消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

(須磨日記(1))古代ギリシャ哲学(33)月のクレーター(Crater)(1)

2008-06-07 12:55:54 | 古代ギリシャ哲学(須磨日記)

 
 「消された伝統の復権」長い休眠、申し訳ありませんでした。勤務先の変更で環境適合に時間がかかったためです。これから再開します。

 いくつかのコーナーに分けて連載します。
 最初は「古代ギリシャ哲学」コーナー再開です。きちんとした理解を得るべく皆様のご支援をお願いします。再開第1回は「月のクレーター」ついてです。

 これまでの失敗に懲りて、一回分をA4で1~2枚に限定し、読者諸氏に気楽に読んでいただけるように工夫します。写真等は、ブログ編集部の尽力によります。本山美彦


  月のクレーター(Crater)(1)

 
 クレーター (Crater) とは、爆発や衝突によって作られる凹地のことである。広義のクレーターは、火山の火口や爆発事故・爆弾によって生じたものを総称し、狭義のクレーターは、隕石孔(いんせきこう)のことを指す。

 「古代ギリシャ哲学」の連載の再開を月のクレーターから始めたのは、クレーターが古代ギリシャ語であることによる。



 一六〇九年、ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei、一五六四年二月一五日~一六四二年一月八日)が、天体望遠鏡によって、月面に多数の円形の凹地を確認した。この地形をギリシア語のコップ、椀を意味する語からクレーターと命名した。

 月の大きなクレーターには、主に科学者の名前が付けられている。この習慣は、イタリアのジョバンニ・バティスタ・ リッチョーリ(Giovanni Battista Riccioli、一五九八年四月一七日~一六七一年六月二五日))とフランチェスコ・マリア・グリマルディ(Francesco Maria Grimaldi、一六一八年四月二日~一六六三年一二月二八日)から始まった。



 彼らは自分達が作成した月面図に月の北部のクレーターに古い時代の人物の名を、南部のクレーターに新しい時代の人物の名を命名して発表した(ウィキペディア「クレーター」より)。

 そして、古代ギリシャ哲学者たちの名前が数多く付けられている。
 アルファベット順に列記する。



(一)アレキサンドロス。あの大王。マケドニア王(前三五六~三二三年)。ヨーロッパ、アジア、アフリカにわたる大帝国を作った。バビロンで熱病に倒れ三二年の短い生涯を終えた。征服地にギリシャ人を移住させ、東西文化の融合を図った。そこから新しいヘレニズム文化が生まれた。



(二)アナクサゴラス(Anaxagoras前五〇〇~四二八年)。 天文・哲学者。.物質と精神を対立させた二元論。月は太陽光を反射し輝いている。日食と月食の正しい解釈。太陽は赤熱した巨大岩石、鉄の塊と主張し惑星も恒星も土の塊と説明した。惑星を神としていたギリシャ人の怒りを買い、追放され不敬罪で告発されたが後にアテネの権力者になるペリクレスに助けられた(後述予定)。月にも平野や山や谷があると考えた。天体の距離を、月、太陽、惑星、恒星の順で近いとした。万物はアトムによってできていると考えていた。



(三)アナクシマンドロス(Anaximandoros、前六一一~五四七年)。哲学・天文学者。ターレスの学説継承発展者。開いた宇宙、宇宙起源論と渦運動。月は地球の一九倍の大きさを持つ一つの輪である。それは、太陽と同じく、戦車の車輪のようなもので、その外輪は中空であり、火が満ちている。その輪には取っ手が二つあるふいごの穴のように、ひとつの口が開いている。日月食はその輪の回転によって生じるのである。宇宙は、大地は円盤状の板でまわりを空気が球形にとりかこみ、周囲を太陽・惑星・恒星が回る。半球ではない全球の宇宙を世界で初めて記述。



(四)アナクシメネス(Anaximenes、前五八五~五二八年)。天文学者。ターレスとアナクシマンドロス学説の継承発展者。万物の根元は空気であり、それが濃くなったり薄くなったりして変化することによって、全てのものが生じると考えた。地球は平らで、太陽、月、恒星は火からできており、恒星は透明な天球上に固定されているとした。また、惑星と恒星を区別した最初のギリシャ人。



(五)アポッロニオス(Apollonius、前二六五~一九〇年?)。古代ギリシャの三大数学者・幾何学者。「円錐曲線論」研究。太陽、月、惑星の運動を説明する為に周転円理論を初めて作る。惑星運動を周転円運動と離心円運動で取扱う。惑星は太陽の周囲をめぐり、太陽は地球のまわりを回ると考えた。天体の軌道。円錐曲線について八冊の論文はケプラーの時代になって天体軌道を記述するものとして重用。円周率はアルキメデスよりも正しい値を出したと云われる。



(六)アラトス(Aratus、前三一五~二四五年?)。天文学者・詩人。天文や気象の知識をまとめた『ファイノメナ』と いう長詩、星と四八星座のいくつかの神話との特徴の関係。特にペガサス、アンドロメダおよびプレイアデスなど多数の星座の記述が初めて登場する書物として重要。惑星運動・天球円・出没時刻・暦なども述べられている。ファイノメナはエウドクソ スの著作が基になっている。



(七)アルキメデス(Archimedes、前二八七~二一二年)。物理・数学・科学者・発明家。古今を通じての最大の数理科学者。てこの原理と重心の理論、アルキメデスの原理、反射鏡幾何学、重心概念、浮力原理、面積や体積の高度な理論、円周率計算、流体静力学。シラクサが陥落したときローマ兵に殺された。そのときまで数学の問題を解くのに熱中していたという。殺されるとき「わたしに足場を与えよ、地球を動かして見せるから。」と言ったという。



(八)アルキタス(Archytas、前四二八~三四七年?)。 数学者・哲学者・政治家、力学の父親。滑車の原理発見、比例理論、算術と等比数列を識別、立方体を二倍にする問題の解決策を発見。ねじと滑車の発明者。機械的な飛行の祖。



(九)アリアデウス(Ariadaeus、前三一〇~二三〇年?)。バビロンのマケドニア王年代学者。日月食に関するバビロニアのリストにある。アレクサンドロス大王の異父兄弟および後継者。



(一〇)アリスタルコス(Aristarchus、前三一〇~二三〇年?)。天文学者。.地動説、惑星の明るさの変化。コペルニクスより一八世紀も前に、太陽中心の宇宙を提唱し、地球は太陽のまわりを運動していると主張。日時計を使って夏至の日を正確に測定。また太陽と月の距離や大きさを、科学的方法で推定。月の視直径の変化を観測。半月時の月の形から太陽は月より二〇倍遠いと計算。さらに月食時の地球の影の大きさから、月の大きさを地球の三分の一と測定。月と太陽の見かけの大きさが等しいことから、太陽の大きさは地球の七倍と導く。太陽までの距離を四八〇万キロメートルと最初に求めた人。唯一の著作『太陽と月の大きさと距離について』。
 (「クレーターA」, http://www12.plata.or.jp/m-light/Geograph/CrtaerA.htmlより)。

 このような偉大な先行者たちが、正統派から排除されたギリシャ哲学の忌まわしい歴史の教訓を重視したい。このブログを「消された伝統の復権」と題した理由はここにある。(この「クレーター」コーナーは続く)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。