【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

千客万来

2012-03-13 18:49:52 | Weblog

 私の良く知っている町がテレビニュースに出てきて、最近観光客が減ったので困っている、お客さんにたくさん来て欲しい、と町の人が訴えていました。もちろん観光客が減るのは困るでしょうし、たくさん来て欲しいという願いはわかります。でも、その町が嫌いではない私の目から見ても、「どうしてもそこに行きたい」という“動機”が乏しいんですよね。
 「来て欲しい」と願うだけではなくて、たとえば「どんなお客さんなら来てくれるだろうか」と具体的に「北海道のおじいさんは来たくなるか?」「沖縄の子供は来たくなるか?」「ニュージーランドのキャリアウーマンは来たくなるか?」と「どこそこのだれだれさん」をイメージしないと、「願い」には「力」が伴わないのではないか、と思えるのです。ただ漠然とした「お客さん」を待つだけでは、じり貧になっていくのではないかなあ。

【ただいま読書中】『IBM神話の崩壊』板垣英憲 著、 ぱる出版、1990年、1262円(税別)

 今となっては「IBM神話って、何?」と言われてしまうかもしれません。しかし20世紀の一時期、「IT産業のトップ」にIBMが君臨していた時代は確かにありました。本書は「昭和」が終り「平成」が始まった頃のお話です。
 著者は毎日新聞の記者で、政治・経済を担当としていた、ということなのですが、なんでこんな人がIBMについて書くことになったのでしょう? 明らかに“理系”の人間ではありません。だったら調査報道の手法を駆使してIBM内部の人間あるいは内部を知る人間にインタビューして回っているかと言えば、そうでもありません。ただ机に座り込んで、公開資料をいじくり回しているだけです。
 機械にも詳しくありません。なにしろ、日本語入力は「富士通のワープロが一番」で、「IBMのパソコンはひらがな入力ができないから使う気にもなれない」というのですから。まあ、あの頃には「パソコンなんて何ができるんだ。ゲームはファミコンが一番だし、日本語入力はワープロ(専用機)が一番だ」と言う人が多かった時代ではあるのですが、平成になった頃からパソコンのワープロソフトもけっこう使えるようになっていたはずなのですが。
 本書で著者が一番筆が快調なのは、人事に関する記述のところです。きっと著者の得意領域なのでしょう。もっとも、新社長は何が特徴で何が得意技かは、公開されている経歴から読み解こうとするだけですから、突っ込みの浅さに私は思わず目を覆ってしまいますが。
 おっと、「実地調査」もありました。休日の午後、日本IBMの役員の自宅に次々電話して本人が在宅しているかどうかを確認しています。こんな“調査”に何の意味があるのかは知りませんが。少なくともこの頃は「電話帳」が“使える”時代だったことがわかる、という“資料的価値”がある記述ではありますが。
 あの頃の全国新聞は、IT関連の記事があまりにお粗末なため何の参考にもならなかったことを思い出しました(おっと、ITに限らず、私にある程度わかるどの分野でも専門記事の突っ込みが浅くて“使い物にならない”と思っていましたっけ)。あの頃はまだインターネットもパソコン通信も未熟だったため、私にとってはパソコン雑誌が唯一の情報源だったのを思い出しました。懐かしい気分です。そういった雑誌は提灯記事が満載ではありましたが、それをちゃんと選別して読み解けるようになるのが、読者のリテラシーでしたよね。
 DOS/Vの仕様公開から、IBMは「多くのメーカーの中の一つ」になってしまい、2004年にはとうとうパソコン部門を中国に売却することになって、たしかに「IBM神話」は崩壊したわけですが、それは本書からずっと後のことですし、本書の著者が未来を予測したわけでもありません(それどころが著者は「IBMが“未来”を自分に教えてくれない」と文句を言っています)。マイクロソフトが全盛となったときには私も「アップル社はこのまま消えてしまうのだろうか」なんて心配をしていましたから、他人のことをいろいろ言えた義理ではないのですが。




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