消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(250) 新しい金融秩序への期待(195)金融資本主義と労働(6)

2009-12-18 07:35:00 | 野崎日記(新しい世界秩序)


◆モラルなき貸し手責任の放棄

 つまり民営化というのは、誰がどれだけということの一切を明かさずにすむ分野を作っていこうというスローガンなんです。これを投資銀行という方向へもっていったのです。投資銀行の手法は何かというと、あらゆることに投資をすることができる。具体的には、資源に投資することができる。今、投資信託会社で、ゴールドマン・サックスとAIGの二つが世界の資源、原油とかプラチナとか金、そういったものの商品インデックスを作っています。これを上場させていって、素人のおばさんたちに売りつけていくのです。だから投機というのは、石油が上がった、これは投機だというときに、専門家が二、三%で、圧倒的多数の九〇数%は素人だということです。素人を呼び込むことによって専門家はすっと逃げることができて、あとで失敗するのは絶対素人なんですね。

  これがゴールドマン・サックスとAIGなんですよ。この二つのインデックスは廃止されましたか?逆に言えば、二つしかないんです。こういったところに投資銀行が出てくるわけです。もともとAIGなんて保険会社ですから、そんな投機行為をやったらいけないのです。ところが、先ほど申しましたルービンが一九九九年の金融近代化法によって、こういうことが可能になったということです。

  投資銀行の一番の大きな問題は何かといったら、秘密裏に動くことができるし、動かすお金もわからないことです。それは、おそらくケイマン諸島で組織されている子会社でやっています。サブプライムそのものが問題なのではないのです。つまり、お金を貸した時に、従来の金融のモラルは「貸した限りは返してもらう」という貸し手責任でした。そのためには担保の価値を必死になって調べる。これが金融の責任です。ところが今は、貸した権利、受け取る権利、これを証券化するのです。一つずつ個別に証券化していくとランキングが分かる。それでは困るので、大体千ぐらいの会社を集めて、それを一つに束ねて大きな証券にする。そして輪切りにして、ランキングを作っていきます。たとえば京都人はお金をもっているけれど気が小さいから良い方を出そうかとか、大阪人はギャンブル好きだからこっちのほうを出そうかとか、本当にそんなものです。これが仕組み債なんです。一番まずい商品を買わされたのが私の勤めている大学です。

◆ギャンブルに巻き込まれる素人たち

  仕組み債というのはそういうもので、ここに加担したのが、格付け会社と保険会社です。格付け会社は勝手に格付けをする。しかも手数料を取って。儲けの四〇%は手数料です。こんなことが認可されていいのでしょうか。もう一つは保険会社。ここは会社がひっくり返ったらお金を払いますと。たとえばGMがひっくり返るかどうか、これを英語は怖いですよ、クレジット・イベントと呼ぶのです。GMがつぶれると思う人はこの指とまれと、そこで掛け金が動くんです。AIGは、GMはつぶれないと見ていますから、つぶれないという保険を売りまくります。一方、つぶれるぞと思う連中は、とにかく早くつぶすことによって早くGMからお金をもらおうという、そのせめぎ合いが今のGMです。

  リストラをしない限りお金は出さないというのは、何を言っているのでしょうか。リストラというのは首切りでしょう。首切りするとお金を渡すというのはどういうことか。結局そういうギャンブルゲームにAIGが手を染めて、そのギャンブルの一番大きな対象がGMになっているのです。だからいち早くAIGは国有化されましたが、GMが倒産するかしないかというところで、ものすごく株が下がってしまって、それでもまだ決着していない。

  オバマ政権は積極果敢に三兆ドルのお金を瞬時に出した。その貸し手責任が果たされないまま、証券化されて売られていく。そして株を買わされるのは何も知らない人たち。だから、震源地のアメリカは何一つ傷ついていないのです。我が日本は傷ついている。いっぱい買わされた地方銀行が、これからはっきりします。三月期決算が出て五月危機が出てきます。不動産や建築会社の倒産はこれからが本番です。つまり、何も知らない連中に売りつけられたその証券は、マーケットで価格をつけられた証券ではありません。マーケットから買ったものではなく、顔色を見て押しつけられたものです。買い取ってくれといっても、買い取る義務はありません。そういう倫理なき時代に入っているのだということです。

  そういう倫理なき時代に入っているなかで、ゴールドマン・サックスをどうするんだ、AIGをどうするのかというときに、一番親分のサマーズがそこからお金をもらっているというのは、もう小沢さんの比じゃないですよ。ものすごいことです。こういうことで全く検察も動かないというのが、アメリカの体質です。これは日本の新聞だから載らないのであって、アメリカでは『ウォールストリート・ジャーナル』にこれが載ります。大変なデモがこれから起こりますよ。こういう社会で、オバマは何もできない大統領でしょう。

金融権力に対して、どのように抗していくのか?


◆米国には使える公的資金はない

   ここからレジュメに入ります。最初の「アメリカには使える公的資金はない」というのはどういうことかというと、サマーズは今、NEC(国家経済会議)の委員長ですが、サマーズをオバマが呼んだのは、FRB(連邦準備銀行)の議長になってくれということでした。これは大きいですよ。バーナンキという議長がちゃんといるのです。このバーナンキがもうひとつ気に入らない、共和党であると。だからサマーズになってくれと言ったときに、どういういきさつかわかりませんが、サマーズは議長になりませんでした。とたんに、バーナンキはことあるごとにオバマにケンカをふっかけます。お金を渡すと口約束で言いますが、じゃあそれだけの国債をFRBが引き受けたのかというと、私が調べた段階では、引き受けていない。「引き受けることを検討している」なんです。検討しているということは、引き受けていない。

  そしてもうお金を執行しなければなりません。どうするのかというときにわかるでしょう。なぜ、麻生さんが外国首脳として最初にホワイトハウスに呼ばれるのでしょうか。しかもコソコソと秘密裏に会談しました。麻生さんは「日本の鉄道を買え」と言ったということですが、そんなことでコソコソすることはないでしょう。これは外交文書と一緒で、三十年後に真相がわかります。でもおそらくは、先ほど言ったように、アメリカの国債の四分の一は中国、五分の一が日本で、この二国が大事ということです。アメリカ国内でなく、世界に買わせていくというのが、まずオバマの戦略であると言いたいのです。