ということは「知の小人」も存在するということに?
【ただいま読書中】『陰陽師』夢枕獏 著、 文芸春秋、1988年、1000円(税別)
著者によると「平安時代とは、雅な闇の時代」なのだそうです。本書は、そのたおやかで雅で陰惨は闇の中を飄々と流れていった男の物語です。
目次:「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」「梔子の女」「黒川主」「蟇」「鬼のみちゆき」「白比丘尼」
まずここで笑っちゃうのは、初出雑誌が「オール讀物」が2編、あとは「SFマガジン」「週刊小説」「小説新潮」「小説奇想天外」と見事にバラバラであることです。
それと、冒頭の「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」。前に読んだときには読み飛ばしてしまいましたが、時代が村上天皇の天徳内裏歌合よりもあとになっています。岡野玲子のコミックでは第7巻でこの歌合が登場することを思うと、時系列が見事に編集されています。
安倍晴明と源博雅のコンビは、「怜悧で非常識なイケメン」と「常識的で無骨な良い漢(おとこ)」という絶妙の組み合わせです。この二人が都を徘徊するあやかしと“対決”というか“対面”というか、まあ次々出会っていくわけですが、面白いのは二人ともあやかしを“差別”していないことです。博雅は人に害を為すものなら退治しようとしますが、晴明は生かそうとします。しかし二人ともあやかしの存在自体は当然のものとしている様子です。私だったら「あやかしが存在すること」自体に興奮してしまいそうですけどね。