2008年5月10日のブログ記事一覧-ミューズの日記
ミューズ音楽館からの発信情報  ミューズのHP  http://www.muse-ongakukan.com/

 



<あれも聴きたい、これも聴きたい> アルヴァロ・ピエッリのアランフェス

 まあ誰でもかれでも申し合わせたように“アランフェス”。あたかも「アランフェスを録音せぬ者ギタリストに有らず」といった感があるが、それほどギターの協奏曲といやあアランフェスしかないかのように毎回毎回おんなじ曲。生の演奏ということになるってえとそりゃあまだまだ世界中には聴いたことのない人は沢山いるだろうからしかたないとしても、録音ということになりゃあもう少しは毛色の変わった曲が出てきてもよかんべなという気がする。そういいながらも今回はウルグァイ出身のギタリストで、第18回のパリ国際ギターコンクールのほか数々のコンクールで優勝、及び入賞を果しているアルバロ・ピエッリがソロを担当し1996年に録音したギター協奏曲ばっかしのCDを取り上げます。このCDにはアランフェス協奏曲の他にジュリアーニの協奏曲第1番OP.30とブローウェルの3つの協奏舞曲(1スケルツォ、2アンダンティーノ、3トッカータ)の計3曲が入っている。さきほども言ったようにこのアランフェスにはギタリストというギタリストが全て録音してるんじゃねえかというくらい沢山の録音があって、いったいどれが一番のお勧めの演奏なんだかそう簡単には言えないくらい百花繚乱、まったくもって入り乱れておりまする。私も若いころ(それこそ45年ほどく前)初めて聴いたのは独奏が20代から30代に入ったころのジュリアン・ブリームで、(録音が1963年で日本発売が1964年)指揮がコリン・デイビスのメロス・アンサンブルというレコードだった。最近の一般的な演奏からみると1楽章が少しばかりスピード違反かなあとは思うけれど、とにかくブリームさんも素晴しいテクニックでオーケストラに対抗している。またわざとらしい余計なことは一切やっていない上にスペインの香りもたっぷりだし、指揮者のセンスもあっていま聴いても飛び切りの名盤だったという気がする。その次がイエペスの独奏でアルヘンタの指揮した演奏のレコードだったが、それは当時アランフェスの演奏として評論家なんかの間ではダントツの評判を誇っていた。しかし当時その演奏を聴いた私は、どうも少し違うような気がしてなんとも複雑な気分だった。手に入れた楽譜と見比べてもところどころ違うところがあるし、表現がオーバーな感じがする割にはどうもこせこせした感じがつきまとい、釈然としなかった覚えがある。このレコードはごく最近聴き返してみたが、正直言ってイエペスの技巧的なミスやごまかし(?)が随分目だって少なからずがっかりした。当代随一とうたわれたアランフェス弾きのテクニックも、最近の若いギタリストに比べると申し訳ないが随分あやしいもんだという気がした。でも昔聴いた時は「ちょっとやり過ぎでねえべが」と思えたイエペスの表現も、そんなにいやな感じがしなかったことは多少救いのような気がしましたなあ。その後ジョン・ウィリアムスやアリリオ・ディアスをはじめ沢山のアランフェスを聴いたが、はっきり言ってどの演奏にも必ずどこかに気に入らないところがあって、いまだに自分としての決定版を見つけることができないでいる。とはいってもそれぞれの奏者の違いを聴き比べるのはとても楽しいことなので、余計に新しくアランフェスが出るたび「こんどこそは・・・・!」という気持ちで購入してしまう。今回取り上げたピエッリさんの演奏するアランフェスも、実は何ヶ月も前から注文していてやっと最近届いたもので、随分期待したんだけれど、やはりどっかにありました。余計な表現が。(誤解をされると困るので、あくまでも「私にとって」とお断りしておきますが)「なんでそんなところでそんなことをするかなあ」といったことがあちらこちらにちらほらと。どうもこんだけ世界中に沢山のアランフェスが存在すると、「なんとしても他人と違うことをやらなければ」というような強迫観念が働くんだべか、「え?」と思わせる装飾音が入っていたり、そんなとこで・・・というようなところで大げさなリタルダンド・・・、なんと思わせぶりな・・・。そして2楽章、3楽章はとてもいいテンポで弾いているんだども、なんとも1楽章がもったりしていて物足りない。(なんと先ほど言ったブリームのアランフェスよりも演奏時間が1分も長い)特に出だしの和音の刻みのところがなんともしまりが無く、ももひきの中でパンツのゴムだけがゆるんで落ちそうになってきたような気持ちの悪さ。オーケストラもアンサンブル・アマティというんだけども、こういった曲はあまり演奏したことがないのか、やはりすこーしばかり音にしまりが無い。2楽章もクライマックスのところで「もう少し盛り上ってもいいのに」と思うんだけど、今一歩のところで燃焼不足は否めない。でもこう書いていくとよっぽどひどい演奏のように聞えるかもしれないが、実際のところはそれほどではなくて、ちょっとばっかし「田舎くせえアランフェス」といったところか、それはそれでそこそこ面白くは聴ける。そしてそれに比べりゃ2曲目、3曲目のジュリアーニとブローウェルはなかなかのできばえで、特にブローウェルなんかは別に作曲者自身の指揮でも演奏・録音しているくらいだから、ピエッリさんもかなり自信に満ち溢れた表現で演奏しているし、ジュリアーニも1楽章をもう少し溌剌として「しゃきっ!」と弾いてほしいのと、3楽章は「あとほんの少しスピードを落として弾いてくれたらベストなんだけどなあ」というところはあるが、でもまあまあ「ジュリアーニとしちゃあいい方じゃねえか」と思う。どうも今回はあまりいい評価をしていないかのように聞えるかもしれませぬが、そんなことはありませぬ。皆様も一度ご賞味いただいてもそんなにがっかりはしないのではないかとは思いまするぞ。そしてもうひとついいことは、今回のピエッリさん、多分いつもの楽器“ダニエル・フレドリッシュ”を弾いているんだと思うけども、これが大変素晴しい音で入っておる。オケとの音量バランスはオケが少し遠い気がするが、ギターはまさに天下一品の音で採れておりまして、その点については数多いこれらの曲のCDの中ではピカイチ。このあたりは大収穫といったところではないかと思うのでありまする。


コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )