っけて観察する実験なんか、ちょっとやってみたくなります。
 フジツボが登場したのに、私は目をぱちくりしてしまいます。うっかりしていましたが、フジツボは甲殻綱蔓脚類の立派な動物だったんですね。で、フジツボの活動? 写真で見るフジツボの“活動”は、なかなか感動的です。その条件は、夜で、水流が強いこと(ただし、それはクロフジツボの場合で、サラサフジツボには水流は無関係でした)。
 満潮と干潮をちゃんと区別する貝なんてものも登場しますし、ゴキブリやショウジョウバエも登場します。本書は「岩波科学の本」シリーズで、本来は子供向けなのでしょうが、エコロジーに興味のある人は大人でも子供でも一読の価値があると言えます。やっぱり生態学は現場に強い人の話が一番面白いもの。




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