【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

読んで字の如し〈金ー8〉「金」

2011-08-05 18:38:44 | Weblog

「沈黙は金雄弁は銀」……金と銀の交換レートは?
「金食い虫」……歯と消化管が丈夫
「金環食」……金の輪を食べる
「金の卵」……どんなヒナが孵るのやら
「手切れ金」……手が切れるような札束
「目腐れ金」……邪眼を持つ金
「遊び金」……遊びに出たきり帰ってこない
「金槌の川流れ」……浮いて流れる金槌もある
「聞いて千金見て一文」……百聞は一見にしかずの辛い例
「針金」……純金の針、あるいは、純針の金
「借金」……銀や紙幣で返してはいけない
「闇金融」……金が融ける闇の世界

【ただいま読書中】『ロースハムの誕生 ──アウグスト・ローマイヤー物語』シュミット村木真寿美 著、 論創社、2009年、2000円(税別)

 著者はドイツ人と結婚して、ハム・ソーセージが千種類以上ある国に住んでいますが、そこに「ロースハム」は存在しないそうです。
 話は青島で始まります。第一次世界大戦で日本が陥落させたドイツの租借地。そこで捕虜になったドイツ兵の中にアウグスト・ローマイヤーという上等水兵がいました。故郷を失い食肉加工の徒弟修行を終えたところで水兵となり中国へ派遣。そこで開戦。青島は陥落し、ローマイヤーは捕虜となります。(ちなみに、このとき同時に捕虜になった民間人の中に、菓子職人のユーハイムがいました)
 まず熊本の“収容所(実はお寺)”へ、そして久留米衛戍病院を利用した捕虜収容所に各地から捕虜が集められ、1915年6月には収容人数は1319名となりました。捕虜収容所に関して、「板東は天国、久留米は地獄」と言われたそうですが、ローマイヤーが到着したときの所長は真崎甚三郎中佐(2・26事件で、青年将校を煽動したのに無罪となった人)で、捕虜の将校を殴打したり地元の警察や新聞と対立したりのとかくの人で、すぐに陸軍省に異動になっています。
 さて、食事ですが、当時の日本の食糧事情の貧しさと、文化の違いから、捕虜の食環境は悲惨なものだったはずです。それでも工夫が始まります。
 1920年についに解放。ローマイヤーは日本残留を決意し、東京で帝国ホテルに就職します。そこで豚の飼育と加工をまかされ、ハムとソーセージの味が評価されて出資者が現われます。その機会を逃さずローマイヤーは独立して「ローマイヤー・ソーセージ製作所」を作ります。1921年、29歳の時でした。当時の日本では畜産はまだ盛んではなかったため、正統的な豚の腿肉を燻製して作るハムではとても高価でしかも日本人の口には合わないものになります。そこでローマイヤーは、横浜「南京町」で使い残される背肉とロースを集め、ボイルして「ハム」にすることを考えました。「ロースハム」の誕生です。ロースハムは評判となり、類似品が次々登場します(その多くは、ローマイヤーの下で修行した人たちが作ったものだったようです)。
 ゾルゲ事件(ゾルゲはローマイヤーの店によく出入りしていました)、第二次世界大戦……ローマイヤーの苦労は続きます。ドイツ人は「同盟国人」のはずですが、当時の日本では「外国人(=スパイ)」というくくりで扱われていました。というか、関東大震災の時には「朝鮮人だ!」と殺されかけたりするのですから、昔の日本が「日本人以外」をどう扱っていたのか、私の想像を超えた世界だったのかもしれません。
 故郷を喪失し、流れ着いた日本で「日本にしか存在しないハム」を作り出した人の人生は、そのまま当時の日本を語る“軸”としての役割を果たしています。そうそう、ローマイヤーの奥さん(日本人)についてはもう少し詳しく知りたいなあ、と思います。
 本書は、柔らかい語り口で読みやすいのですが、もうちょっと資料を広く深く調査したらもっともっと面白くなるのに、というところがあちこちにあります。そうだなあ、NHKじゃなくて民放のドキュメンタリー番組のノベライゼーションを読んでいる感じ、と言えば雰囲気が伝わるかな?




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