地図にはしっかりと海岸線が描かれていますが、これって、満潮と干潮、波が打ち寄せたときと引いたときとで、とっても大きな差が生じません?
【ただいま読書中】『ネバーウェア』ニール・ゲイマン 著、 柳下穀一郎 訳、 インターブックス、2001年、2400円(税別)
今年4月18日に読書した短編集『壊れやすいもの』と同じ著者の長編です。
ピーター・パンはネバーランドですが、こちらは同じロンドンが舞台でもネバーウェア(Neverwhere)です。
ホームレスの恰好のドア(Door)という名前の少女が殺し屋に追われて路傍に血まみれで倒れているのに出会って、リチャードの運命は変わります。婚約を破棄され鼠に謝罪しマンホールに潜り込むことになるのです。さらには、社会的な透明人間になり(職も住居も失いクレジットカードは停止され、誰に話しかけても相手にしてもらえません)、さらには殺し屋に「生きたまま自分の肝臓を口に突っ込んでやる」と脅迫されます。リチャードは“上のロンドン”から地下世界に潜り、人を喰らう夜の闇の橋を渡ります。リチャードは上のロンドンでは(それほど有能だったとは言えませんが)金融マンとして一応の仕事はできていました。しかしこの地下世界では徹底的に無力です。鼠の方がよほどきちんと力強く生きています。小突き回され侮辱され無視され搾り取られたリチャードは、やっと「目的」を得ます。ドアと一緒に天使を探すのです。向かうのは「上のロンドン」の大英博物館。
しかし、みごとな「常識人」であるリチャードは、その常識が通用しない異世界で、自分が何を頼りに生きていくのか、少しずつわかっていきます。本人にはその意識は全然無いのが笑ってしまいますけれどね、これは著者の筆の冴えと言えるでしょう。「主人公の成長」を描いた点では、本書は昔の教養小説の21世紀版と言えるのかもしれません。ただ、その舞台の異世界ぶりは徹底していますが。
そうそう、「ドア」の持つ異能は、この異世界でも異彩を放っています。名は体を表す、とは言いますが、だったら彼女の兄(名前は「アーチ」)の能力は何だったのだろうか、なんてことも思っちゃいますね。
現実の「大都会」の“裏側”ではなくて“下側”に“異世界”が広がっている、というのは、なかなかダークで壮大なファンタジーの舞台です。残念ながら著者は(まだ)書いていないようですが、続編が読みたくなってしまいました。