消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

福井日記 No.183 金融の三角合併

2007-10-15 14:51:57 | 金融の倫理(福井日記)

 三角合併とは、二〇〇六年五月に施行された新しい会社法に盛り込まれた企業買収のやり方である。二〇〇七年五月に解禁された。

 企業を合併するとき、合併を仕掛ける側の企業が現金や自己の株式ではなく、自己の親企業の株式と合併される側の株式とを交換して企業合併を実現させる方法がそれである。それまでは、この方法は禁止されていた。これによって、株式の時価総額の大きい米国企業が、時価総額の小さい日本企業を買収しやすくなった。

 米大手金融グループのシティグループが三角合併方式によって、日興を完全に子会社化することで二〇〇七年一〇月二日に当事者間で合意を見た。日本初の三角合併である。二〇〇八年一月目処にシティ株と日興株が交換される予定である。

 シティグループは、二〇〇七年三月、日興と業務・資本提携を結んでいた。その後、シティグループは株式公開買い付け(TOB)によって、議決権比率で二〇〇七年一〇月二日時点で日興株の約六八%を保有していた。

 交換されるシティグループ株か一株で一七〇〇円相当と算定される。日興株はシティグループ一株につき、〇・三株の日興株と交換される。この合併によって、シティグループは約五三〇〇億円相当の株式が必要になるが、これをシティグループは新規発行株で賄うとされている。シティグループの完全子会社になった時点で日興は上場を廃止する。

 シティグループの日本上陸は、まさに虎視眈々という言葉がピッタリするほど用意周到かつ執拗なものであった。

 一九九八年六月、旧トラベラーズ・グループが日興証券と包括的業務提携を結んだ。この旧トラベラーズ・グループがシティグループになった。

 一九九九年二月、旧ソロモン・スミス・バーニー証券が日興ソロモン・スミス・バーニー証券を設立した。このスミス・バーニーもシティグループに統合された。したがって、日興ソロモンは日興シティグループ証券になった。

 二〇〇一年一〇月、この証券会社が持ち株会社に移行し、社名も日興コーディアルグループ(CG)に変更された。

 二〇〇四年九月、シティの富裕層部門が、法令違反で処分を受け、日本から撤退する。

 二〇〇六年一二月、日興CGで利益の不正計上が発覚し、有村純一社長と金子昌資会長が引責辞任した。

 二〇〇七年三月、シティが日興CGの公開買い付け(TOB)を発表、東証が日興CGの上場を維持する決定をした。

 そして、二〇〇七年四月、TOBが成立した。

 二〇〇七年八月、シティグループが日本での持ち株会社体制作りに着手、つまり、シティグループ株を買収対価とする日興CGの完全子会社化を提案した。

 二〇〇八年一〇月、当事者間で合意が成立した.

 以上が、簡単な経緯であるが、二〇〇七年三月の日興CG株の上場廃止阻止になにか、きな臭い臭いがするが、今回は触れないでおく。重要なことは、二〇〇七年五月の三角合併解禁を見極めた上で、四月のTOB、八月のシティ株対価の三角合併をシティグループが提案したことである。

 三角合併の障害は、合併が成立した後にある。外国の株式に馴染みのない日本の株主たちが、親企業の株を取得したとたんに売却する可能性が強いからである。売却されてしまえば、親会社の株価は下がってしまう。株主が一斉に同じ行動をとれば、株価は急落する。これは、「フローバック」(逆流)と呼ばれている。

 そうした怖れに備えて、シティグループは日本国内でシティ株を取引しやすいようにして、日本人のシティ株という外国株への違和感を取り除こうとしている。東京証券取引所にシティ株の上場を打診し、シティ株に馴染ませようとしているのである(『讀賣新聞』二〇〇七年一〇月九日)。

 日興を傘下に収めようとする動きは、シティグループだけではない。ゴールドマンサックスもシティグループの動きに連動している。

 日興CGの子会社に「シンプレクス・インベストメント・アドバイザー」という投資顧問会社がある。東証マザーズに上場している会社である。この子会社にゴールドマンサクウスがTOBを提案し、この子会社と親会社の日興CGはそれを受け入れると二〇〇七年一〇月五日に受け入れると発表した。TOB期間、二〇〇七年一〇月一二日から一一月八日まで、買い付け価格は一株当たり二一万五〇〇〇円で、発行済み株式総数の八〇%以上の取得が成立条件である(同紙同日)。

 オランダの大手金融ABNアムロも買収合戦の標的にされている。買収に名乗りを挙げていたのは、英国の大手銀行、バークレイズとやはり英国大手のロイヤル・バンク・オブ・スコットランドなど欧州の金融大手三社連合である。

 バークレイズは、二〇〇七年四月、総額約六七〇億ユーロ(約一一兆円)でABNアムロと買収の合意を得ていたが、その後、三社連合が約七二〇億ユーロ(約一一兆八〇〇〇億円)を提示して、交渉は白紙に戻り、二〇〇七年一〇月五日時点で、バークレイズは買収を断念すると発表した。三社連合による買収が成立すれば、金融機関の買収では世界史上最大規模のものになる。

 メガバンク時代が到来すると言われて久しいが、金融がますます、銀行・証券・保険の垣根と国境を取り払った巨大な金融グループに寡占化される流れになったことは確かである(資料は、『讀賣新聞』二〇〇七年一〇月六日付による)。 

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。