【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

名前の公表

2021-01-16 07:51:04 | Weblog

 政府の言うことを聞かない連中(時短営業をしない店、入院を嫌がる患者、コロナ病床を増床しない病院)はことごとく名前を公表したり罰してやる、と政府はエラい剣幕ですが、そういった動きを、「桜を見る会」の名簿はさっさと非公表にしてさらにこっそり忘年会や新年会をやってた連中なのに、と冷ややかに見ている人もいるのではないかな。失政からの責任逃れのために「国民の皆さん、こいつらを責めてください」と“安心して攻撃できる対象”を差し出そうとしているだけではないか、と。

【ただいま読書中】『黒い賠償 ──賠償総額9兆円の渦中で逮捕された男』高木瑞穂 著、 彩図社、2019年、1500円(税別)
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 「フクシマ」で東電が賠償として支払ったのは9兆円。その中には「詐欺」も混じっていました。その「主犯」とされた東電社員岩崎が本書の“主人公”です。もっとも、“主人公”というのは警察の見立てで、岩崎本人はいつの間にか巻き込まれていただけ、と主張するのですが。ただ、岩崎の主張は、それなりにスジが通っているように私には感じられます。そもそも主犯だったら、最初から別の詐欺事件の摘発で警察に協力なんかしないでしょう。
 国際的な偽装結婚をしているグループがたまたまカモにした人が東電の社員で、しかも賠償に関わっていることを知って、それを上手く取り込んで詐欺に利用した、というのが本当のストーリーではないかな。巨額の資金が動くところには、色んな人が集ってきますから。
 しかし、震災後1箇月以上が経過した時点でも、東電社員は「被害者意識」は持っていても「加害者意識」はゼロだった、というのには驚きます。そういえば東電が公式にメルトダウンを認めたのは5月18日になってから。そういった社内の雰囲気にもかかわらず、岩崎は「賠償係」に志願しました。そこで身につけた知識と経験が、のちに詐欺グループに悪用されることになるとも知らず。
 この「賠償手続き」で、東電社員が機械的で冷淡な対応をして被災者を泣かしている、というのは、当時聞きましたが、その現場についての描写を読むと、そのひどさに改めて感じるものがあります。結局東電は、自分たちがやらかしたことの重大さを否認し、事態を矮小化することで、金と責任の重さを“節約”しようとしてたのでしょう。さらに、現場の社員、管理職、東電が丸投げした監査法人デロイト、原子力損害賠償・廃炉等支援機構がそれぞれ好き勝手なことを主張・行動するので、結局「真面目な被害者」ほど損をする、というとんでもない構図に。つまり「水増し請求や詐欺の横行をシステムとして許す」ことになってしまったのです。しかし、巨額の水増し請求で、それまで赤字だった企業が黒字に転換したり、真面目に請求したために死ぬ寸前まで追い詰められる人がいたり、「暗部」と呼ぶにはあまりにすさまじい「賠償請求」の世界です。その修羅場で、愛社精神からがんばり続けて頭角を現した岩崎は、賠償詐欺を摘発する担当に抜擢されます。そして……
 本書を読んでいて強く感じたのは「善人は損をする」です。被災者が賠償請求する場合でもそうですし、犯罪に関与した場合も根っからの悪人と巻き込まれた善人がいたら善人の方が重く罰せられます。特に一昨年から始まった日本版の司法取引では、確信をもって悪事を為しその罪を他人になすりつける気満々悪人が検事と“協力”したらその身代わりとして、「うっかり悪事を為してしまった善人(あるいは気が弱い人)」がいくらでも刑務所に送り込まれることになるでしょう。本書の裁判では司法取引は行われていない様子ですが、これからいくらでもそんな例が増殖することでしょうね。「悪事に関与した時点で、その人には厳罰を」という原則も大切かもしれませんが、本当の悪人を野放しにすることは、犯罪の再発予防には役立たないのではないかな?

 



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