ついに買い手がいなくなった米国債―米国発金融恐慌の行き着く先(1)
はじめに
二〇〇八年九月一八日付きの『ニューヨーク・ポスト』(New York Post)によれば、(1)ブルームバーグ(Michael Rubens Bloomberg)・ニューヨーク市長(2)が、「米国債を買うものが出てくるだろうか?」と同月一一日にジョージタウン大学(Georgetown University)で語った(5)。
事実、二〇〇八年九月一三日、米政府が政府支援企業(GSE)(6)である連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)(7)と連邦住宅金融抵当金庫(フレディマック)(8)への支援策を発表したことを受け、翌日の米国債の債務の保証料が上昇した。米国債の期間五年のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS=Credit Default Swap)のプレミアムが、九月一一日の一六・五ベーシスポイント(bp)から一四日には約一七bpに上昇した(9)。
フレディマックとファニーメイの総資産を合計すると七〇〇兆円もある(五〇〇兆円は金融派生商品、二〇〇兆円は社債)。米国のGDP約一五〇〇兆円の約半分程度の規模もある。両社あわせた七〇〇兆円のうち、仮にその二割が焦げ付けば、一四〇兆円もの救済資金が必要となる。これほどの巨額の資金が必要となれば、いかに議会で承認されたとはいってもおいそれと出せる金額ではない(http://allabout.co.jp/undefined/tcm-foreignstock/rss/index.xml)。国債のプレミアムが跳ね上がったのも当然である。
米国債は、これまではリスクのないもの(リスク・フリー)と受け取られていた。プレミアムも、二〇〇七年には、なきに等しい二bp以下であった。しかし、連邦準備理事会(FRB)が二〇〇八年三月一四日に投資銀行のベアスターンズに公的資金を注ぎ込んで救済すると発表したとたんに米国債のプレミアムは約一二bp台に跳ね上がったのである(ロイター、二〇〇八年九月一四日)。これは、政府が大恐慌以後、初めて商業銀行ではない投資銀行(証券会社)に公的資金を注ぎ込むことのCDS市場の衝撃の大きさを物語るものであった(10)。
そして、保険会社、AIG(American International Group)に対する空前の巨額の公的資金投入が決定された。一九九七~九八年のアジア通貨危機の際、米政府は、資金不足の企業を救済しようとしているとしてアジア各国政府を非難した。だが、米政府は二〇〇八年九月、金融危機で経営破綻した自国の企業に対し救済措置をとった。米連邦準備制度理事会(FRB=Board of Governors of Federal Reserve System)は二〇〇八年九月一六日、資金繰りが悪化している米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループの破綻を回避するため、AIGの株式約八〇%を担保に八五〇億ドル(約九兆円)のつなぎ融資に応じると発表。同日の世界の株式市場は急落した。
アジア通貨危機の際、米政府と国際通貨基金(IMF=International Monetary Fund)は、アジア各国の政府に対し経営不振企業をいわば見殺しにするよう指示した。九月一八日付の『ニューヨーク・タイムズ』(New York Times)は、アジア通貨危機当時、韓国に二〇〇億ドルを融資する条件として経営不振の銀行や企業を救済せず、そのまま破綻させるようIMFが指示したという話を伝えている(http://www.afpbb.com/article/economy/2519830/3360418)。
そして、九月一九日の一〇年物国債のCDSプレミアムは二七・九BP、五年物は二二・五bpにまで上昇してしまったのである(ロイター、九月一九日)。
ちなみに、ドイツ国債のプレミアムは一三bp、フランスは二〇bpである(http://www.telegraph.co.uk/money/main.jhtml?xml=/money/2008/09/18/ccambrose118.xml)。米国債が非常に危険なものと世界の金融界が意識しだしたのである。
ブルームバーグが危惧するように、金融恐慌を避けるべく公的資金を米国政府が投入しようにも、肝心の資金が調達できなくなる危険性がきわめて高いのである。世界恐慌の不気味な地鳴りが聞こえてくる。