二 凄まじい中国の米国債購入
中国による相次ぐ米国牽制の発言にもかかわらず、中国の外貨準備の激増ぶりは異常としか表現しようがない。一九八五年から〇七年まで、つまり、米国発の金融危機が波及してくるまでの外貨準備高の時系列を示そう。
一九八五~八九年の外貨準備はわずか三三億ドル、対GDP比〇・九%であった。一九九〇~九四年には二五〇億ドルに激増、対GDP比は五・〇%になった。一九九五年七三六億ドル(対GDP比一〇・一%)、以下時系列的に記述する。括弧内は対GDP比。
一九九六年一〇五〇億ドル(一二・三%)、九七年一三九九億ドル(一四・七%)、九八年一四五〇億ドル(一四・三%)、九九年一五四七億ドル(一四・三%)、二〇〇〇年一六五六億ドル(一三・八%)、〇一年二一二二億ドル(一六・〇%)、〇二年二八六四億ドル(一九・七%)、〇三年四〇三三億ドル(二四・六%)、〇四年六〇九九億ドル(三一・六%)、〇五年八一八九億ドル(三六・六%)、〇六年一兆六六三億ドル(四〇・一%)、〇七年一兆五二八二億ドル(四六・六%)(http://www.brics-jp.com/china/gaika_jyunbi.html、および、http://www.shcs.com.cn/jp/news/pdf/10yearjinji.pdf)。
見られるように、中国政府は、〇二年から年間二〇〇〇億ドル超規模で外貨準備を積み増してきた。〇六年には、五〇〇〇億ドル以上も一挙に増やしたのである。激増という表現よりも異常な増加といった方がいいほどである。しかも、〇八年度にはさらにドルを買い増した。
外貨準備高の対GDP比で〇七年には四六・六%という数値をどう受けとればいいのか。年間所得のほぼ半分の外貨準備高というのは、とてつもない大きさである。
しかも、公表されている外貨準備高は実態よりもはるかに小さい。たとえば、〇八年第一・四半期の数値。この期の公表増加額は、一五四〇億ドルもの巨額であった。しかし、実際にはその二倍近い激増であった。
計算して見せてくれたのは、マイケル・ペティス(Michael Pettis)である。以下、同氏の叙述を下書きにしてオバマ政権成立前の中国政府の行動を説明する。
〇八年一月の外貨準備増加額は六一六億ドルであった。二月は五七三億ドル、三月は三五〇億ドル。端数を加味して合計すれば、第一・四半期の増加額は、一五四〇億ドルになる。
ちなみに、この期間の貿易黒字は、一月一九五億ドル、二月八六億ドル、三月一三六億ドル。計四一六億ドルであった。そして、黒字額を上回る米国債購入であった。流入した直接投資は、一月一一〇億ドル、二月六九億ドル、三月九五億ドル。計二七四億ドルであった。
PBOCの外貨準備のうち、三〇%は米ドル以外の通貨であったと推定されている。ドルの減価に対応すべく、比較的価値が減価していないドル以外の通貨をPBOCは、積み増したように思われる。一月一〇〇億ドル、二月一〇〇億ドル、三月一八〇億ドル。計三八〇億ドルの非ドル通貨が積み増しされた。つまり、少なくとも、オバマ政権が成立する前の中国政府は、外貨準備の多様化を最大の目標にしていた。そして、オバマ政権成立後、中国政府は、積極的にドルを買い支える政策に転換したように見える。
PBOCの外貨準備のポートフォリオについては、ほとんどが外国債で運用されていると思われる。第一・四半期で年利一%の利子収入があると推定されるので、年利四%になる。とすれば、〇八年の第一・四半期で一六〇億ドルの収入があったと推測される。
この段階では、中国政府は、積み上がる外貨準備の数値を様々な方法で圧縮しようとしていた。その一つが、預金準備率の引き上げを傘下の銀行に命令し、預金準備額に相当するドルを買わせ、PBOC自体の保有ドルを減らそうとしたことである。
〇八年一月、PBOCは、傘下の銀行の預金準備率を〇・五%引き上げた。ここで預金準備というのは、傘下銀行に強制して、一定の人民元をPBOCに預託させる額をいう。同年三月にもさらに〇・五%引き上げた。しかし、人民元そのものをPBOCに預託させたのではない。預託されるはずの人民元でPBOCが保有しているドルを買わせ、そのドルをPBOCに預託させたのである。その額は、一月では二二〇億ドル、三月では二四〇億ドルであった。
この操作によって、傘下銀行の人民元資産が減り、ドル資産が増えた。傘下銀行の保有するドル資産は端数を加味して四五〇億ドル程度であった。
PBOC側から見れば、ドル資産が四五〇億ドル減少したことになる。これで、PBOCの外貨準備を小さくすることができる。公表外貨準備増加額が一五四〇億ドルとなっているが、実際には一九九〇億ドルであったことになる。
まだある。PBOCは、CIC(中国投資有限責任公司=China Investment Corporation)(4)に外貨準備の一部を移している。年次計画で二〇〇〇億ドルをCICに移転して、主としてM&A業務をさせるためである。それは、PBOCの外貨準備高を減らす意図も併せて持つものであった。〇八年三月に最後の九五〇億ドルが移転された。これを勘案すれば、〇八年三月の外貨準備増加額は一五四〇億ドルでも、一九九〇億ドルでもなく、それよりもはるかに多い二九四〇億ドルであったことになる(Pettis, Michael, "Latest PBOC Reserve Numbers Leave Many Unanswered Questions," April 14, 2008. http://seekingalpha.com/article//72216-latest-pboc-reserve-numbers-leave-many-unanswered-qustions.html)。