【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

失敗の効用

2020-11-10 14:30:30 | Weblog

失敗の効用
 「知識」は単体では人を幸福にはできません。しかし、知識を活かす「知恵」とそれを上手く使うための「技術」があれば、人は無知なときよりは幸福になりやすくなります。さらに「経験」それも「失敗した経験」を積んでいてそれを活かせれば、人はさらに幸福になりやすくなるでしょう。

【ただいま読書中】『「江戸大地震之図」を読む』杉森玲子 著、 角川書店(角川選書)、2020年、1800円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/404703648X/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=404703648X&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=fa3d8bc6d536591b80377453be58b010
 「江戸大地震之図」と題簽に素っ気なく書かれているだけであとは説明が全然ない絵巻が、薩摩藩の島津家文書に存在しています。それとほぼ同様の絵巻がかつては近衛家に所蔵されていました(現在はアイルランドのチェスター・ビーティー図書館に「安政大地震災禍図巻」として保存されています)。
 安政江戸地震は、安政二年十月二日(1855年11月11日)に発生したマグニチュード7程度、最大震度6の直下型地震です。被害は、倒壊家屋1万以上、死者7000人以上と推定されています。
 本書の冒頭に、絵巻の全体図が分割して載せられています。最初は静謐な茶室、表通りには人通りが多く商店は繁盛している様子です。それが夜になるとしんと静まりかえり、そして大地震、人びとはうろたえ騒ぎ、火災が襲い、そして再建。私のような素人にはこれくらいしか読み取れませんが、“プロ”は、当時の地図や町触れなどの史料を駆使して、“ここ”がどこで登場人物たちが誰か、まで次々特定していきます。その過程は知的にスリリングで、実に面白い。
 たとえば絵巻に描かれている半壊した屋敷は島津家の芝屋敷で、庭先に置かれた畳の上に立つのは島津斉彬夫妻と篤姫である、と特定されます。つまりこの絵巻の主題は、島津家の視点から見た安政大地震。だからこそ、篤姫が嫁入り前に養女となった近衛家にも写しの絵巻が送られたのでしょう。
 何の説明もないため、絵巻が作られた真意は私にはわかりませんが、「記憶」を「記録」に変換したいという感情がその原動力ではないか、とは思えます。
 しかし、安政地震の記憶も記録も、関東大震災の時には役に立ちませんでした。では「次の首都直下型大地震」ではどんなものが役立つのでしょう?
 しかし、絵巻って「見る」ものではなくて「読む」ものだったんですね。