【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

身近なもののけ

2015-08-28 09:42:49 | Weblog

 「KY」が読むべき「空気」は、妖怪や幽霊と同じく“実在”はしないのに、妖怪や幽霊よりも日常的に人に対する影響力が強いのが、ちょっと困ったものに思えます。

【ただいま読書中】『陰陽師 ──生成り姫』夢枕獏 著、 朝日新聞社、2000年、1400円(税別)

 シリーズ第4巻ですが、本書は、朝日新聞に連載された関係で、文藝春秋社からの発行ではありません(ただし文庫本は文春文庫です。権利関係はどうなっているんでしょうねえ)。また、シリーズ初めての長編です。新聞で初めて「陰陽師」という言葉に出くわすであろう読者のために、プロローグで親切に陰陽師についての解説がありますので、本書から本シリーズにはいるのも、一つの手だろうと思います。
 本書は、以前あった短編の「鉄輪」がベースとなっています。しかしさすがに長編、じっくりと書き込まれた平安の闇は、読者の心の中だけではなくて体の外も包もうとする力を持っています。
 それにしても、人が鬼になるとは、悲しいことです。これが単に恨みから鬼になって単純に暴れ回っているだけだったら、まだ話は簡単です。人に仇なす鬼を退治すれば良い。だけどその「鬼」が、自分と関係のある人だったら? さらにその「鬼」が、自分が鬼になろうとしていることを自覚しそのことを悲しんでいたら? 「鬼になる自分」を他人に目撃されることを恥じていたら?
 人の心の中には「鬼」が住んでいますが、鬼ではないものも同じ人の心の中には住んでいます。鬼を退治しようとする人の心の中にさえ「鬼」と「鬼ではないもの」とがいるのです。そういった「存在」に、陰陽師はどう対処したらよいのでしょう。呪を返して鬼を退治する方法は、様々な事情から今回はできません。表面上はクールに見える安倍晴明ですが、実は悩んでいます。
 物語は、悲しい結末を迎えます。というか、ハッピーエンドはあり得ないでしょう。ただ、一筋の救いが安倍晴明と源博雅のために、そして読者のために残されていました。とても悲しい哀しい救いですが。
 しかし、安倍晴明と源博雅は本当に良いコンビです。この二人の生き方を見ていると、「人生」とは「個人が生きること」ではなくて「人と人とが生きること」なのかもしれないと思えます。