◆本当の内需の上に立った経済政策が必要
アメリカの悪口をさんざん申し上げましたが、ご存じのように、アメリカはまだ労働組合が強い。我が日本は情けないことにまったくだめです。こういうときに、実は、この金融危機の被害はアメリカより日本のほうが大きい。日本の産業界はいつのまにか、本業の経営数値しか発表しなくなりました。実際は、金融のほうが利益ははるかに大きいのですが、トヨタなどは発表しなくなった。発表すると過去の金融収益を全部出さないといけなくなるから、結局、本業だけしか出せないのです。日本の経済政策の失敗は、とにかく内需が全然ダメだというときに、せっかく内需拡大の機運が生じてきたのに、アメリカのバブルにおんぶに抱っこしていた。それも、安かろう、というだけでアメリカに売っていた。これがドイツと違うところです。ドイツは価格に関係なく自分たちの技術製品で売っていけますが、日本は安いということだけ。だから、中国やベトナムに進出して、そこで安く作って向こうにもっていく。この仕組みが破綻したわけです。ちなみに小泉政権ができる直前には、日本のGDPにしめる輸出移動はわずか八%でした。ところが去年は一三%で、五ポイントも上昇しています。その分のメッキが剥がれたのです。だから今、大騒ぎをしているのです。
今、大事なことは、本当の内需は何なのか、我々が一番必要とする製品は何なのかということです。そういうことの上で積み重ねる経済政策が必要なのです。
昨日、私がテレビをみていて大変腹が立ったのは、出演していた与謝野さん(経済財政・金融担当相)が「経済問題はたいしたことはない、いつか回復する、大事なことはソマリアへの派兵であり、国の形である」と言ったことです。金融の最高責任者、与謝野さんがこういうことを言うとは。ケインズは、「新古典派の連中たちは、今の嵐はいつか治まる、景気は回復するという。たしかに治まるであろう。そのときに我々は全員死んでいる」と言いました。そんなことすら知らずに金融担当大臣をやっているのかということです。ケインズはイングランド銀行の悪口をあれだけ言っておいて、自分の出身の大蔵省をもちあげてきた。そのことの意味をわかっているのかと言いたくなります。何も知らない連中がそうやって権力を握り、金融や経済に自立回復力があると言う。私はないと思います。それまでに我々の国はガタガタになっていると思います。
◆お金は地域経済に融資する金融機関に預けよう
考えてみてください。前の昭和恐慌のときは、私の父親もそうでしたが、田舎に逃げ帰ったのです。とにかくそこで食べさせてもらえた。あのときには農業があったけれども、今はないんです。保険もない。クビを切られた瞬間に全てを失うのです。こういう社会に耐久力があると思いますか。今、大事なことは耐久力を作り出していくことです。そして、それが何なのかということを懸命になってやらなければいけない。金融は、私たちの働き口を保障してくれるところに預けましょう。信用金庫に、労働金庫に預けましょう。労働金庫はそもそもストライキをするときの資金を供給するために作られたものでした。なぜそれがデリバティブをやるのか。そういう形で、とにかく原点に戻って、お金は大銀行に預けるのではなくて、近くの銀行に預け、地域の経済に融資してもらう。そういうことをやるべきです。
実はケネディはそれをやったんです。ケネディは州法銀行の免許を更新するときに、地元産業をどの程度育成したかをチェックポイントにしたんです。それからFRBに反対して、政府紙幣を出しています。今の政府紙幣論議は間違っているのですが、少なくともケネディはFRBにケンカをふっかけました。そして地元の産業をどうするのかということで、政府は懸命に動いたんです。そういう意味では、ケネディの経済政策を今もう一度見直すべきだと私は思っています。
いろいろなことを話しましたが、私が立てている問題の一つひとつは、すべて議論されていません。こういうことであります。今回の金融危機というのは、経営者が自分の部下たちのやっている営業内容を知らないということです。知ろうともしなかった。これが現代の経済社会の問題点です。トップに立つ者は、自分のやっている営業内容をすべてわかるべきです。私たちにあくどい金融商品を売りつけた連中はもうみんな辞めています。訴訟を起こそうにも相手がいない。経営者は「知りませんでした、任せていました」で終わりなんです。良心的な経済学者はもっと結集して、勉強会を開きましょう。相互交流できるような出版物を出しましょう。東大(名誉教授)の伊藤誠と私が代表になり、来月からそういう雑誌『変革のアソシエ』を出します。みなさんと知識の共有をしたいと思っています。ぜひご協力をお願いします。