消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(291) オバマ現象の解剖(36) 米中融合(5)

2010-03-13 21:12:46 | 野崎日記(新しい世界秩序)


四 米大手金融機関の中国への食い込み


 いまや米中間の貿易額は、双方向で三八〇〇億ドルを超え(US Census Bureau, US International Trade Statistics. http://censtats.censUS.gov/cgi-bin/sitc/sitcCty.pl)、この年、両国のGDPの合計は世界の三分の一になった(World Bank, World Development Indicators Database. "Gross domestic product, 2007." http://siteresources.worldbank.org/DATASTATISTICS/Resources/GDP.pdf)。しかも、米国の対中借金は、公的・民間を合わせて、オバマ大統領就任時には二兆ドルを超していた。

 これだけでも、米中間には大きな変化が生まれてくるはずである。

 まず、中国企業による米国市場での展開が活発になるだろう


 中国は、すでに、米国内に膨大な投資をしている。とくに、CICは、〇七年七月、米国の大手エクウィティ金融のブラックストーン(Blackstone)に三〇億ドルで参入、〇七年一二月には、モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)に五億ドル、九・九%の資本参加をしている。

 CICは、シンガポールのテマセク・ホールディングズ(Temasek Holdings)がモデルで、調達資金は一兆五五〇三億五〇〇〇万元(二〇七九億ドル)。CICの儲けは一日で三億ドルが至上命令という。CICは温家宝・首相の管轄下にある。楼会長は大臣級扱いである。他にも、楼は、国家開発改善委員会などの重要な部局の責任者にも要請されている。これは旧、国家企画委員会の後継である。

 CICは、多くの国営銀行の株式を所有し、中央銀行の投資部門である中央匯金投資有限責任公司(Central Huijin Investment Company)に六九〇億ドルを投じている。この国家ファンドであるCICの戦略は、資源確保に動くとともに、ハイテク産業の買収をも目指している。それはともかく、米系投資銀行が中国の国家ファンドにノウハウを提供していることだけは確かである(CICのウェブサイトによる、http://www.china-inv.cn/)。米国の論調もCICへの警戒感が強い(Morrison[2009])。

 〇八年八月六日付新華社によると、FRB(米連邦準備制度理事会=Federal Reserve Board)は、前日の五日、中国国有大手のICBC(中国工商銀行=Industrial and Commercial Bank of China)のニューヨーク支店設立を承認した。
 CBRC(中国銀行業監督管理委員会=China Banking Regulatory Commission)の劉明康(Liu Mingkang)主席は〇八年六月の米中戦略対話に出席するために訪米したさい、バーナンキ(Benjamin Shalom“Ben”Bernanke)FRB議長と会見し、中国工商銀行と同じく米支店設立を申請中のCSB(中国建設銀行=China Construction Bank)の審査を早めるよう促したとされる(http://www.excite.co.jp/News/china/20080806/Recordchina_20080806026.html)。

 また、〇八年七月には、中国工商銀行の発行株式時価総額がシティグループ(Citigroup)を抜いて、金融業で世界一になった(http://j.peopledaily.com.cn/2008/07/11/jp20080711_91069.html)。

 ロイターの企業情報によると、中国工商銀行の中の取締役会名簿には、米国金融界に関連の深い大物が三人いる。

 一人は、クリストファー・コール(Christopher Cole)である。彼は、〇六年六月から同行の重役を務めている。ゴールドマン・サックスのファイナンス投資部門議長(Chairman of Investment Banking in Goldman Sachs)でもある。

 中国人の梁錦松(Antony、Lueng Kam Chung、Liang Jinsong、という三つの名前で呼ばれている)も重要人物である。〇五年一〇月から同行の社外重役を務めている。 ブラックストーンのアジア・太平洋地域担当議長でもある。その他、香港の株式取引所(Hong Kong Exchanges and Clearing Limited)、中国モービル(China Mobile Limited)の社外重役、JPモルガン・チェース(JP Morgan Chase)アジア・太平洋地域担当議長でもある。

  梁の若干の経歴を示しておこう。董建華(Dong Jianhua)・香港行政長官の側近のひとりで、第一期・董・香港政権で行政会議委員に任命された。さらに、二〇〇一年から香港財政司司長に任命されたがすぐに辞任に追い込まれる。香港大学在学中は、学生運動や日本の尖閣諸島領有反対運動などに参加し、中国共産党や毛沢東に傾倒する国粋派のひとりとされた。また二〇〇二年一〇月に、オリンピックに出場さいた飛込み選手の伏明霞(Fu Mingxia)と結婚した。ハーバード大学MBA (一九八二年)、EMBA(一九九九年)。香港先物取引所理事 (一九八七年~一九九〇年)。空港管理局理事 (一九九〇~九八年)。大学教育賛助委員会主席 (一九九三~九八年)。外為基金諮問委員会委員 (一九九三~二〇〇一年) 。チェース・マンハッタン銀行(Chase Manhattan Bank)に入行 (一九九六年)。教育委員会主席 (一九九八~二〇〇一) 。行政会議非官職メンバー (一九九七~二〇〇一年)。JPモルガン銀行アジア太平洋地区代表に就任 (二〇〇〇~〇一年)。財政司司長 (二〇〇一~〇三年)(http://www.jlogos.com/webtoktai/index.html?jid=10663353)。

 三人目の重要人物がジョン・ソートン(John Thornton)である。彼は、〇五年一〇月から同行社外重役を務めている。フォード、インテル、中国ネットコムグループ(China Netcom Group Corp. (HK) Ltd. )、ローラ・アシュレー(Laura Ashley Ltd.)、デレクTVグループ(DirecTV Group, Inc.)の社外重役、そして、一九八三年には、ゴールドマン・サックスの共同COO(ポールソン元財務長官と組む)であった。現在も重役である(http://www.reuters.com/finance/stocks/companyOfficers?symbol=601398.SS&viewId=bio)。

 ソーントンは、ゴールドマン・サックスそのものを体現した人である。ゴールドマン・サックスのヨーロッパ拠点を強化し、M&Aを盛んに手掛けてきたし、一九九五~九六年には、ロンドンのゴールドマン・サックス・インターナショナル(Goldman Sachs International )の共同会長、九六~九八年には、ゴールドマン・サックス・アジア(Goldman Sachs Asia)会長であった。この時期は、まさにアジア通貨危機の真っ最中であり、ソーントンは、ゴールドマン・サックスのアジアにおける支店網を強化することに成功した(http://www.brookings.edu/china.aspx)。ソーントンンは、清華大学の教授兼清華大学顧問委員会(Tsinghua SEM Advisory Board)の第四代議長でもある。

 清華大学顧問委員会は二〇〇〇年に設置された。外国人としては、ヘンリー・ポールソン、石油メジャーのBP会長のジョーン・ブローン(Lord John Browne)、ウォルマート(Wal-Mart)CEOのリー・スコット(H. Lee Scott, Jr)らが議長を務めた。議長ではないが、その他、多くの米国人ビジネスマンが顧問に名を連ねている。