【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

「知っている」と「わかっている」と「できる」

2021-01-17 11:49:44 | Weblog

 「知っていること」と「その知識を活かせること」は別の問題です。たとえば1970年代のアメリカで、ティーンエイジャーを対象とした調査では、彼らは「コンドームが避妊と性病予防に役立つ」ことは知っていましたが、「性病になったら自分がどうなるか」についてはほとんど無知でした。
 ただ、このことを私は笑えません。だって同じ時代の日本の高校では「コンドームそのものに無知」な人が大多数だったのですから。
 そして今のコロナ禍。たとえば「マスクの重要性」は「ただの知識」ですか?それとも「正しい知識に基づいた行動」になってます?

【ただいま読書中】『リンのはなし ──生命現象から資源・環境問題まで』大竹久夫 著、 朝倉書店、2019年、2500円(税別)

 ヒトの体重の大体10%は骨で、その重量の10%がリンです。骨を維持するために日本人は平均で1日に1グラムのリンを必要とします。するとその総量は1年間で約4.6万トン。ところが日本国内でリンは産出しません。リン鉱石を必要なだけ輸入しなければならないのです。
 今から50年前、アイザック・アシモフは「リンによって地球上の生命の総量は規制される」と予言しました。その予言が実現するのは、近い将来の日本で、かもしれません。
 リン原子の最も単純な分子は「P2」ですが、これは容易に2分子が結合して「白リン(正四面体のP4)」になります。時間が経過すると白リンは不安定なポリマーとなり「赤リン」に変化します。白リンに赤リンが少し混ざったものを「黄リン」と呼びます。白リンと黄リンは室温でも酸素とゆっくり結合して青白い光を出します。発火点は摂氏60度あたりで容易に自然発火するので、保管は「酸素と触れないように」と定められています。赤リンの発火点は260度なのでそこまで心配する必要はありません。マッチでは、箱に塗られた側薬が赤リンで、そこをマッチ棒でこすると摩擦熱で赤リンが発火、それがマッチ棒の先端の硫黄などに引火します。1922年くらいまで黄リンがマッチに使われていましたが、自然発火や毒性(製造工場で工員に顎の骨が溶ける顎骨壊死などが発生)の問題があり、製造禁止となっています。そういえば西部劇でカウボーイが靴の底でマッチを擦って火をつけているシーンを覚えていますが、あれは黄リンマッチだったのでしょうね。白リンは、焼夷弾にも使われていて、その不発弾の欠片を拾って火傷を負う、という事故も世界各地であるそうです。
 恒星の核融合では鉄以上に重い元素は作れません。恒星の終末期に超新星爆発を起こすと重い元素が作られますが、リンもその時に作られました。ただ、星によってはリンが豊富にあったりなかったりで、地球はたまたまリンが豊富な超新星爆発で生じた原子たちによって形成されたようです。すると、もしも「生命にリンは必須」なのだとしたら、「宇宙人」は私が期待するよりも多くない可能性があります。
 「リン鉱石」で私がすぐ思うのは「グアノ」ですが、乱掘で資源はすでに枯渇しているそうです。
 世界で採掘されるリン鉱石の85%は食糧生産に使われています。つまり、世界でなくてはならない物質なのです。
 リンは枯渇が懸念される資源ですが、同時に環境破壊の元凶でもあります。地下から掘りだされた鉱石は地表で選鉱されますが、リン鉱石の中にはカドミウムやウランが豊富に含まれているのです。私たちがリン鉱石を輸入した現地にはそういった有害なものが大量に残されていることを、忘れてはいけないでしょう。また、リンや窒素が湖や内湾に流れ込むと、富栄養化を起こすことも知られています。
 農業で植物を育てるのには、17の元素が必要です。その内「肥料の三大要素」は「窒素、リン、カリウム」で「二次要素」が「硫黄、マグネシウム、カルシウム」。残りは微量要素です(炭素、酸素、水素は大気や水から取り入れることが可能なので肥料要素には含めません)。で、この17の元素は、人体を構成する元素でもあります。また、家畜の飼料にも成長促進効果を期待してリン酸カルシウムが添加されています。
 バイオエタノールは「エコ」という触れ込みですが、わざわざ「食べない食料」を栽培するためには、広い土地と肥料が必要になります。つまりここでもリンが消費されることになるのです。
 産業の分野でもリンは重要です。蛍光体(ハロリン酸カルシウム)、インジケーターのランプ(GaP半導体)、ハードディスクやDVDの化学メッキ(プラスチックへのニッケルメッキ)でニッケルを次亜リン酸で還元、電気自動車のリチウムイオン電池の電解質(六リン酸フッ化リチウム)、ハムやソーセージの結着剤(縮合リン酸塩)等々……ただ、工業では「コスト」が厳しい要因として働くため、無駄になるリンはまだ少ないようです。大量に無駄に捨てられている可能性が高いのは、食品廃棄物。こういった「捨てられるリン」をなんとかリサイクルのプロセスに乗せれば「地下資源としてのリン」を「地上資源」として扱うことができるようになります。私が特に注目したのは、下水からのリン回収。これは、リンを資源として使えるようになるだけではなくて、水環境の富栄養化の予防にもつながります。一石二鳥です。下水に流したら「汚染物質」でも、回収して活用したら「資源」なのです。これはリンに限った話ではありませんが。

 


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