【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

天の川

2020-11-06 08:24:52 | Weblog

 私が育った街ではすでに大気汚染があって、しかも私は子供時代から近視だったものだから天の川をきちんと見たことはありませんでした。「おお、これが天の川か」としっかり見えたのは中学校の林間学校の時でした。普段見慣れている「星が点在している夜空」ではなくて一つ一つの星が分離できない「なるほど英語でMilky Wayと言うわけだ」という圧倒的な衝撃でしたっけ。近視で光点がにじんで見えただけかもしれませんが。

【ただいま読書中】『アンドロメダ銀河のうずまき ──銀河の形にみる宇宙の進化』谷口義明 著、 丸善出版、2019年、2200円(税別)

 かつては「天の川」が「宇宙そのもの」だと考えられていました。しかし1925年「アンドロメダ星雲」が実は「天の川の外にある銀河」であることが判明、それによって我々は「宇宙は多数の銀河から成る」という概念を得ることになりました。「天の川」自体が、地球がその中に含まれている「銀河(天の川銀河)」なのです。
 宮沢賢治は『銀河鉄道の夜』を1924年に書き始め、死の直前(1933年)まで遂行を続けていました。そこには当時の最新の天文学の知見が盛り込まれていたはずです。
 望遠鏡で夜空を観測することで「天の川は星の集団である」と述べたのは、ガリレオ・ガリレイです。しかし、望遠鏡がない時代に肉眼で観測することでそう推察したのは、古代ギリシアのデモクリトスでした。18世紀、イギリスの天文学者トーマス・ライトは「宇宙は無数の小さな星からなる平行板のような構造をしている」と主張、それはイマヌエル・カントに影響を与え、カントは「太陽系は星雲が回転し、収縮してできた」「天の川は太陽系の拡張版で、多数の星々が円盤状に分布している」と述べました。さらにカントは「宇宙には天の川以外にも同じような銀河があるのではないか」とも述べているそうです。つまりカントは、想像力だけで「円盤状銀河の構造」と「宇宙に銀河が満ちていること」を言い当てているわけで、「知性」って、怖いですね。
 天の川銀河は約1000億個の星から成っています。また、大量のガスやダスト(微粒子)もあります。さらに銀河を取り巻くように正体不明の暗黒物質(ダークマター)が大量に存在しています。銀河は巨大で重たい“物質”ですが、それが宇宙全体では1兆個存在していると推定されています。
 その中で天の川銀河に一番近いのがアンドロメダ銀河。明るさは4.4等級、見かけの大きさ(直径)は満月の6倍、肉眼で見える限界は6等星までですから位置さえ知っていれば肉眼でアンドロメダを見ることは可能です。では本書の主題「アンドロメダ銀河のうずまき」。天空にはきれいな渦巻き銀河が多数存在しています。その原因として、2つの銀河の衝突が挙げられています。銀河は孤立しているのではなくて、群れで存在しています。だから衝突することは珍しくないのです。ただ、衝突以外で渦巻きは生じないのか、と言えば、よくわからないのだそうです。
 アンドロメダ銀河を詳しく観察すると、その構造は「うずまき」と言うよりは「リング(ただしまだ中央が抜けていない)」であることがわかりました。実は宇宙には「リング銀河」は非常に珍しく、わざわざ「特異銀河」と分類されています。このリングがどのように形成されたか、のメカニズム解明のところが実に面白い。銀河の回転軸方向から別の銀河が衝突した場合、星の集団に重力が力学的に働き最終的にリングが形成されるのだそうです。
地球から1億3000万光年離れたポーラー・リング銀河NGC4650Aは、リングの中心に円盤と直交するバルジがあるのですがこのバルジはもとの銀河に降ってきたガスに富む円盤銀河の残骸だそうです。いやあ、この写真、壁紙にして飾りたい。
 アンドロメダ銀河の周囲には約30の衛星銀河が存在していて、淡いガスなどの「構造」でつながっています。では過去にはもっと多くの衛星銀河がなかったのか?という疑問を持った学者が、小さくて軽い銀河を想定してそれをアンドロメダ銀河に合体させる過程をコンピューターシミュレーションしてみたところ、見事に現在のアンドロメダの内部構造が再現されたそうです。そのとき、アンドロメダの“向こう側”にも不思議な構造が出現したのだそうですが、これは地球からは観測されません。なんだかもどかしいなあ。
 「現場」を調べる手法もあります。「銀河考古学」では、天の川銀河に近い銀河の星を一つずつ分離してその化学組成を調べたり、銀河と銀河の衝突で銀河の外に放り出された星やガスの組成を調べることで、「過去」を再現しようとしています。カナダの研究チームはハワイの反射望遠鏡を使っての「パンダス計画」で、銀河考古学の手法を用いてアンドロメダ銀河の研究を行っています。それによってアンドロメダ銀河が数十億年のオーダーで多くの銀河と衝突や合体を繰り返してきたことがわかりました。なんとも雄大なお話です。
 では、私たちが含まれているこの天の川銀河の姿は? 本書には「おそらく棒渦巻銀河」と予想が述べられていますが、誰もそれを見たことはないわけです。
 大腸菌は自分が住んでいる世界(人体)の姿を確認することはできません。人間も自分が住む銀河の全体像を確認することはできません。だけど、人間は想像や推論によって見えないものを見ようとしてきたし、これからもそうするでしょう。それが大腸菌と人間との大きな違いだ、と私は思っています。