消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

まる見えの手 14 米国大手医療保険会社が日本で病院経営に乗りだす(4)

2006-10-11 00:47:30 | 時事
 激増するであろう無保険者

 管理医療システムの下では、保険会社が患者のために医療機関に支払う料金はコストである。収入は契約者から得る保険金積立である。当然、この差額に基準が設けられる。この差額が小さいと自社の株価が下がり、他の競争相手から買収されてしまうかも知れない。どうしても、差額を大きくしなければならない。

 とすれば、病人と保険契約を結ばないことである。彼らはつねに医療費が加算で保険会社の利益をを食ってしまう。保険会社は、健康な人間で、なるべく病気にならない人との契約に邁進する。それも金持ちであればあるほどよい。

 残念ながら、総じて、高収入の人は健康である。低所得者層は病気になりやすい。こうして、低所得者層が保険の恩恵を受けることができなくなる。

 そのためには、大企業との大口保険契約を結ぶのがもっとも手っ取り早い。大企業に勤務している人は健康な人が多いからである。優良でない企業には見向きもしない。そして、そうした従業員には高い保険商品を売りつける。低所得者層はそうした高額商品を買えない。こうして、無保険者が増えてしまう。

 あるいは、保険会社が企業と契約してくれていたお陰で、病気になり、入院治療を受け、保険料を支払ってもらった従業員が、病気が治って職場に復帰しようとしても、企業側が次回の高額治療の負担に怯えて、職場復帰を認めない事態も想定される。

これもまた無保険者の誕生場面である。
 保険会社が病院経営に乗りだせば、人口密集地域にしか病院を展開させなくなってしまうであろう。そうすれば、現在よりも無医村地区が増え、無医村地区の住民は、とてつもなく高い保険契約を保険会社と交わさなければならなくなるだろう。当然、無医村地区の住民に無保険者が増える危険性がある。

 いま原油価格が異常な高騰ぶりを示している。これは、相次ぐM&Aによって、大手石油会社の数が減少し、原油市場で寡占化が進んだからである。つまり、寡占化が進み、カルテル結成が可能になった段階で、大手石油会社は原油の増産を辞めた。表向きは中国の旺盛な原油需要が石油市場を圧迫しているとの立場を崩していないが、実際には、高騰する原油価格を横目に増産に踏み切っていないのである。OPEC(石油輸出国機構)もまたこのカルテルに協力している。寡占化が原油の高騰を生みだのである。

 同じことが病院にもいえる。今後、病院と保険会社のM&Aが急速に進むであろう。市場を寡占化するためである。M&A路線を突っ走る企業は、市場がはやしてその株価が高くなる。株価が高くなれば競争相手を吸収合併する手段としての株式交換がやりやすくなる。株式市場が積極的にM&Aをおこなう企業を応援する。

 こうして、多くの病院や保険会社が大病院、大保険会社の軍門に下る。
多くの病院、保険会社を吸収してしまった会社は、吸収した病院を閉鎖する。こうして、競争相手をなくし、寡占状態を作り上げてから、保険契約料をつり上げる。高騰する保険支払いに根を上げる人たちが続出する。そして、無保険者がここでも生みだされる。

 米国の巨大な病院チェーンが日本に参入する日は近い。そうなれば、収益の上がる医療分野は米国の大手株式病院に根こそぎもっていかれてしまうであろう。そのときには、日本の公的医療保険制度は骨抜きになっているであろう。米国の病院株式会社と医療保険会社が、本国で叩きだされた損失を日本で償うのである。

 保険会社が、管理医療システムを主張する理由の一つに、病院の適正なコストを監視するということがある。実際には、そうしたきれいごとはあまりないのであるが、無保険者になるとこの言葉の意味が生きてくる。

 無保険者は、適正な治療費の高さを知り得ない素人である。無保険者はかかった費用のすべてを要求される。素人であるがゆえに、法外な料金を吹っかけられる可能性がないとはいえない。虫垂炎で手術入院すれば一六〇万円も請求されることなど米国ではザラにある。保険会社相手であったら三〇万円弱で済むものに、その五倍も請求されるのである。払えない患者は自己破産する。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。