消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(26) 新しい金融秩序への期待(26) ついに買い手がいなくなった米国債(2)

2008-12-11 00:17:51 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

買い手がいなくなった米国債―米国発金融恐慌の行き着く先(2)

 一 空前の米政府による公的資金散布


 米当局による金融市場安定化策などの施策は、米国の財政状況の大幅な悪化につながる。JPモルガンでは、二〇〇九年度の米国の財政赤字について、二〇〇八年度の四〇〇〇億ドルから六五〇〇億ドルに拡大すると予想している。しかし、この予測は、二〇〇八年九月に発表された安定化策に伴う財政負担を考慮していない。財政赤字はさらに大幅に拡大する可能性が高いhttp://jp.reuters.com/article/forexNews/idJPnTK018805020080922)。

 米財政赤字の累積は二〇〇八年の一〇兆六〇〇〇億ドルから二〇〇九年には一一兆三〇〇〇億ドルに増える。

 金融機関への支援だけではない。米財務省は二〇〇八年九月一九日、金融市場の混乱で清算などが相次いでいるMMF(11)について、払い戻しを保証する臨時の保険制度を導入すると発表した。期間は二〇〇九年まで。同制度の適用を受けるには、ファンドが手数料を支払う必要がある(http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/)。

 米国では、リーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)(12)破綻の影響で一部のマネーマーケットファンド(MMF)が額面割れとなり、短期金融市場に警戒感が広がった。MMFの市場規模は三兆五〇〇〇億ドル。MMFは金融機関や企業の発行する短期証券に多額の投資をおこなっている。

 米国有数の歴史をもつMMFのリザーブ・プライマリー・ファンド(Reserve Primary Fund)は、二〇〇八年九月一六日、リーマン債への投資で多額の損失を出し、額面割れとなった。MMFは安全な投資先とされていただけに、同ファンドの額面割れを受け、MMFから大量の資金が流出。MMF運用会社は、解約に備えるため、証券の購入を減らし、手元現金を増やさざるを得ない状況となった。

 米国政府の対策には、金融機関からの不良資産買い取りに七〇〇〇億ドル、MMFの保護に五〇〇億ドルを投じることが盛り込まれている(http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-33871920080922)。

 金融機関の救済をしないでも、米国の財政の累積赤字は一一兆三〇〇〇億ドルある。米国のGDPが一五兆ドルと推定されるから、対GDP比で七五%。日本の累積赤字は建設国債を含めて八〇〇兆円とすると、対GDP比は一四五%。日米比較で言えば、まだ米国のほうが健全なように見えるが、そうではない。国民の金融資産比でみると事態は異なる。日本の一五〇〇兆円の金融資産から見れば、日本政府の抱える累積債務は国民の資産の五三%。反対に米国は消費優先、クレジットカードで借金している社会だから、担保がない。米国債は販売の二五%以上を海外投資家に依存せざるを得ないのである( http://jp.reuters.com/article/forexNews/idJPnTK018805020080922)。

 リーマン・ブラザーズの経営破綻がはっきりした二〇〇八年九月一六日、日米欧の中央銀行は相次いで市場への大量の資金供給に踏み切った。

 米連邦準備制度理事会(FRB)は一五日、証券会社向けの資金供給制度を拡大すると発表。ニューヨーク連銀は金融機関が資金を融通しあう短期金融市場に、米同時多発テロ直後の二〇〇一年九月一四日以来最大の規模となる総額七〇〇億ドル(約七兆三五〇〇億円)を供給した。また、シティグループなど欧米の金融大手一〇社は、市場の混乱に備えて、共同で計七〇〇億ドルの基金設立を発表。一社当たり七〇億ドルを拠出して資金繰りを支え合った。

 欧州中央銀行(ECB)も一五日、短期金融市場に三〇〇億ユーロ(約四兆五〇〇〇億円)を供給した。リーマン破綻による金融不安の広がりから、欧州の短期金利が急上昇、銀行が資金を取りづらい状況となったため。資金供給には五一の金融機関が殺到、応募額は計九〇二億七〇〇〇万ユーロに達した。

 日銀は一六日、総額二兆五〇〇〇億円の資金を供給した。国内でも金融機関の資金繰りが逼迫し、金利が上昇する恐れがあると判断した。ベア・スターンズ救済直後の決算期末だった二〇〇八年三月三一日(三兆円)以来の規模。日銀の白川方明総裁は一六日朝、「最近の米国金融機関を巡る情勢とその影響を注視しつつ、円滑な資金決済と金融市場の安定確保に努める」との談話を発表した(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080916-00000023-mai-bus_all)。

 それからわずか一週間後、各国中央銀行は、自国通貨ではなく、ドルを市場に放出した。これは、米系金融機関と米政府にとって、いかにドル調達が困難であるかを示すものである。

 米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)、日銀など六か国・地域の中央銀行は二〇〇八年九月一八日、米国発の金融危機に対応し、金融機関が資金をやり取りをする各国の短期金融市場に大量のドル資金を供給する協調行動を行うと発表した。市場では、リーマン・ブラザーズの破綻などによる信用不安から資金の出し手が不在となり、欧米金融機関が必要なドル資金を調達できなくなっている。「最後の貸し手」である中央銀行が資金を供給し、資金繰りの行き詰まりによる連鎖破綻を回避するのが狙いである。

 FRBは、日銀、英、カナダとの間で、ドル資金を提供するため、相互の通貨を交換するスワップ協定を締結。すでに協定を結んでいるECB、スイスとは交換枠を拡大した。

 日銀は総額六〇〇億ドル(約六兆三〇〇〇億円)分の円とドルの交換協定を締結。このうち最大五〇〇億ドル(約五兆円)を市場に供給する。日銀がドル資金を供給するのは初めてである。供給先としては国内金融機関のほか、外資系金融機関を想定。資金繰りが悪化している欧米金融機関が、日本市場でドル資金を調達できるようにする。

 ECBなどの他の中央銀行も自国市場でドル資金を供給する。各行は、母国通貨で資金を供給しているが、危機の沈静化には調達が難しくなっているドル資金を協調して供給する必要があると判断したのである。

 日銀本店で九月一八日に緊急会見した日銀の白川方明(まさあき)総裁は「ドルの短期金融市場では資金調達の不安感が高まっている。ドル市場の緊張感の高まりは各国通貨建ての市場にも影響を及ぼしている」と述べ、協調活動の狙いを説明した。

 世界の金融市場では、リーマンが破綻する一方、保険最大手のアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)が救済されたが、「次に破綻するのはどこ」という疑心暗鬼が広がり、資金の出し手がいなくなる「信用収縮」が深刻化している(http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/080918/fnc0809182025018-n2.htm)。

 そして、日銀は九月二二日、米欧の中央銀行と協調した短期金融市場向けのドル資金供給を二四日に開始すると発表した。初回の二四日の供給額は三〇〇億ドル(約三・二兆円)で、供給を受ける金融機関への融資期間は一か月の予定。供給対象にはゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなど外資系二〇社を含む金融機関四〇社が選ばれた。

 日銀の供給予定総額五〇〇億ドル(FRBとの契約では上限六〇〇億ドル)の残りは、一〇、一一月に各一〇〇億ドルずつ供給する。ともに融資期間三か月と、年末の資金需要の増大期に備える(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080922-00000119-mai-bus_all)。

 欧米金融機関が日本での資金調達を活発化させる中、銀行間でドルの短期資金を融通する市場では金利が急騰し、米連邦準備理事会(FRB)による金融機関向け窓口貸出が過去最高水準に達している。

 これらの全ての現象は、もっとも流動性に富むはずの「基軸通貨=ドル」が不足していることを示している。銀行間でドル資金を貸借する短期金融市場では、取引相手の信用リスク(カウンターバーティー・リスク)が強く意識され、信用収縮が一段と進んでいる。

 危ないものはもたない、という空気が金融界に充満し、極端な信用収縮が起きているが、危ないものの中にドルが入れられるようになったのである。


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