消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

見えざる占領 04[医療篇] 狙われる医療保険制度(1)

2006-09-10 00:54:26 | 時事

 アフラック全体の収益の7割も稼ぎ出すアフラック・ジャパンの社長に2003年、その副会長に2005年に就任したチャールズ・レイクが、2002年2月13日、当時の自民党幹事、山崎拓の事務所で、後の小泉政権の政策を予見したかのごとく、とくとくと語った。


 小泉政権の政策のほとんどは、米国政府によって押しつけられたものである。これについては、章を改めて説明するが、小泉の首相就任(2001年4月)後、わずか10か月で、米国政府の要求通りの政策を5年間にわたって打ち出してきた小泉政治の特徴がここでは見事に表現されている。

 

 小泉の「聖域なき構造改革」についてどう思うのかという山崎はレイクに質問した。「聖域なき構造改革」とは、2001年4月26日に首相に就任した小泉が、2001年5月7日の所信表明演説で使った言葉である。レイクの返答を要約する。

 

 日本は米国のベストパートナーであり、親友である。だからこそ、米国政府は、日本政府と議論し、政策に示唆を与えようとしている。これは、「日本政府に対して高圧的に提言をするのというのではない」。示唆とは構造改革のことであり、すでに、日本政府は構造改革について政府内で充分議論されていると米国政府は受け取っている。

 

 「私は現在、アメリカンファミリー生命保険会社に勤めておりますが、10 年前には米国政府でUSTR(米国通商代表部)に所属し、日米のいろいろな交渉に参加しておりました」。


 つまり、日本市場を金梃子でこじ開けようとするUSTRの日本担当者がレイクであった。USTRは、『年次改革要望書』、『日米投資イニシアティブ報告書』をはじめ、日本政府につぎつぎと構造改革を迫る文書を作成し、そうした文書に沿って日本政府を動かしてきた組織である。USTRは、日本の構造改革の首謀者であるといってよい。そのUSTRの日本担当の最重要の人物がアフラックにスカウトされ、日本支社の社長、副会長に抜擢されたのである。レイクは、日本の官僚の天下りをよく批判する。しかし、レイク自身が、特定の業界の利益代表者であり、その功によって、業界のポストを用意されたのである。日本の高級官僚の天下り程度のものではない。れっきとした独立国相手に戦い、勝利を収めて、後押しをしてくれた業界に凱旋したのである。


 彼は、対日交渉の過程で、当時の大蔵省の「護送船団方式」を基本的に守るというスタンスが、新設された金融庁の「自己責任原則による金融行政」というものに変わり、これで、日本の金融もやっとグローバルスタンダードになったと語った。


 その上で、「簡保」を変えなければ、よい金融行政にはならないと強調した。保険市場では、簡保は、民間企業に比べると有利なルールの適用を受けている。つまり、民間企業は保険市場で不利な立場に立たされている。こうしたことを放置すれば、「構造改革」は成功しないと強く訴えた。


 「自己責任原則による金融行政」の具体化とは、つまるところ、簡保の廃止である。優遇されている簡保が存在するかぎり、民間保険会社は差別されているというのである。狙いは明白であろう。米国の保険会社が日本で本格的に業務展開をしようとするかぎり、簡保は邪魔であると、彼は、露骨に指摘したのである。


 彼は、「抵抗勢力」という言葉を使った。
 「小泉政権がなさろうとしている改革を、基本的におかしいと思っている人は、米国政府には少ないと思います。しかし同時に、いろいろな抵抗勢力がある中で、それを実行することがいかに大変かも承知しています。どのようなタイミング、スピードで、経済回復に向けての構造改革が実行されるのかが、世界の注目の的になっています。まさに総理が『今年が本番』とおっしゃっていることが本当かどうか、世界は見ていると思います」。


 こうした発言は恫喝であろう。「世界は見ている」とは「米国の保険業界は注目している」ということ以外のなにものでもない。




 彼は、米国政府の仕事に就いていたし、東京とワシントンを行き来しているので、米国流の政治の考え方はよく分かっているという。米国流の政治とは、国民の支持率を絶えず意識して政策を行うというものである。小泉には幸い高い国民の支持率がある。この高い支持率が小泉の構造改革を成功させるであろうという。


 「どうしたら国民のサポートを得られるか、またサポートしてくれる層がどこにあるのか見極めなくてはいけないということです。しかし、『失われた10年』を乗り越えるための改革は、それに対しての既得権やその他の抵抗がある中でたやすくできるわけではない。反対勢力がいろいろなところから出てくれば、それだけ強力な政治のリーダーシップが必要になります」。


 「米国の政府関係者、証券アナリストなどと話をしておりますと、彼らが懸念していることは、実質として構造改革がタイムアウト(時間切れ)になることです。たとえば、田中前外務大臣の件で支持率が下がるというようなことで自信をなくし、心配することによって、構造改革を断行できなくなるような政治環境が生まれた場合です。問題を解決しないという状態が続くということです。それは、日本経済にとって決して好ましいことではないという見方をしていると思います」。


 国民の支持率が高い間に、小泉は、米国政府の要求を早く実現させてしまえといっているのである。


 山崎拓は、言わずもがな発言をしてしまった。
 「それで、もうすぐ大統領がお見えになる(注:2002年2月17日に来日)のですが、たぶん不良債権の処理を強く勧められると思いますが、それに応えようと今小泉政権は準備を開始しております。不良債権の処理は必要なことはよく分かっておりますから、どうもそれだけではない、そういう気がしませんか?」。


 この人、なにをいってしまったのだろう。子ブッシュ大統領が、日本に要求するものの中には、不良債権処理以外にもいくつか重要なことがあるのでしょうね。なんでもおっしゃって下さい。私たち小泉政府は、それにお応えしますと宣言してしまったのと同じことではないか。


 レイクは、勝ち誇ったようにいった。
 「不良債権については、米国の経済界や関係者が議論しています。不良債権の処理をしなければいけない、不良債権が日本経済の活性化の障害になっているのではないか、という議論です。かし、不良債権の問題はある意味では現象であって、そのベースにあるのは構造改革だと私は思います。たとえば、企業統治の問題もそうです。
  キャピタルマーケットが、いろいろな形で合理的に動いていくようなインフラづくりがされなければならない。それは商法改正の議論だったり、会計制度の見直しだったり、金融システムの改革、より具体的にいえば株の持ち合いの解消ということも、そういう意味での株式市場の活性化につながり、システミックなネガティブ・インパクトが起きない環境をつくっていくことを意味すると考えます」。


 今日、これらすべてが小泉内閣の下で実現している。「企業統治」を変えることが日本の財界人の合い言葉になった。「商法改正」も行われた。「会計制度」も大きな変化があった。「株の持ち合い」も一種の脅迫によって解消させられた。後に小泉内閣が着手することになるこれら重要事項が、米国政府の代理人であるとはい、当時で若干、40歳の若造の口から提起されたのである。
 

 そして、レイクは、保険市場という彼がもっとも関心をもつ分野に話をもって行く。いろいろな投資銀行が新しい金融商品を開発し、インフラの整ったマーケットで活発に取引されなければならないのに、日本では、各種規制があるためにそれができない。金融市場のインフラをまずつくるべきであると彼は強調した。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。