消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(379) 日本を仕分けする(3) 金融(3) 

2011-01-15 01:03:31 | 野崎日記(新しい世界秩序)

 二 金融の闇

 21世紀に入って進行した金融自由化によって、08年の金融暴風雨の発生まで、海外での運用を売り物にした金融商品が跳梁跋扈していた。スイス、香港、カリブ海のオフショア市場へ資産を移し、国内では考えられない高利回りを提示する業者が輩出した。中には、いままで名前も聞いたこともない国の債券や金融機関まで出てきた。そして、危険な金融商品に免疫力のない素人が、企業、個人を問わず、非常な狼たちの餌食になった。大金を預けたはいいが、ある日突然、それが海の向こうで消え去った。

 国内の200数十人から合計120億円余りを集めたまま、英国の投資会社、『インペリアル・コンソリデイティッド・グループ』(以下、IGと表記)が破綻した。

 IGは、1993年、英国のリンカーンシャー(Lincolnshire)で設立された。創業者は二人の若者、リンカーン・フレーザー(Lincoln  Frazer)とジャレド・ブルック(Jared Brooke)であった。投資アドバイスが業務であった。1994年、ビンブルック英空軍基地(Royal Air Force Station Binbrook)の一角を譲り受け、ここに本社機能を構えた。その後、カリブ海のバハマや豪州、香港、ケニア、ルーマニアなど世界各国に投資アドバイスを会社を相次いで開設した。

 IGが、日本に進出したのは1998年5月。国内では、日本長期信用銀行、北海道拓殖銀行、山一証券が経営破綻し、株価はバブル崩壊後の最安値を更新し続け、預金も超低金利であった。IGは、年利8.5%、確定利付き・元本確保型の円建てファンドを鳴り物入りで発売した。「フィックスト・インカム・円・ファンド」(金利は毎月均等払い)と「フィックスト・グロウス・円・ファンド」(金利は1年後に一括払い)の二種類で、両方ともに元本保証で運用期間は最低1年。最低投資金額は500万円で、前者の年利は6.5%、後者は8.5%であった。00年前半の国内の銀行の預金金利(1年定期)は0.12%でった。人々は簡単に騙された。

 手口はいかがわしいものであった。日本で集められた資金は、バハマにあるオフショア市場に設立されている運用会社ICミューチュアル(IC Mutual)や、西インド諸島のグレナダ(Grenada)のICミューチュアル・ファンド(IC Mutual Funds)を経由して、英国で消費者向け金融業務を行うIG ファイナンシャーズ(Financiers)に回されていた。資金は、英国の軍人向けの消費者金融などで運用していた。それが破綻した。

 同社の日本法人の弁明は、2点であった。

 まず、第1点。01年9月11日の同時多発テロ以降、米国政府はテロ資金が通過するあるオフショア市場への締めつけを強めてきた。西インド諸島のグレナダにあるグループ傘下の銀行は、投資家からの資金の受け入れ先となっていたが、02年5月、この煽りを食って閉鎖に追い込まれてしまった。

 第2点。その後、02年6月から、IGは、資金管理を、英国の監査法人マザール(Mazar)に委託した。この時点ではグループは債務超過ではなかった。ところが、マザールは資産を売却してしまい、投資家の金も消え去った。
 真相は不明である。とにかく多額の資金が一瞬にして消え去ったのである。中央会もこの手口に引っかかった(以上は、http://kodansha.cplaza.ne.jp/mgendai/200312/main.htmlに依存している)。

 07年1月16日付『朝日新聞』には、「酒販組合の年金破綻問題、東京と大阪で集団提訴」という見出しが踊った。以下内容を要約する。全国小売酒販組合中央会の共済年金が外債投資で破綻した問題を巡り、共済年金に加入していた東京や大阪など14都道府県の115人が07年1月15日、中央会などを相手に計3億6800万円の賠償を求める訴訟を東京、大阪両地裁で起こした。1人あたりの請求額の平均は東京訴訟が318万円、大阪が208万円。中央会は掛け金の85%の返還を決めたが、実際に返されたのは15%に留まり、未払いの70%を請求する。訴えによると、年金共済はリスクの高い外債に資金を集中して投資。約145億円が回収不能となり、破綻した。投資を主導した元事務局長が背任罪で起訴された。弁護団は相談窓口を開設し、被害が確認されれば追加提訴をおこなう方針。以上。

 弁護団の一人、山口貴士弁護士が事件の大要を次のように解説している。

 02年3月の時点で、全国小売酒販組合中央会の共済年金事業は破綻しかかっていた。運用を担当していた信託銀行からは事業の廃止を提案されるほどであった。そこに、金融ブローカーのX(被告)が、リスクの高い外国債であるチャンセリー債の購入を中央会の事務局長(被告、背任罪などで公判中)に持ちかけた。事務局長は、自分が実務を取り仕切っていた地位を生かして、02年12月にクレディ・スイスを介して、チャンセリー債を約145億円分も中央会に購入させた。チャンセリー債は、04年6月から償還が始まるはずだったが、約10億円の利息と遅延損害金が支払われたほかは、07年に至るまで償還されていない。こうして、約145億円もの年金の原資は消えてしまい、年金加入者達は老後の生活資金を失ってしまった。

 チャンセリー債を発行していた「チャンセリー・アンド・リーデンホール」という会社の実質的な代表者はウィリアム(ビル)・ゴドレーという人物(既述)。この人物が、投資被害を発生させたのは初めてではない。ゴドレーは、英捜査当局(SFO=Serious Fraud Office)が捜査中の国際投資グループ、IGの中心的な人物でもあった(http://yama-ben.cocolog-nifty.com/ooinikataru/2007/01/post_7c61.html)。

 


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