2008年5月27日のブログ記事一覧-ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい> 去年に続いてまたまたアンヘル・ロメロ

 昨年の5月、村治佳織さんと共演するために日本にやってきたアンヘル・メロメロ、いやアンヘル・ロメロさんが、またまた大阪国際フェスティバルへやってきた。そう、アンヘルさんはこの第50回大阪国際フェスティバルのためだけに日本にやってきたのです。本番のある17日の2日ほど前に来日して、本番の翌日18日に飛行機に乗って帰っていきました。このたった1回のコンサートのために、はるばるアメリカからやってきたんどすよ。
 ところで「おみゃあさんはいったいアンヘル・ロメロとどんな関係があるだか?」とおたずねの方もおられることと存じまするが、そこはほれ、去年の5月のこの「ミューズの日記」を見てくだされ。「アンヘル・ロメロがやってきた」と題して4回ほど連載しておりまして、それをご覧になっていただければ私がどんなふうにアンヘル・ロメロと関わりあっておるだかお分かりいただけると思いまする。

 去年の来日の時にも使用してもらったイクリプススピーカーを使ったMSデジタルPAシステムを急遽また使いたいとのご希望が出て、ほんに急遽私が出張って行かざるをえなくなったという次第。当日私が大阪は中之島のフェスティバルホールへ着いたのは朝の10時。ゲネプロが1時から始まるというので11時頃来てくださいと言われておったのですが、何かあっちゃいけないと随分早くに着いてしまった。会場に機材を運び込み、オーケストラの椅子やらひな壇やら、全ての用意が終了するのを待っていよいよこちらの機材のセッティングに入る。といってもソリスト用のコンデンサーマイクを中央に置いて、そのソリストの斜め後にスピーカーを置いて、あとは舞台下手に置いたマイクアンプとパワーアンプとの間をケーブルで繋ぐだけなので、ものの15分か20分で終わり。早々にお昼を済ませて当のアンヘルさんを待つ。しかしながらいつ来てもこの会場はでかい!舞台の端から端までゆうに30メートルはある。舞台中央においたマイクからマイクアンプを置いた下手まで15メートルのケーブルでは届かない。20メートルは必要。多少オーバーだと思われるかもしれませんが、客席の両サイドでは舞台のオーケストラをほとんど真横から見るような感じ。しかもかなり離れた位置から見なくちゃならない。とにかくでかすぎ!収容人数も2300人だか2400人だか。3階席などステージから見上げるようだ。生の音を損なわないようにできるだけ最低限の機材でまとめた私のシステムのコンセプトから言えば、とにかくケーブルが長すぎる。しかし去年やった経験からすると充分なクォリティを維持していたのでまずはだいじゃぶ、だいじゃぶ、と自分に言い聞かせてアンヘルさんの登場を待つ。案の定1時からというスケージュールが時間になっても当のご本人が現れない。30分ほど遅れて例のごとくご機嫌に大音声で登場。去年村治佳織さんが「私が今までに会った人の中で一番声の大きな人」と言っていた通り、メガホン使ってしゃべっているのかと思うくらいでかい声!

 とにかく挨拶する前にリハーサルに入る。最初はチェスキーという作曲家の新作「フラメンコ・ギターのための協奏曲」から。我々もまだ聴いたことの無い作品だけにワクワクと期待が高まる。出だしは静かに神秘的なオケの響から入り、少しづつギターが歌い出すのだが、聴きにくい現代曲という感じはまったくせず、アンヘルの持ち前の歌心を充分に知りつくした作風。あとはどんどんエスカレートしていってとにかくギターが大活躍。アンヘルの魅力が満載!そしてそのアンヘルのギターの音のまあ素晴しいこと!あんなに美しくて大きな音をかつて聴いたことがない。そして1曲目を終わって少し休憩という時に再会のご挨拶。まず握手をしようと思ったら、去年お会いしていることを覚えてくれていてなんとアンヘルさんから抱きついてきた。いわゆる今流行の「ハグ」ってやつですか。そのあとはとにかく「この機材はすごい!」「気に入った!」「まったく電気を使っているとは思えない!」「アメリカでも使いたい!」の連発。そして「どんなアンプを使っているのか見せてくれないか」とのことなので舞台下手に置いてある小さいマイクアンプと専用のパワーアンプを見せると「これだけ?!」とまたまたおどろいて「素晴しい!素晴しい!」の連呼。その後いろいろお話をしましたが、この日は私の持っているアンヘルさんのレコード(LP)を全て持っていったので、それを彼に見せたところ「よくこんなに持っているなあ。私だってこんなに持っていないよ」と目を丸くして大変喜んでくれた。もっともこれは私としても若い頃からの大好きなレコードなので「これは私の宝物だ」と言ったら満面の笑みで「サインをしよう」と言ってくれて、なんと全てのレコードのジャケットに自らサインをしてくれた。そのあとアンヘルさんに「どうしてあんなに美しい音が出せるのか」と訊くと、謙遜するかと思いきや憎い事を言うねえ。「私にはわからない。これは神から授かったものだから」との返事。しびれたねえ。それほどアンヘル・ロメロの音は素晴らしかったというわけだが、思わず私も「でも、貴方は私にとっての神です」と言ったらアンヘルさん、なんと目を丸くして思わず私を抱きしめるではありませんか!結構なお年の二人の男が目の前でがっちりと抱き合っている風景は、横にいて通訳してくれた若い女性にはどんな風に映ったことでありましょうや。

 暫くして十八番「アランフェス」に入りましたが、この曲はアンヘルさんにとってはもう何百回も演奏した曲。リハーサルとはまさにオーケストラのリハーサルであって、アンヘルさんはもう自由自在。好き勝手に弾きまくりますが、これがまたなんとも様になっていて、聴いているこちらもワクワク・ゾクゾクの連続。音も素晴しいがそのテクニックたるや向かうところ敵無しってなもんで、快刀乱麻、縦横無尽、気分爽快、大喝采。こんなかっこいいアランフェスなんてそうざらにあるもんでねえ!またアンヘルさんはというとPA機材のことがとても気に入ったらしく、客席で聴いている私に向かって満足そうな笑顔で何度も「クリアー!クリアー!」を連発しておりました。

その後本番を向かえますが、なんと先ほどのリハーサルより断然素晴しい演奏をするではありませんか。歌いまわしといい、見せ所の技巧といい、飛び切り上等の「ショー」を見せられたよう。会場からもものすごい拍手が起ってオケを後ろに控えたまま2曲もソロでアンコールに応えたアンヘルさん。鳴り止まない拍手に「もうこの通り疲れた、勘弁してくれ」とばかりに両手を前に出して「ブラブラブラ」。さらに拍手が起ってやっとおしまいに。その後コンサートに来られなかった主催者であるところの朝日新聞社「社主」のご自宅へ自ら訪問して挨拶の後、そこで2曲演奏してご満悦で帰って来たそうな。そして翌日はもう飛行機に乗ってアメリカへ帰っていきました。とにかく台風のような迫力と、太陽のような明るさと、素晴しい音と歌をもった天才、アンヘル・ロメロは3日間だけ日本に来て、あっと言う間に帰っていったのでありました。めでたし、めでたし。おしまい。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)

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