消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(295) オバマ現象の解剖(40) 一人勝ち(1)

2010-03-17 21:32:23 | 野崎日記(新しい世界秩序)



 第五章 金融危機下でのゴールドマン・サックスのひとり勝ち


 はじめに


 米国の金融機関は病んでいる。経営陣にモラルのかけらもない。公的資金を受けて経営破綻を免れたのに、はやばやとそれを返済した後、ふたたび高額報酬を経営陣は受け取るようになった。経営陣だけでなくトレーダーたちも高額ボーナスを受け取っている。

 金融危機で公的資金の注入を受けたシティグループ(Citigroup)など米金融機関九社の従業員のうち、〇八年分ボーナスとして一〇〇万ドル以上を受け取った従業員が四七九三人いたことが、〇九年七月三〇日、明らかになった。

 調査は、ニューヨーク州司法長官(New York State Attorney General)のアンドリュー・クオモ(Andrew Mark Cuomo)の指揮の下におこなわれた。

 九社は、計約一二八万人の従業員に計約三二六億ドルを支給。一人当たり平均支給額は約二万五四九六ドル。一人当たりの平均支給額で最高だったのは、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)の一六万四二〇〇ドル、二番目はモルガン・スタンレー(Morgan Stanley)の九万五二八六ドルであった。両社とも、それぞれ、一〇〇億ドルの公的資金を受け、〇九年六月に返済している。

 一方、九社の中でもっとも多い四五〇億ドルの公的資金を受けてまだ未返済のシティグループですら、一人当たり平均支給額は一万六五一二ドルで、一二四人が三〇〇万ドル以上を得ていた(http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20090803-OYT8T00367.htm)。

 米国の金融機関の〇九年のボーナスは、前年比で平均四〇%増と大きく増加した。もっとも増えたのは、投資マネーが流入した債券部門の担当者で前年比四五~五〇%も増加した。報酬の大部分を株式で三~五年間に分けて支払うなどの報酬改革を実施する金融機関が増えたものの、報酬の絶対額そのものを減らす動きはない。収益回復に伴って人材の獲得競争が復活してしまったからである(『日本経済新聞』二〇〇九年一一月一三日付)。

 『エコノミスト』(Economist)によれば、大幅減益で株価を下げているバンク・オブ・アメリカ(BOA=Bank of America,)も、業績と無関係に膨大なボーナスを支払った。
 高まる非難に対して、銀行側は、「従業員による強奪」(employee capture)によって、銀行自体が被害者であるとの印象を植え付けようとしているが、それにしても、幹部級の報酬は高額で、世界のトップテンの投資銀行の幹部級は株式配当額の四倍の報酬を得ている。二〇〇八年にメリルリンチ(Merrill Lynch)は、資本金に匹敵する高額の報酬を幹部に供与した。このことは、銀行の弁明を裏切るものである。銀行が訴えていたのは、さらなる資本金の積み増しは重すぎるというものであった。しかし、資本金に匹敵する報酬を支払っただけではなく、その報酬は公的資金からも支出されていたのである。これこそ、強奪であると、『エコノミスト』は批判した(http://www.economist.com/opinion/displaystory.cfm?story_id=14699859)。

 ウォール街は、報酬制限に懸命に抵抗している。四五〇億ドルの公的支援を受けたバンク・オブ・アメリカの広報担当、スコット・シルベストリ(Scott Silvestri)は「ウォール街で働きたい人たちが同時に望んでいるのは、公正な報酬だ」と指摘した。同氏は「ライバル行はわが行のもっとも優秀な人材を探した上で、優秀な人材を引き抜くために高報酬をちらつかせている」と訴えた。

 確かに、ケネス・ファインバーグ(Kennes Feinberg)企業幹部報酬特別監督官(Treasury Department's special master on executive compensation at troubled financial institutions)は、〇九年一一月二二日、過剰な報酬によって増長した経営幹部のずさんなリスク管理が金融市場を崩壊させ、世界全体で計一兆六〇〇〇億ドルに上る貸し倒れ損失・資産評価損や米国で計七二〇万人の失業を招いた金融危機につながったと指摘して、BOAやシティグループ、、AIG(American International Group)など公的支援を受けた企業七社の幹部報酬を最大五〇%減額する措置を発表した(1)。しかし、このような減額措置を実施しても、七社の幹部六六人の長期報酬は少なくとも一〇〇万ドルになる。

 BOAは、〇九年、成績優秀な従業員に平均六〇四万ドルの報酬を支払う。ファインバーグが報酬を調査した一三六人の社員の合計報酬額は三億四〇〇〇万ドルで、一人平均二五〇万ドルだった。

 これまでに一八二〇億ドルの公的支援を受けたAIGのベンモシュ(Robert Benmosche)最高経営責任者(CEO=Chief Exective Officer)は〇九年一〇月の第四週に、従業員への社内メモで「ファインバーグの権限は、AIGの大半の従業員には及ばない」し、すでに受け取った報酬の返還を義務付けられることはないと、従業員を安心させた。事実、ファインバーグは、すでに支払われた一〇五〇万ドルに上るベンモシュCEOの報酬パッケージを承認済みであった(http://www.business-i.jp/news/bb-page/news/200910260036a.nwc)。